第三話 ていうか、サムライに舞妓はんに忍者まで!? なのに大砲の製造は可能って……。
次の日、手始めにエリザとギルドに向かった。
「ていうか、この国にギルドってあるのかな?」
「あるんちゃう? 一応『二十四時間、世界中であなたの身近に……ギルド』ってのがキャッチフレーズやったで」
コンビニかよ!
「仕方ない、適当に聞いてみますか……あ、すいません」
「ん? 何だ………どわあ!」
へ? どわあって?
「おおお主、そのような破廉恥な格好でよく人前に出られるな!」
「ハレンチ? これくらいで? 素っ裸よりはマシじゃん」
「そ、そういう問題ではない! 婦女子たる者、そう簡単に素肌を晒すべきではない! よいか、服装の乱れは心の乱れと言ってクドクドクド」
何よこいつ、急に説教を始めやがった。
「べ〜つにちょっとくらいいいじゃないのよ……スリスリ」
「クドクドクド……へ? ひ、ひ、ひああああああああああああっっ!!」
「うわあ!? び、びっくりした……って、あれ? 逃げちゃった……」
男が触ってきて女が逃げるってのはあるだろうけど、その逆はあまり聞いたことがない。
「な、何してんねん! せっかく情報が聞けそうやったのに……!」
「あ〜、ごめんごめん」
……その後も、聞き込みを続けるたびに。
「破廉恥だ!」
「破廉恥です!」
「破廉恥じゃあ!」
ハレンチハレンチと連呼され、まったく話を聞いてもらえない。
「……サーチん、どうもこの国の人達には、ビキニアーマーは刺激的すぎるみたいやで」
「そ、そんな……! この国の人々は、私のアイデンティティーを否定すると言うの!?」
「そ、そこまで深刻に考えんでも……とりあえず外套でも付けとき」
「そうね」
「か、軽いな! 深刻に考えてたんちゃうんか!」
「フッ、所詮私は世の中には受け入れられない孤高の存在なのよ……」
「あーはいはい。さっさと外套羽織りぃな」
そう言ってさっさと先にいくエリザ。ちょっと、スルーしないでよ。せっかくボケたのに……。
外套でビキニアーマーを隠すと、効果はてきめんだった。
「ギルド? ならこの先の角を曲がったとこだよ」
「そうですか、ありがとうございます」
「いやいや。気にしないで」
……基本的には親切なのね。
「ギルドがあってくれて助かったわ。ホントに世界中にあるのね」
そうなると、唯一の例外だったのは旧ランデイル帝国か。帝国が崩壊した今は、裏で活動していたギルドもようやく陽の目を見ることができてるだろう。
「ここの角を曲がって……あ、あれちゃうか?」
そこには、私達のような冒険者がたむろする建物があった。
「ここ……やよな?」
………間違いないと思う。看板に『義留度』って書いてあるし。
「……まさか職員全員、特攻服着てるんじゃないでしょうね……」
入ったとたんに眼つけられたら逃げよう。
「よし……頼もおっ!」
バンッ!
勢いよく入口を開くと。
「「「起こしやす〜!!」」」
「……へ!?」
「ようこそゴールドサンギルドへ! 職員一同、心から歓迎致します!」
「え、あの……」
ま、舞妓さんの群れが……?
「さあ、ずずいっと受付へ! ずずずいっと奥へどうぞどうぞ!」
へ、ずずずいって……。
「ちょっと、何なのこのギルドは!?」
「ウチが知るわけないやろ……って、何やあれ!? ごっつい行列が出てきたで!?」
舞妓さんに強制的に運ばれてきた先には、広々とした空間にいっぱいの人がいた。
「な、なあ……あの真ん中にいる、キセル持ったおばはんってぶぎゃ!!」
「だぁれがオバサンだってぇ!?」
エリザがオバサン呼ばわりした女の人は、光速を超えかねないスピードでエリザを叩き伏せた。
「は、早い……!」
「なぁに、私の動きを捉えられるなら、まだ見込みはあるよ」
綺麗……というよりは妖艶という言葉が似合う女の人は、私にニッコリと微笑みかけ。
「ようこそ、ヒルダの娘さん。私がゴールドサンギルドを束ねてるツボネって者だ。よろしくね」
リアルお局さんがきたああああっ!!
「院長先生……ヒルダをご存知なんですか?」
「一度だけ戦った事があってねえ。それ以来の仲だよ」
「一度って……A級冒険者の〝飛剣〟のヒルダとですか!?」
「ああ。島が無くなるまで戦ったんだけどね、結局決着が着かなくてねぇ……」
し、島が無くなるまでって……。
「あの、おツボネさんって……「ツボネだよ」……ツボネさんって、元A級冒険者だったり?」
「違うよ。単なる遊郭の用心棒だったさ」
遊郭の用心棒ってどんだけ強いのよ!?
「結局遊郭をシメる立場になっちゃってさ、何故か今じゃギルドの元締めだよ。あはは」
その壮絶な人生を「あはは」で済ませられることがスゴい。
「それより、よく私のことがわかりましたね?」
「ヒルダが念話してきてね、ビキニアーマーの子が来たら全面的にバックアップしてやってくれって。あちこちからあんたの出現情報が入ったからねえ、すぐにわかったよ」
珍獣扱いかよ!
「で、ギルドを訪ねてきたって事は、私に何かしてほしいんだね?」
「はい。実は私達は……」
この大陸に着いてからの経緯を話し、大王炎亀への対策として、大砲の製造をできる職人を探していることを伝えた。
「……成程ねえ。確かに大王炎亀相手なら、大砲くらい持ち出さないと無理だろうねえ……」
「戦ったことがあるんですか?」
「この島にもいたんだよ。結局私が絶滅させちゃったけどね」
「「絶滅!?」」
「いやあ、あの時は自然保護局から散々叱られたっけ。あはは」
……この人を連れていった方が早いかも。
「ていうか、大砲を知ってるんですか!?」
「知ってるも何も、ゴールドサンには大砲を作る職人がいるんだよ。主に船に載せるヤツだけどね」
何とおおおっ!
「どうか! どうか口利きをおおおっ!」
「ちょっと、落ち着きなさいな。要は陸上で手軽に使えるサイズで欲しいんだね?」
「はいっ!」
「……多分何とかなるだろ。おい、誰かいるかい?」
ツボネさんの呼び掛けに応じて、天井から忍者が降ってきた………忍者!?
「はい、元締め!」
「このお嬢ちゃんの話は聞いてたね。今すぐ手配してやりな」
「はいっ!」
おおおっ、ありがたい〜〜!!
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
「いいっていいって。ヒルダの娘の頼みじゃ断れないよ」
「……よし。これで大砲の件は解決ね。ね、エリザ?」
「そ、そやな」
「というわけで、私用に移ります! ツボネさん、もう一つ頼みたいことが!!」
「な、何だい? さっきより積極的じゃないかい?」
「……ビキニアーマー目的で大砲の件に必死やったんやな……」
否定はしない。