第四話 ていうか、エカテルの意外な弱点が発覚し、フリドリが被害にあってドナタが猫かぶり。
「この国で一番の防具屋かい?」
「いえ、防具屋じゃなくて防具職人です」
「似たようなもんじゃないか」
売るのと作るのは別です。
「なら間違いないのはオレジーズだね。オエードに店を構えてるよ」
オレジーズね、オレジーズオレジーズ……よし、覚えた!
「ただねえ……」
「な、何ですか?」
「オレジーズは公家御用達の職人だからねえ……そっち関係の仕事を沢山抱えてるはずだから、注文に応じてくれるかどうか……ま、私から一筆書いとくけどね、あまり期待しないでよ」
「オエードか……エリザ、馬車でどれくらい?」
「意外と近いで。大体三十分くらいやな」
「ぃよっし、レッツラゴオ!!」
「ちょい待ちちょい待ち! エカテル達に一言言ってかんとマズいやろ!」
………あ、そうね。
「……やっぱウチがストッパー役で付いて正解やったわ……」
ひ、否定できない……。
「とりあえず旅館……やなかった、旅籠へ戻ろか。ちょうどエカテル達が戻ってれば好都合やし、最悪は書き置きしとけばええやろ」
「そーね♪」
エリザの提案を受け入れ、一旦旅館……じゃなくて旅籠に戻ることにする。
「エカテル! エ・カ・テ・ル! エ〜カ〜テ〜ル〜!」
「……サーチん、怖いで」
うるさい。
「な、何ですか!? 何事ですか!?」
あ、第一エカテル発見。キャッチ!
「ひぁ! な、何なんですか!?」
「エカテル〜、ちょっとお願いがあるんだけどさ〜……ふーっ」
エカテルを捕まえて、ついでに耳に息を吹き掛ける。
「ひあああああああっ!!」
「わ、ちょっと?」
すると、エカテルは腰砕けしてしまい、そのままペタンと座り込んだ。
「や、や、止めてください! わ、私、耳は本当に駄目なんです!」
あらら、弱点発見。
「え〜? えかてるせんせえ、みみがよわいの〜?」
「そうよ、ドナタ。だから止め「わたしもやる♪」……へ?」
「ふーっふーっふーっ!」
「いひゃあああ! だ、駄目ぇぇぇ! いやあああああああ!」
「ちょ、ちょっと! ドナタストップストップ」
「えい、かぷっ」
「ふぎゃあなやまかなーーーー!!」
あかん。エカテルの目がイッちゃってる。
「エエエエカテル! あとはお願いね……アデュー!」
「えかてるせんせえ、ばいばーい」
ドナタを捕まえて、エリザと共にそのまま旅籠からドロンした。
「……おーい、戻りやした。リーダーいるか?」
「…………」
「あれ、エカテル姐だけか。皆は?」
「…………」
「ど、どうしたんだ? 目が据わってるぜ?」
「……フリドリ」
「な、何だよ。にじり寄ってきて?」
「……一緒にヘブン」
「な、何? ってちょっと待て! 落ち着け! 落ち着けって……ぎゃあああああああああ!!」
「……ん?」
「ん?」
「あ、空耳かな? フリドリの断末魔の叫びが聞こえたような……」
「そ、それは……エカテルに捕まったんとちゃう?」
……おそらくイクとこまでイッちゃってるでしょうね……あ、逝くの間違いかな。
「……ま、いいか。成り行きでドナタも連れてきちゃったけど……いいよね?」
「ええんちゃうか? 社会見学っちゅーヤツや」
「ちゅーやつ! ちゅーやつ!」
……出会ったころのドナタと、明らかにキャラが違うような……?
「ねえ、ドナタ」
「なーに、さーちん?」
「あんたさ、少し前は暗いキャラじゃなかった?」
「そうだよ」
「な、何で今は違うのかしら?」
「だって。かなたとそなたもにたきゃらだから、かぶらないようにしてたの」
計算高! この年齢にしてはめっちゃ計算高いな!
