第十話 ていうか『ぎぃぃああああああああああ!!』……私は違う意味で「ぎぃぃああああああああああ!!」
「……それで私を頼ってきたのかい?」
「他に頼れる人もなく……」
一晩謎の書状の解読に挑んだけど、どうにも読むことはできなかった。あまりにもヘタクソ……もとい達筆すぎる。
「……ま、そういうのの専門家もいるからね。何とかしてあげるよ。それよりも、だ」
ぎくっ。
「昨日のあの騒ぎ。あんた達がやったんじゃないだろうね?」
ぎくぎくっ。
「お城が崩れた件ですよね? 私は知りませんけど?」
「……私はオエード城崩壊の件だとは、一言も言ってないけどね?」
ぎくぎくぎくっ。
「あれだけの騒ぎですよ。普通に『昨日のあの騒ぎ』って言われたら、それしか浮かびませんけど?」
「…………本当にあんた達じゃないんだね?」
「あのですね、私達があの城を崩す手段があると思います?」
「そらあ……無理だろうね。悪かったね、疑ったりして」
「……いえ」
……背中は変な汗でびっしょりだよ。
「私達ゴールドサン人にとって、オエード城は誇りなんだよ。それを崩壊させたヤツがわかったら、どんな手を使っても捕まえてやるんだけどね」
…………………やべえ。絶対に知られちゃダメだわ。
「わかりました。私達もその件は調べてみます」
「頼んだよ。もし犯人を見つけたら、私が個人的に報酬を出す。生死は問わないからね」
ひ、ひええ……だから町中ピリピリしてたのか……。
「わかりました。詳しい情報をください」
「後で書面にして渡すよ」
「助かります」
「ああ、それと大砲の量産の件だがね、もう幾つか設計があがってるよ」
早っ!
「あんたの話を聞いた大砲職人が燃えててねえ。持ち運び可能な小型の大砲なんて、今まで誰も考えた事なかったからねえ」
「あはは……」
それって前世のパクりですから。
「一週間以内には形にするってさ。量産できるようになるのも時間の問題だろうね」
「で、でしたら、転移魔術とかで量産品を送ってもらう……なんて可能ですか?」
「大丈夫さ。モノだけの転移なら、ゴールドサンにもできるヤツは何人かいる」
ぃよっし! これで大砲の件も何とかなりそうね。
「でしたらお願いします」
「なら詳しい話を詰めたいんだけどさ、この交渉はあんたとすればいいのかい?」
…………それは考えてなかったわ。
「……うーん……私は単なる雇われ冒険者だから、そこまでの権限は……」
「サーチさん、でしたら連合王国軍のグリムさんでしたっけ? あの方に話を振っては?」
……あ、そっか。軍の責任者みたいだし、こういう場合はうってつけか。
「ツボネさん、念話水晶は持ってます?」
「あるよ」
「なら私の雇い主と繋ぎますので、その人と細かいことは打ち合わせてもらえますか?」
「そうだね。その方が手っ取り早くて助かる」
自分の念話水晶を使ってグリムに念話し、ことの次第を説明する。
『……わかった。なら後は俺が引き継ぐ』
「それじゃお願いしまーす…………っていうわけで、引き継ぎ完了。ツボネさんの念話波長も送っときました」
念話波長ってのは……電話番号みたいなのだ。
「うふふ、久々に大きな仕事だわ」
「……せいぜいぼったくってやってください」
私のお金じゃないし。
「それにしても、あんたが獅子将と知り合いとはねえ」
………はい?
