第十三話 ていうか、暗号だらけの写本を必死に解読するんだけど、何故か私はHな本ばっか?
「ちょっとお借りしていいですか、それ?」
「借りるも何も、それはお前達のモノだろ?」
……あ、そうだったっけ。
「ただし、内容に関してはこちらで勝手に≪複製≫させてもらったぞ」
「全然構いませんよ。それじゃあ、私達は失礼します。これで解読ができそうです」
「……ん? 解読?」
「ちょうどマコト写本の前で唸ってたとこだったんです! ありがとうございました!」
そう言って駆け出した私達の背後で。
「す、すでにマコト写本を解読しようとしていたのか!?」
……という驚きの声が響いた。いえ、まっったくの偶然です。
慌ただしく旅籠に戻った私達は、再びマコト写本と向き合う。
「えーっと、冒頭の部分を……解読書に照らし合わせると………は・じ・め・ま・し・て………はじめまして! やっぱりそうだ! ちゃんとした文章になるわ!」
「マジか。なら、ウチもさっきの本をやってみるわ」
「俺も焼きビーフン専門書で試してみる」
さあ、ここからが正念場よ! 魔神に関する重要な情報が出てくるはずだわ!
……三日後。私はようやく一冊解読が完了した。
が。
「…………」
疲れた……マジで疲れた……解読できた喜びは一切ない状態で、朝食が並ぶ食堂に着くと。
「…………」
「…………」
同じように疲れた顔をしたエリザとフリドリが、ボソボソとパンをかじっていた。
「…………まさか……あんた達も?」
朝の挨拶も忘れて、私はそう声をかけた。すると二人は私を向いて、カクカクと頷く。
「……ちなみに、内容は?」
「……ウチのは働き方改革の会議録やった」
「どっかで美味いモノを食べたときの感想」
「……そう……私のは奥さんとの【いやん】の回顧録だったわ……」
……このマコト写本ってのは、個人的な暗号日記だったっぽい。
「……どうする? 他のも調べてみる?」
「やるしかないやろ。もしかしたら目眩ましのつもりで、個人的な日記の中に紛れ込ませたかもしれへんし」
「木を隠すなら森の中? でも、あり得る」
「……よし、また一冊ずつ解読しましょう。全部解読すれば、何かわかる可能性もあるしね」
「……ウチはこれとこれを解読するわ」
「じゃあ俺はこの二冊を」
私も二冊を手に取り、再び解読作業に入る。近くでドナタが解読済みの本を広げていたけど、私はそれに構わずに没頭した。
……さらに三日後。
「……はああ……」
……目の下に隈を作って、私は食堂にいく。そこには、テーブルに頭を突っ伏した二人の姿があった。
「サ、サーチさんまで……一体どうなさったんですか?」
ずっと旅籠の手伝いをしていたエカテルが、心配そうにオシボリを渡してくれた。
「あ、ありがと。ちょっと行き詰まってるだけよ、大丈夫……」
「サーチさん、柱はオシボリをくれませんよ?」
……あ、エカテルはこっちか…………少し休憩をしないとダメね。
「その前に………二人ともハズレ?」
「……中二病的な詩集やったで」
「……長い休みの宿題の日記だった」
……そう……私のは女性の【18禁!】ハウトゥー本だったわよ。
「……一日お休み。それから三冊目に入りましょ」
「「……らじゃ〜」」
……結局私達は丸一日布団にくるまった。このとき、ドナタが解読済みの本をまた持ってったけど、注意する気力もなかった。
……休みを挟んで三日後。
「ル〜ルルル〜……」
や、やべ。半分寝てる。どうにかこうにか食堂まで着いたけど、エリザは不在、フリドリはパンをかじったまま寝ていた。
「だ、大丈夫ですか、サーチさん」
「だ、大丈夫だけどだいじょばない……そ、それよりエリザは?」
「何をしても起きません。ただ『ノミの解剖なんて器用やなぁ……』って寝言で言ってました」
……今度はノミの解体新書ですか。
「お、俺のは、ゴキブリの被害対策が延々と書いてあったぜ」
「……おはよ、フリドリ。私は今度は男性側の【禁則事項】な指南書だったわ」
「……リーダーは何故かそっち系の本ばっかだな」
「知らないわよ。それにしても……あと一冊か」
「……出だしで判断してもいいんじゃねえか?」
そうね……もう三日かけて解読する気力はないし。私は残り一冊を手に取り、最初のページをめくった。
「えっと…………あ・ふ・れ・だ・す・わ・か・さ・と・あ・せ・が…………絶対に違うと思う」
「俺もそう思う」
「解読に関わってない私でも、それは絶対に違うと言い切れますね」
もしかしたら途中から内容が変わるかもしれないけど、今回はもう知らん。今までそう思って解読して、結局愚にもつかない結果だったし。
「はぁ〜……結果として、マコト写本は単なる暗号日記だったってことね……」
この暗号日記、ホントによく考えて作られている。内容が下らないだけで。
「やっぱり銅貨一枚分の価値しかなかったな」
それは間違いない。
「あー疲れた。私は温泉浸かってから寝るわ」
「……俺もそうしよっかな」
…………。
「命令。ぜっったいに男湯に行きなさいよ?」
「わ、わかってるって。あははは……」
……こいつ、絶対に覗くつもりだったな。
「じゃあエカテル、私お風呂行ってくるかさ。それから何か軽く食べられるモノをお願い」
「わかりました」
すっかり従業員と化してるわね〜。
……トタトタトタ!
「あ、おはよ〜、さーちん」
「おはよ、ドナタ。廊下は走っちゃダメよ」
「あ、ごめんなさい。それより、とけたよ」
「ん? 何が?」
「あんごうが」
……………………はい?
「な、何の?」
「まことしゃほんの」
……………………はい?
「だ、誰が?」
「わたしが」
え……ええええええええええええっ!?
「これはね〜、ほんをまたいでよんでいくんだよ」
……?
「さーちん、いっかんのかいどくもじの、いちばんさいしょはなに?」
「一番最初の文字? 解読したヤツなら『よ』だったわよ」
「ならふりどり、にかんは?」
「い、一番最初か? 『う』だな」
それを繋げていけっての? 今手元にあるのは六巻までだから……。
「えっと、順番に読むわね。よ・う・や・く・気・が………ちゃ、ちゃんと文章になってる!」
「お、俺、エリザの持ってった本をとってくる」
「ついでだからエリザを起こしてきて! それとエカテル、やっぱ温泉は行かない。代わりに眠気覚ましの熱いコーヒー持ってきて!」
起こしてきたエリザも加わり、再び解読作業に入る。
「よ・う・や・く・気・が・つ・い・た・か・、・ば・か・も・の………ようやく気がついたか、ばかものって……ム、ムカつくヤツね……」
「それにしてもドナタのお手柄やな。ええ子や」
「えへへ〜」
いやはや、流石に早熟才子だわ。
「じゃあ気張っていくわよ。一日で終わらせるからね!」
「「「おー!」」」
そして、翌朝。
ついに解読が完了し。
「ま、間違いなく魔神の本よ」
……ビンゴでした。