第十二話 ていうか、魔神って……クトゥルー関係じゃないよね……? 「クルールーですよ」どっちでもいいわ!
「よ〜し、あとはフリドリの情報と、例の書状の解読が終わるのを待つだけね」
「そうですね」
……エカテル、せっかくゴールドサンに帰ってきてるんだし。
「ねえ、ちょっといい?」
「はい、何ですか?」
「せっかく故郷に来てるんだからさ、見たいとこ回ったりしてきてもいいのよ?」
普段がんばってくれてるのだ。それくらいはいいと思うんだけど。
「いえ、いいんです。どちらにしても、私が元々住んでいた村はもうありませんから」
「……へ?」
「私もフリドリも、オエードの郊外にあった山村の出身なんです。私を育ててくれたのは、師匠でもあった薬師でした」
「……あの、ご両親は……?」
「前回も話しましたけど、私は捨て子だったんです。師匠が見つけてくれなかったら、多分今の私はいません」
「…………」
「だけどその当時はツナツナ様の時代で、世の中が凄く荒れていたんです」
「ツ、ツナツナ様?」
「当時の上様です。犬が大好きで、犬獣人を優遇する政策ばかり行って、後々に犬公主って呼ばれてました」
……すっごくよく似た将軍を知ってるわ。
「で、優遇政策で調子に乗った犬獣人達は、あちこちで狼藉を働き始め、ついには村を襲ったりしだしたんです」
「……調子に乗りすぎじゃね?」
「全くです。私はたまたまフリドリのお父さんの元へ……あ、オエード城で料理人をされてまして、そちらにお邪魔してて難を逃れました」
知ってるわよ。そのおかげでヒドい目にあったし。
「…………私とフリドリが戻ったときには、村はもう……」
……聞いちゃいけないことだったわね。
「……ごめんね。ツラい過去だったわね……。ならせめてお墓参りだけでも」
「へ? お墓参り?」
「ええ。お師匠さんも喜ぶんじゃない?」
「い、いえいえいえ。師匠はまだ生きてます」
…………………はい?
「……今の話の流れだと、犬獣人に殺られた的に感じられたんだけど……」
「山に薬草を採りに行ってて難を逃れました」
「そ、それじゃあ会ってきたら?」
「それも必要ありません」
するとそのタイミングで、部屋の戸が開けられた。
「エカテル、ちょっと手伝ってくれるかい?」
「はーい」
旅籠の女将さんは、私に一礼して戸を閉めた。
「ま、まさか……」
「師匠です」
早く言いなさいよ!
「ちなみに、師匠の旦那さんはフリドリのお父さんです」
だから早く言いなさいよ! ていうか義姉弟になってたのかよ!
「私だってビックリだったんですよ。まさか師匠が結婚してるなんて」
……あんたもアサシンから奴隷になってるんだから、十分ビックリされるわよ……。
エカテルが手伝いに行ってる間に、フリドリが戻ってきた。
「あれ? エカテル姐は?」
「……『エカテル姐』じゃなくて『エカテル姉ちゃん』でいいんじゃね?」
「あれ、気付いてたのかよ。流石リーダーだな」
気付いたのはちょっと前です。
「ビックリだったわ〜。まさか親父がエカテル姐のお師匠さんとくっつくとはな〜」
そりゃビックリだろうね。
「エカテルならお師匠さんの手伝いに行ってるわよ」
「そっか……あ、それよりも……ほれ」
フリドリは私に手紙をなげてよこす。
「これは? ……ゲンナイよりって……」
「アレックス先生への返事だそうだ。そのまま渡せば後は向こうでやってくれるってさ」
「ありがとう。これで用件はだいたい済みね」
「……おいおい。折角魔神に関する情報を集めてきてやったのに、お礼の一つも無しか?」
「え? 魔神情報?」
「エカテル姐、絶対に忘れてるだろうと思ってたんだが……」
そういやマンドラゴラ農家の伝で、とかエカテルが言ってたわね。その後何も言ってこないってことは、完全に忘れてるか。
「……昔っからエカテル姐は忘れ物が多いんだよな……」
いたねえ、クラスに一人は必ず。
「あー、んで俺が聞き込んできた限りだと、魔神に関する詳しい情報を記した書物があるらしい」
「そんなのがあるんだ。なら古本屋で探して」
「そんなお気楽に手に入るわけねえだろ! 手書きの一品モノに決まってるだろが!」
「冗談よ冗談。で、どこにあるの?」
「わかれば苦労はねえよ。この国から持ち出されたのは間違いないみたいだが」
「ふうん……なら大陸に戻ってから探すしかないか。何て名前の本なの?」
「確か……ネクラノミコンだったな」
何だよ、その微妙すぎる名前!
「わ、わかったわ。そのネクロノミコンモドキはおいおい探してみましょ」
「ただな、そのネクラノミコンの一部を写した写本は残ってるんだってよ」
「…………まさかナコト写本?」
「いや、マコト写本」
また微妙だな!
「……そのナコト写本モドキ、どこにあるっての?」
「古本屋で安く売ってるってよ」
今度は量産されてるのかよ!
試しに近くの古本屋に行ってみたら、ホントにあった。
『マコト写本 全十巻 セール品 銅貨一枚』
……しかもめっちゃ安いし。早速購入し、旅籠でゆっくり読んでみることにした。
「…………」
「…………」
「…………」
エカテルとドナタを除いた三人で手分けして読み始める……が。
「……完全なエロ小説じゃないの……」
「何で焼きビーフンのレシピばっか載せてあるんだ?」
「アリとキリギリスの生態について、やたら詳しく記してあるんや。あほらし」
「「「……」」」
……何で『全十巻』なのに、一冊一冊でここまで内容が違うわけ?
「しかも全然おもしろくないし」
「焼きビーフン以外のレシピを希望する」
「アリとキリギリスの比較対照なんて興味あらへんわ」
……そりゃセール品になるはずだわ。ていうか、よく出版する気になったな。
「……この線は無しね。やっぱ城で見つけた古文書に期待するしかないか」
「……古文書?」
フリドリが何か反応したとき、私の念話水晶がバイブした。
「ん? 誰かしら……ってツボネさん?」
ツボネさんに急遽呼び出された私達は、大急ぎでギルドに向かった。
「ツボネさん! 古文書の解読が終わったんですって!?」
「ん? ああ、来たかい」
「ど、どうだったんですか?」
「当たりも当たり、大当たりだ。とんでもないモノだったよ、これは」
そう言って古文書を解読したモノを見せてくれた。
「え……? 何かの表?」
「これは文字の置き換えを記した暗号解読書だったのさ。この通りに文字を置き換えれば、ちゃんとした文章が出来上がるのさ」
「暗号解読書だってことはわかりました。ただ、何の暗号を解くモノなんですか?」
「長年謎とされてきた書物の解読書らしくてね」
長年謎とされてきた?
「な、何て本ですか?」
「マコト写本だよ」
な、な、何ですとぉぉぉぉぉ!?