「……誰?」
「誰って……グリム様だよ。まさか獅子将の異名を知らなかったのかい!?」
し、獅子将……あの顔の獅子将……。
「……っっ」
「笑い堪えてるの丸わかりだよ? 私の前だからまだいいけど、本人の前では気をつけるんだよ?」
……我慢できる自信ないっす……ぶくくっ。
大砲の交渉は無事に成立した。あとは魔神の伝承とマンドラゴラか。
「あー、おかえり」
旅籠に戻ると、ドナタが一人で留守番していた。ドナタの周りを囲むメンツがさらに増えている。
「……ポイズンラットにベビースライムじゃ飽きたらず、今度はソードスネイクを支配したの?」
「えっへん。どなたふぁんくらぶかくだいちゅう」
会員はモンスターオンリーなのが悲しい。
「それよりエリザ達は?」
「えりざとえかてるせんせえは、まんどらごらをもらいにいった。ふりどりはしらない」
フリドリは例の……ゲンナリ先生だっけ? そこへ行ったんだろう。
「マンドラゴラを取りに行ってくれたんだ。エカテル様々ね」
そのとき、急に外が騒がしくなった。
『マンドラゴラ緊急警報! マンドラゴラ緊急警報! これより五本のマンドラゴラが収穫されます! 直ちに耳を塞いで下さい! 繰り返します、マンドラゴラ緊急警報発令です!』
外の拡声器? から、そんな内容の放送がされていた。
「マ、マンドラゴラ緊急警報……?」
「なんなんだろう?」
すると、旅籠の主人が血相を変えて部屋に飛び込んできた。
「お客さん、早く耳を塞いで!」
「「へ?」」
「いいから早く!」
そう言いながら旅籠の主人も耳を塞いだ。私達もそれに習って耳を塞ぐ。
「い、一体何が……?」
呟いた、その瞬間。
『ぎぃぃあああああああああああああああああっ!!』
「っっっ……!!」
な、何!? この凄まじい音は……!?
「ま、まだまだですよ。あと四発来ますからね!」
あ、あと四発?
やがて。
『ぎぃぃあああああああああああああああああ!!』
『うぎゃああああああああああああ!!』
二発、三発と続き。
ビシッ! ビシビシ!
「か、壁に亀裂が……!」
「あと二発あります! ここが踏ん張りどころですぜ!」
ふ、踏ん張ってどうにかなるの!?
『『うっぎゃああああああああああ!!』』
い、今までで一番デカい音!
「ば、ばっか野郎……! 二本同時に抜きやがったな……!」
メリメリメリ!!
最後のヤツが止めになって、私達の部屋の壁が崩壊する。
メキメキメキ……ズシィィィン!
ズズン! ガラガラ……
ドッサアアアン!
「うわああ! 神社の御神木があああ!」
「家の屋根があああ!」
「外壁があああ!」
い、一体何が起きてるのよ……!?
「マ、マンドラゴラを抜いたときの音!?」
確かにマンドラゴラは引っこ抜くと悲鳴をあげるって聞いてたけど……!
「ゴールドサン産のマンドラゴラは活きが良くってよ、抜く時の悲鳴が段違いなんだよ」
壁の修理をしている大工さんが、この国のマンドラゴラ事情を詳しく教えてくれた。
「その度に警報がなって教えてくれるから、人体への影響はないよ。ただ、老朽化した建物なんかには致命的みたいでな、マンドラゴラ緊急警報の後は大工はてんてこ舞いなのさ」
ちなみに壊れた家屋の修理代は、マンドラゴラの生産組合が全額補償してくれるそうだ。
「これだけ活きの良いマンドラゴラなんでな、普通のとはまるで違う。薬を作ったとしても、効果の差は歴然だぜ」
「……毎回弁償して、よくその組合は潰れないわね」
「その分は値段に反映されてるから、組合は痛くも痒くもないさ」
「…………はい?」
「一本で家が立つくらいの金額なのによ、よく売れるんだよな〜」
い、一本で家が立つ……? た、確かエリザに預けたお金は…………家五件分はあったわよね。
「すいません、ただいま戻りました」
夕方、エリザとエカテルが帰ってきた。
「エカテルエカテルエカテル!」
「ななな何事ですか!?」
「お、お金! お金はいくら余った!?」
「は、はい?」
「ああ、これだけ余ったで」
チャリーン♪
……銅貨一枚。
「危なかったでー、ギリギリで支払えたわ……ん? どしたん? サーチん?」
「あの? サーチさん?」
「うっぎゃああああああああああぁぁぁ……はう」
マンドラゴラ並みの悲鳴をあげ、そのまま卒倒した。
久々に破産危機。