第十一話 ていうか、大誤算で財政危機……だけど大誤算でV字回復!
「あぅあぅあぅあぅあぅ〜……」
「サーチん、しっかりせなあかんで。別にお金が全部無くなったわけやないんやろ?」
「そうですよ。また一から頑張ればいいじゃないですか?」
……一からですって?
「……その一すらない状況で、一体どうしろと?」
「一すらないって……具体的には?」
「今日の夕ご飯代すらキビしい」
私の言葉を聞いて、二人はようやく深刻な財政難を悟った。
「な、なら何でウチらに全財産を預けたんや!?」
「……ただ単純に渡す袋を間違えただけよ」
エリザに預ける予定だった袋には、貯まりに貯まった銅貨を詰め込んでいたのだ。それで標準的な額のマンドラゴラが五本買える金額だったんだけど、全財産入った袋と似た重さになったのが災いしたわけだ。
「な、何や。銅貨ばっかとはいえ、一応お金は残ってるやんか」
「あんた達が出発してすぐ、宿泊代として旅籠に全部渡しちゃったわよ」
銅貨ぎっしりの袋を見て、一瞬フロントの顔が強張ったのが印象的でした。
「な、なら……」
「あんたが持ってきた銅貨一枚が全財産よ」
……エリザは急いで落とした銅貨を拾い上げた。
「……とりあえず……今からギルドへ行って、すぐに稼げそうな仕事探そうか?」
「……この旅籠の残金すら払えませんね」
……調子に乗って特室なんかに泊まるんじゃなかった……。
「そうや! 今までのモンスターの素材を売れば……」
「ごめん。全部ビキニアーマーに注ぎ込んだ」
「っ……な、何で全部使うたんや!」
「まさかこんなことになるなんて、夢にも思ってなかったわよ!」
言い争いに発展しかかった私とエリザに、エカテルが割って入った。
「ここで言い争ったってお金にはなりませんよ? 少し落ち着きましょう」
「……そうね」
「……そやな」
……ふう。はあ。ふう。
「……よし、落ち着いた。まずは魔法の袋内に、何か売れそうなモノがないか探しましょう」
「わかった。ウチも探してみるわ」
お昼寝中のドナタを除いた三人で、魔法の袋のガサ入れを始めた。
「……何や、このサビサビの鎧や盾」
「鉄クズで売れそうね」
「折れた剣や欠けたナイフもありますよ」
「それも鉄クズね」
「?? 何で大量に陶器の欠片があるんや?」
「罠用でとってあったヤツ。さすがにこれは売れないか」
「きゃあ! モンスターの骨がいっぱい!?」
「素材になると思って」
その後もいろんなモノが出てくるけど、正直ろくなモノがない。
「……チリも積もればって……ここまでくるとホンマに山やな」
「一旦売りさばいてきますか? まだまだ出てきそうですし」
……そうね。
「エリザ、鉄クズをお願いしていい? 私はモンスターの素材モドキを売ってくるわ」
「……りょーかい」
素材を再び魔法の袋に詰め込み、再びギルドに舞い戻った。
「おいでやす〜……あら、先程の……」
「ちょっと素材を買い取ってほしいんだけど」
「わかりました。モノは何ですか?」
「いっぱいありすぎて何とも言えない」
「……………………奥でお待ち下さい」
そう言って奥の会議室に通され、そこで中身をぶちまけることになった。
「す、凄い量ですね……!」
も、申し訳ない……。
「これだけ纏まってあると、鑑定も大変……少しお待ち下さい」
……小一時間待ったのち。
「……お待たせしました。うちの鑑定部の主任を連れてきました」
「おお、確かに凄い量だな………あ、失礼。私が主任のグランド・マル・オートだ」
「あ、初めまして。私は始まりの団リーダーのサーチです…………………………ん?」
グランド・マル・オート?
「……あの、グランド・マリ・オートさんですか?」
「いや、グランド・マル・オートだ。君は弟を知っているのか?」
お、弟!?
「ずいぶん前に転移魔術の事故で、他の大陸に飛ばされたっきりなんだが……」
グランド・マリ・オート。私もすっかり忘れてたけど、駆け出しのころにお世話になった鑑定士さんだ。まさかゴールドサン出身だったとは……。
「弟は元気だったかね?」
「は、はい……」
確か今は、ギルド本部の鑑定部長になってるはず。あの変態ギルマスから逃げ出したって聞いたけど。
「ならば良い。生きていればそのうち会えるだろうさ……さて、昔話の感傷にふけるのもここまでにしようか」
いやいや、感傷にふけってたのはあんただけですから。
「それでは開始しよう……≪全体鑑定≫!」
あ、≪鑑定≫の上位スキルだ。
「……ふむ……おぅ……ほお……へぇ……わぁお!」
「……あれ、大丈夫なの?」
「はい……多分」
たぶんって……。
「この世界で数人しか使えないと言われる≪全体鑑定≫が使えるんです。だから大丈夫です……多分」
……ま、ちゃんと鑑定してくれればいいんだけどね。
「……ふむ…………整いました!」
へ?
「ゴブリンの骨が三十三体、オークの骨が二十体、レッドキャップが三体、アイアンアントが五体、大蝙蝠が十三体、ダークゴブリンが八体……」
へー、私っていろんなのを採集? してたのねー。
「……ポイズンリザードが一体に…………ア、アイスドラゴンの全身骨格!?」
……ん?
「牙もほとんど揃っている。これは高額査定できるぞ」
そうだわ。竜の骨があったんだった。
「それに………こ、これは! ゴールドラビットの!?」
……ゴールドラビット? 全く覚えがないんですけど。
「ま、幻のゴールドラビットの……これは竜以上の価値がある」
マジで!?
「ふむ……これだけの素材なら………」
わくわく。
「……よし、金貨千枚で買い取ろうではないか!」
き、き、金貨千枚ぃぃぃぃ!?
「主任、ちょっとそれは……」
「ああ、わかっている。やはり……」
ちょっと待てえいっ! 安くされてたまるか!
「わかりました! それでお願いします!」
「「……へ?」」
「金貨千枚でよろしくお願いいたします!!」
「ちょ、ちょっと待って下さい。それは……」
「今のは冗談で、実は……」
ずどおおおん!
特大のハンマーを振り下ろし、二人を睨む。
「四の五の言わずに、さっさと金貨千枚持ってこおおおいっ!!」
「「は、はいい!」」
「ふんふんふふ〜ん♪」
「あ、サーチさん。どうでしたか?」
「ふんふ〜ん♪ そっちは?」
「それがやなあ……やっぱ鉄クズは鉄クズやったわ。全部で銀貨二枚やったで」
「ふふふ〜ん♪ そうなんだ〜♪」
「……妙にご機嫌やな?」
「まあね〜♪ こっちは……金貨千枚よ♪」
「「き、金貨千枚!?」」
んっふっふ。マジで助かったわ。一発で財政危機は解決よ!
「……本当に良かったのかねえ……。金貨千枚で……」
「あちらがそれで良いと言ってたんですから、良いんじゃないんですか?」
「しかし……ゴールドラビット一体で金貨十万枚の価値があるんだが……」
「主任が下手な冗談言うからですよ。ですがあちらの早とちりのおかげで、こちらは大儲けでしたけどね」