第五話 ていうか、ビキニアーマーの製作開始! 「……ハアハア」
「よし、とりあえず……脱げ」
ばきめきどごおっ!
「ぎゃあああ! チカンヘンタイゴーカンマああああああっ!!」
「ちょ、ちょっと待てい! お主の正確なサイズを知りたいだけ」
がんがんがん! めきめきめきごきぃ!
「うっぎゃあああああ! チカンボクメツヘンタイユーザイゴーカンマキョッケイいいい!!」
「や、止めい! 止めんかあああ! ビキニアーマーみたいな素肌密着型、正確なサイズがわからんと作れんだろがああっ!!」
……………あ、そうね。
「すんませんした、あははははは」
「……作るの止めるぞ」
「申し訳ありませんでしたあ!!」
キレイな直角お辞儀で、遺憾砲を発射した。
……ジャンピング土下座までやって、どうにか許してもらえた。
「わかりました、脱ぎます」
がちゃがちゃ
「うむ、すまんの」
シュルッ
「うおっ!? ちょっと待て、全部脱がんでええわい!!」
「あ、そうなの?」
下を半分くらいまで下げたところで、店主さんに止められた。
「正確な採寸ができれば十分だ。すまぬが上だけ脱いでてくれれば良いよ」
「おふこーす♪」
「……さっきまで『チカンヘンタイゴーカンマ!』とか言って、店内で大暴れしていたのと同じ人間とは思えんわい」
「あ、あのね、いきなり『脱げ』なんて言われれば、誰だって似たような反応するって!」
「…………そうだな。今後は気を付けるわい」
そう言って店主さんと数人のお弟子さんで、採寸が始まった。
「お、お腹……ハアハア」
「お、お尻……ハアハア」
「……ちょっと、このお弟子さん達はどうにかならないの?」
「すまんの。悪気はない……と思う」
……悪気しか感じられないんですけど。
「足……ハアハア」
「手……ハアハア」
「……だからさあ……」
「胸……ハアハアおぐぉ!?」
「店主もかよ!!」
細かい採寸のあと、ビキニアーマーの設計段階に入る。
「設計……ハアハア」
「設計……ハアハア」
「……ようやく理解したわ。あのお弟子さん達は興奮してハアハア言ってるんじゃなくて、普段から語尾にハアハアを付けるのね」
「そうだ。おかげで誤解される事が多くてな」
そりゃそうだろ! 買い物で「お会計……ハアハア」とかやられたら、速攻で成敗されるレベルだよ!
「縦線……ハアハア」
「横線……ハアハア」
……どう見ても縦線と横線に興奮してるヘンタイにしか見えないわよね。
「それより、いい加減にトップを付けろ」
「あ、忘れてた」
「……お主の方がよっぽど露出狂だぞ」
うるさいっ!
「……こんな感じだな」
「へえ……逆鱗でカップの部分を作るんだ」
「他にも、お主から提供された竜の素材を使わせてもらう。これだけあれば、相当強靭なビキニアーマーになるだろう」
「ど、どれくらい?」
「ブレス系の攻撃は完全に無効化できるな」
ビキニアーマーで!? スゴいな!
「丈夫さも桁違いだ。千切れ飛ぶような事もないだろう」
「………………そう」
「……? 何故に残念そうにしている?」
「え? そ、そんなことはありませんよ……おほほほ」
「変態……ハアハア」
「露出狂……ハアハア」
「…………」
「ま、待て! 鈍器は止めろ鈍器は!」
「ならサクッと行けばOK?」
「刃物はもっとマズいわああああっ!!」
「鈍器……ハアハア」
「刃物……ハアハア」
「お前らもさっさと逃げんか!!」
詳しい話も詰めたので、一旦店を出ることにした。明日にはできるらしい。
「た、盾をもう少し見たいんやけど!」
「明日また来るから! だから柱を離してちょうだい!」
歯医者いくのを嫌がる子供か!
「それじゃおじちゃん、またあしたね」
「よ、よければ泊まっていきなさい……ハアハアぐぼおっ!?」
「師匠のお前までハアハアするなっ!」
「「師匠瀕死……ハアハア」」
……もうヤダ、この店。
「セキト、フルスピードでお願い!」
ヒヒーン!
私に了承の嘶きを返したセキトは、スタートから飛ばしてくれた。ていうか、めっちゃ早いな!