「だからわたしがいちばんもてたんだよ〜。んふふ」
……す、末恐ろしい……。
「サーチん、今のうちに矯正した方がええんちゃう?」
……今度から授業の項目に『人格矯正』の時間を設けましょう。
「……お、もうすぐやで。あと少しでオエードや」
エリザの≪上空風景≫はヘタなナビより正確だ。その言葉通りに、森を抜けた先に……。
「果てしなく広がる田園…………っておい! オエードどこいった!」
「ありゃ? ……ああ、堪忍堪忍。地図間違えて見てたわ」
……前言撤回。地図は正確でも、見る人による。
それから三十分くらいして、オエードの町並みが見えてきた。ずいぶんと違ってたわね。
「おお……何よ、このエセお江戸は」
イメージ的には、京都の古い町並みに名古屋城がドーンッと建ってる感じ。お江戸感が全くない。
「サーチん、さっさと行くで。今日中に戻らんと、フリドリの命に関わるさかいな」
「……………………そうね」
「おい、今めっちゃ迷ったんとちゃうか?」
あ、わかっちゃった?
「一応、仮にも、不本意であるけど、フリドリは仲間や。少しは心配したれや」
「いやいや、エリザにだけは言われたくない」
「あ、にんぎょうにんぎょう」
私とエリザの会話中に、ドナタが近くの店のショーウィンドウに駆け出した。
「ちょっと、ドナタ。私達から離れちゃダメよ」
「でもでも、このおにんぎょう、すっごいよ」
ドナタの視線の先にあるのは……からくり人形ね。可愛い女の子の人形二体が、梯子を登ったりしている。
「人形の専門店かしら?」
「いや、違うで。看板には……鍛冶屋風のデザインがしてあるで。字は読めんわ」
どれどれ……『俺爺図鍛冶店』……オレジーズ!?
「エ、エリザ! ここ! ここだわ、オレジーズ!」
「マジか!? 何ちゅー偶然や……」
「いえ、これは偶然じゃないわ。おそらくビキニアーマーの神のお導き……!」
「……えらいピンポイントな神様やな」
「さあ、いくわよ! たのもおっ!」
暖簾をくぐり、店内に入る。店の中には見事な出来栄えの甲冑や盾が並んでいた。
「た、盾や。盾がぎょうさんあるで!」
「ならエリザは盾を見ててよ。私は店主と話をしてくるから……たのもおっ!」
……し〜ん……
「たのもおっ! たのもおっ! たのもたのもたのもたのもたのもおっ!」
「うるっせえ! 誰だ!」
「客だ!」
「今日は休みだから客は帰れ!」
「じゃあ客じゃない!」
「もっと帰れえええっ!!」
「話だけでも聞いてよ! ツボネさんからの紹介なんだから!」
「何? ツボネの姉御から?」
「これ、紹介状」
店主は私から紹介状をひったくると、乱暴に手紙を広げた。
「……ふむ……確かにこの汚い字は姉御だな。仕方ねえ、ツボネの姉御からの紹介じゃあ無下にはできねえ」
「じゃあ……!」
「話だけは聞いてやるよ」
大王炎亀の逆鱗を使ってビキニアーマーが作れないか、と聞いてみる。
「ふむ……面白い事を考えたな。確かに逆鱗ならビキニアーマーにはうってつけだろう」
「そうでしょ! そうでしょ!」
「こういう難しい題材にこそ、職人の腕が試されるってもんだ」
「じゃ、じゃあ……!」
「だがな、公家の仕事が山のようにあってな……正直、暇がねえんだ」
そ、そんなあ!
「あと二ヶ月先なら余裕はあるんだが……」
二、二ヶ月……。そんなに待てないわよ……!
「ねえ、しょくにんさん。むずかしいの?」
「うおっ!?」
何気なくドナタが近寄ると、店主はたじろいだ。
「ねえ、できないの?」
「そ、そういうわけじゃ……」
あれ、態度が軟化してる? 今なら、もしかして……!
「お願いします! ムリは承知で作ってください!」
「無理だ」
……ちっ。やっぱダメか。
「だめなの?」
「うぐっ……」
あ、やっぱりドナタから言われると弱いみたい。
(ドナタ、もしOKさせたら三日間訓練は免除ね)
(ほんと!? がんばる!)
ドナタはおもいっきりぶりっ子形態になり、目をうるうるさせて。
「ねえ、さーちおねえちゃんのねがいをかなえてあげてください。おねがい、おにーさん!」
その瞬間、店主の鼻から赤い飛沫が散った。
「ぃよっしゃああ! この俺の腕前、存分に振るってやろうじゃねえかああ!!」
やった、ドナタのお手柄!
「ねえさーちん、なんでおじさん、はなぢをだしてるの?」
「……触れないであげなさい」
あとから、オレジーズ鍛冶店の店主は根っからのロリコンだと発覚した。
「ドナタ、あのおじさんには近寄っちゃダメだからね?」
「……うん。そうする」