第七話 ていうか、ビキニアーマーの性能テストと一緒に、エリザの新しい盾の性能テストもやってみる。
「たりらりら〜♪ ら〜ら〜ら〜♪」
……カッポカッポカッポ
……ガラガラガラ
「あ、来た来た〜♪ くるくるり〜ん♪」
ん〜? 突然馬車が止まった? 馭者をしてたエカテルが、私を指差して叫んでるみたい。
そして。
……ポッカポッカポッカ
……ラガラガラガ
「え、ちょっと! 何で馬車が後退してるのよ!? ていうか、セキトって後ろ向きで歩けるのね……」
流石……って感心してる場合じゃない!
「セキト止まりなさい! ストッッップゥゥゥゥ!!」
キキキキィィ〜〜!!
よっし、止まった。流石はセキト!
「止まっちゃ駄目です! 早く出発を!」
「やべえヤツが来ちまうじゃねえかぴょん!! セキト、早く出発をぴょん!!」
や、やべえヤツ?
「往来でくるくる回る変態に関わっちゃマズいぴょん!」
往来でくるくる回る変態って…………さっきまでの私じゃない!
「ヘンタイ呼ばわりとはいい度胸ね……! 命令! 二人揃って道の真ん中で裸踊り!」
「え……いやあああああああああっ!」
「や、止めるんだぴょおおおおんっ!」
裸の二人とすれ違いで馬車に戻った私は、セキトに声をかけて出発した。しばらく踊って反省しなさい。
店を出てからエカテル達と合流するまで、浮かれて踊ってた私も悪いんだけどね……。
「「ぎゃあああぁぁぁ……」」
遠ざかっていく悲鳴をバックミュージックに、私は旅籠へと向かった。
「……あ、お帰り……って、それがおニューのビキニアーマー? めっちゃええやん」
「ただいま♪ いいでしょ〜……くるくる」
「わかったで、別にくるくる回らんでええよ。それより、肝心な魔神情報はどうなったんや?」
……………あ。
「しまった。それがあったんだった」
「……?」
「今は罰で道の真ん中で裸踊りさせてる」
「………………いつか刺されるで、サーチん」
あら、あの二人が私の背後を取れるのかしら。
「……ま、そのうち戻ってくるでしょ。それよりさ、ちょっと性能テストがしてみたいんだけど」
「性能テストぉ? ビキニアーマーの?」
「そうよ。何かおかしい?」
「イヤな、性能テストするようなもんか、それ」
失礼ね、必要に決まってるじゃない。
「要は見せびらかしたいだけやろ」
す、鋭い。
町の郊外まで移動し、エリザと対峙する。
「えりざVSさーちん?」
「単なる模擬戦よ。武器は刃引きしたほうがいい?」
「いや、必要ないで。ウチも新しい盾を試してみたいんや」
「新しい盾……か。いいわ。なら私も本気でいくわ」
エリザはいつもとは違う盾を取り出し、三盾流の構えをとる。私も羽扇を作り変え、久々のリングブレードを構えた。
「何や、いつもの短剣二刀流や無いんやな」
「これが一番慣れてるのよ。それじゃあ始めようか?」
「いつでもええで」
「ドナタ! 何でもいいから合図して!」
「うん、わかったー」
……。
………。
…………。
「……ドナタ、もう合図していいのよ?」
「あ、そーなの? じゃあひゃくかぞえたらかいしで」
「「長いわ!」」
「そう? ならすたーと!」
「……って早いわ!」
「ドナタ、十数えてくれればええで!」
「わかったー……いちにいさんしいごおろくななはちきゅうじゅう!」
「い、いくわよ〜」
「お、お〜」
……何とも緊張感に欠ける戦いの始まりだった。
「はあああっ! ちぇい!」
最初に蹴りを繰り出す。最近多用するので、ブーツを試してみたかったのだ。
ズガアンッ!
「うぉ!? 凄い威力の蹴りやな!」
ん? 蹴った感触が軟らかい?
「どうや? 盾全体が軟骨亀の甲羅で作られてるんや。打撃には絶大な効果があるで!」
「だけどそれじゃシールドバッシュできないわね!」
「それはないでぇ!」
足を押し返すように、シールドバッシュを……って硬い!?
「……魔力に反応して強度が変化するの?」
「ご名答や! 強弱の盾の名前は伊達やないで!」
そう言って今度は反対側の盾を振ってくる。
「そんな小さい盾じゃ、ダメージなんか受けないわよ!」
リングブレードで受け流せるように構える。体勢を崩したところに、おしおキックでトドメね。
「うりゃあ!」
グガギィ!
な、何これ!? めっちゃ重い……!
「うぐぐ……くはあ!」
ズザザザザッ
重さで振り切られて、結局距離を空けさせられた。
「う、ウソでしょ? 体積と質量が全然比例してないじゃない!」
「ふっふっふ。これも特別製や。魔力で盾の重さが自在に変えられるんや」
何よそれ!?
「ど、どう考えてもシールドバッシュ用の盾じゃない!」
「そうや。やけどこの盾の良さがわからんおっちゃんもおるんや!」
……はあ?
「重量石で作られたシールドバッシュ専用の盾、重力の盾の威力、サーチん自身の身体で試させてもらうで!」
重さを自在に変えられるなら、一撃でアウトは必須。なら!
「動きを鈍らせればいいだけよ! くらえ、モンタ流毒霧!」
至近距離での毒霧。これなら避けられないでしょ!
「ところがどっこい! それも対策済や!」
そう言って突然背中を向ける。すると背負っていた盾が、鈍く光り始め。
「え……!? 毒霧が……消えた!?」
「これが対魔術の切り札や。魔術だけやなくブレスも無効にする魔力食いの盾、これさえあれば毒霧も怖ないで!」
……スゴい。スゴいわ。けど……。
「後頭部ががら空きだっつーの」
すぱああああん!
「あぎゃあ!」
エリザの後頭部に鉄製のハリセンがヒットし、勝負ありとなった。
「イタタ……後頭部は盲点やったわ……」
「それ以前に敵に背後を見せるのってどうなの?」
「……そやな。まだまだ改善の余地はあるな」
「…………」
「……? 何や? ビキニアーマーに不具合でもあるんか?」
「……いえ。動きやすいし、重さも感じない。皮膜も、蹴る際にはまったくジャマにならないし」
「何や、悪いとこはないんやな」
「うん、そうなの。そうなんだけどね……」
何か引っ掛かる。とても重要なことを見落としてる気が……。
「……いつもより動きは良かったから……たぶん気のせいね」
「……ならええか。それじゃあ終わりにして、エカテルとフリドリを回収しに行こか」
…………………あ。
「……サーチん……忘れてたんやな」
その後、道端で精魂尽き果てた状態の二人を発見し、回収した。数日間、二人の視線から殺気を感じたのは……気のせいじゃないと思う。
「命令。二人とも私への恨みを忘れなさい」
「「はい、忘れました!」」
……これで解決するんだけどね。