「マズいわね……フリドリのヤツ、吸い尽くされてるかも」
「吸い尽くされてるって……干物にされとるんか!?」
「え〜、ふりどりのひものなんてやー!」
私もイヤだよ! ていうか、ドナタの前でする会話じゃなかったわね。
「と、とにかく阻止するで! どうでもいいっちゃいいんやけど、流石にエカテルの手ぇ汚すわけにいかへんしな!」
……フリドリの心配を一切してないのが清々しい。
「え? えりざ、ふりどりをたすけないの?」
「え? そら勿論……」
「たすけないの?」
「あ、いや……」
「たすけないの?」
……キラキラと輝くドナタの純真な瞳に、エリザは何も答えられなくなった。
「う……うぅ……」
「もちろん、ふりどりも、たすけるよね?」
「あ、あ、当たり前や! ウチが責任持ってフリドリを助けたる!」
「ていうことは、もし【いやん】な状態になってても、エリザが突入してくれるのね?」
「へ!? い、いや、それは……」
「えりざ……ふりどりをたすけないの? たすけるっていったよね?」
「うぐぐ……わ、わ、わかった! それもウチがやったるわい!」
「ぜったい?」
「絶対や!」
「ほんとのほんとにぜったい?」
「ホンマのホンマに絶対や!」
「よし、言質はとったわよ」
「へ?」
「じゃあドナタ、約束通り今日の夕ご飯はリクエストに応えてあげる」
「わーい! はんばーぐ! はんばーぐ!」
「はいはい」
「ちょ、ちょっと待ちいな! 何や、今の会話!?」
「何やって……私とドナタが結託してただけですけど何か?」
「なにか?」
「け、結託やて!?」
「そ。エリザに全部任せるために、ドナタの監修の下、一芝居打ったわけ」
「な……! サーチん、きったないで! こんなん無効や!」
「あれれ〜? ねえドナタ。エリザ、『ウチがやったるわい!』って言ってたよね〜?」
「いってたー!」
「むぐ……! お、覚えとけよ、サーチん!」
「エリザ、それはチョイ役の悪党が言うセリフよ?」
「むぐぅ……! う、うわあああああん! サーチんが苛めるぅぅぅ!!」
夜遅くに旅館……じゃなくて旅籠に戻り、部屋の前で待機する。
「……別段、怪しい声は聞こえないわね」
よし、今ね。
「エリザ先生、お願いします」
「しま〜す」
「ぅぅ〜……わかったわ! 要は部屋の中から炙り出せばいいんやろ!? 文字通り炙り出してやるわ!」
え、ちょっと。三盾流のフル装備でどちらへ?
「三盾流奥義、爆走の舞!」
どっがあああん!
げっ! 突進でドアをぶち破った!?
「すぅ〜……≪火炎放射≫!!」
ゴオオオオッ!!
な、何でエリザが≪火炎放射≫できるのよ!?
「うっぎゃああああ! あっちぃあっちぃあっちぃぃぃぃ!」
「いやああああ! 火事よ火事よ火事よおおおっ!」
あ、中から人が飛び出してきた。
「どうや! 人以外には被害を出さなんだで!」
部屋を覗いてみると、確かに何も焦げていない。いやはや、器用というか、何というか……。
「ねえ、さーちん。このひとたち、だれ?」
「「へ?」」
「な、何なんですか! 私達は部屋の掃除をしてただけですよ!」
あ、あれ? 従業員の方々?
「あ、あの……泊まってた二人は?」
「お、お出掛けですが……」
「あ、サーチさん。早かったですね」
「もう少し時間がかかるかと思ってたぜ」
……後ろをみると、仲良さげに買い物袋を持ったエカテルとフリドリ。
「…………仲居さん! こいつが! こいつが全部やったんです!」
「な、何を……!」
「……お客様、我々に≪火炎放射≫をなさった件、事務所にてゆっっくり聞かせていただきます!」
あ、仲居さんと従業員さんの目が据わってる。
「ウ、ウチが悪いわけやないで! 全てはサーチんが」
「私は≪火炎放射≫しろ、とは言ってないわよ? それはあんたの判断でしょ?」
「ぅぐ!?」
「さあさあお客様。事務所へ御同行願います!」
ズルズルズル
「う、恨んでやるぅぅぅ!!」
そのまま引き摺られていったエリザは、翌朝まで戻ってこなかった。
「……それにしても、何でエリザは≪火炎放射≫ができるんだろ?」