第二十一話 ていうか皆さん、メガロドン・和名ムカシホホジロザメって知ってますか?
再び潜水を開始したけど……ブレードルフィンって、とにかく好奇心があり過ぎ! ちょっと進むとすぐに一匹が道を外れる。それに群れ全体が付いていく。で、それに引っ張られて、私達も巻き込まれる……!
「零距離射撃、発射!!」
ズドムッ!! ボシュ!
巨大タコの体内を、私が放った大砲の弾が蹂躙する。内臓をぐちゃぐちゃにされたタコは、そのまま動かなくなった。
「い、一体何回零距離射撃をやらされるのよ……! 今のも、あと少しで食われるとこだったわよ!」
再び死体に群がるブレードルフィンを横目に、ため息を吐いた。
「あれや。ブレードルフィン達がデカいモンスターを呼び寄せとるんとちゃうか?」
あり得る。
ガツガツガツ!
キューイ!
モノスゴい勢いでタコを平らげると、有無を言わせずに潜り始めた。で、私達も引っ張られて潜水を再開する。
「イカが三匹やろ? タコが今ので二匹目。グソクムシに至っては三十を越えとる。しかも全部平らげとるんやから、どんな胃袋しとるんか見てみたいくらいやわ」
キュキュ!?
顔を青くして一斉に振り返るブレードルフィン。解剖なんかしないから安心なさい。
「それにしても、水深はどれくらいかな? そろそろ水圧が気になってくるんだけど」
「す、すいあつ?」
「えっとね…………あんまり深く潜ると、不思議な力で潰されちゃうの!」
「そ、そうなん!? ならブレードルフィン達もヤバいんちゃう!?」
「え!? えっとね…………み、水の加護っていうスキルで大丈夫なの!」
「あ、そうなんや。ならええけど……ってウチらはよくないやん!」
一人でパニクりだすエリザ。良かった、エリザが単純でホントに良かった……!
「……今度からは発言に気をつけよ」
水圧なんて、どうやって説明すればいいのかわかんないわよ……。
パニクるエリザを宥めながら、さらに深く潜っていく。すると。
キューイ!
ブレードルフィンが何かを指し示す。
「ん? 何かあるのかしら?」
私はホタルんをサーチライト状にして、ブレードルフィンが指し示す方向を照らす。そこには、ボロボロの帆があった。
「ち、沈没船だわ……!」
フリドリが言っていた覇者の御霊は船と一緒に沈んだはず。なら、この沈没船の中に!?
「やったわ! この船で間違いなうううわわわっ!」
「な、何や何や何や!?」
セリフを最後まで言えないまま、私達はブレードルフィンに引っ張られて岩陰に沈む。
「い、いきなり何なのよ!!」
キュキュキュイ……!
何故かブルブル震えているブレードルフィン達。い、一体何事……?
「サ、サーチん……! う、上……!」
え? 上?
エリザに言われて、上を見上げる。
「…………!!」
……正直、声をあげなかっただけマシだと思えた。ただただ、恐怖した。
私が照らし出したモノ。それは……。
巨大な無機質な瞳。私の身長を遥かに越える三角の歯。そして何より、特徴的な背中のヒレ……。
ム、ムカシホホジロザメの……さらなる巨大版だった。
……巨大なサメはしばらく私達を見つめたあと……何もせずに、巨大な尾ビレを私達に向けて去っていった。
「…………はあ! はあ! はあああ……し、死ぬかと思った……」
「サ、サーチんが光を向けた時は……終わったと思うたわ……」
……私も思った。ていうか、リアルにあの顔を見ることになっちゃったしね……。
「な、何なのあれ? ムカシホホジロザメにしては、デカさが桁違いだし……」
「何や、知らへんの? あれが海王テラロドンや」
テラロドン!? メガロドン→ギガロドン→テラロドンってこと!? ギガ飛び越えやがったよ!
「船を襲ったりせえへんからあまり知られていないんなけどな、ジャンプしただけで大津波を引き起こすっていう伝説のモンスターや」
「……ってことは、Sクラス?」
「いや、あくまで伝説上の存在やさかい、クラスは決まっとらんはずや。まさか実在したとはな……」
それにしても……初めてかな。見た瞬間に「殺される」と感じた相手は。ヘタしたら絶望の獣より上かもしれない。
「……まあせっかくいなくなったんだから、今のうちに沈没船に行きましょうよ」
「そ、そやな……」
ブレードルフィン達も恐怖から解放されたのか、ゆっくりとではあるが泳ぎ始めた。それにしても……あれだけデカいんだから、食べる量ハンパないわよね。よく私達は食べられなかったもんだわ。
キュキュキューイ!
ブレードルフィンの一匹が私を引っ張り、沈没船の甲板に下ろす。
「……間違いなくこの下ね」
甲板に空いた穴の中から、光の柱のようなモノが伸びている。それを辿って視線を上に向けると、徐々に大きな渦になっていくのが見て取れた。
「この光が時化を起こしてるんは確定や。ちゅーことは、この光の先にあるんが……覇者の御霊やな」
無言で穴へ飛び込む。そう深くない船底に降り立つと、光の源へ近づいた。
「……これが……覇者の御霊……」
竜の彫刻が施された座に納められた水晶は、どこか深い闇を写し出していた。
「ま、いいや。とりあえず魔法の袋に収納して……」
素手で触るとマズい気がしたので、ミスリル製の火バサミを作り、掴んで袋に投げ込んだ。
「…………よし、異常なし。覇者の御霊、獲ったどおおおっ!」
おもいっきり叫んだ瞬間、凄まじい威圧感を感じ。
バキッ! メキメキッ!
……気がついたら、デカい歯が私に迫っていた。
ザーン……ザザーン……
「……遅いですね、サーチさん……」
「あのメチャクチャな連中が、そうも簡単に殺られるとは思えねえが……」
「……ん!? きた!」
「へ? 何がですか?」
「わたしのともだち!」
「友達って事は……ブレードルフィン達ですね。サーチさん達が戻ってきたんですね!」
「んーん。ぶれーどるふぃんさんじゃないよ。もっと、もーっとおっきいともだち!」
「「おっきい……友達?」」
……ゴゴゴゴゴゴゴゴ!
どばああああああん!!
「な、何ですか!? ひ、ひええええええええ!!」
「ぎゃ、ぎゃああああ! 何だこりゃああああ!?」
「おかえりー、てらろどんさん! さーちんたちは?」
ブッ! ブッ!
「「ひええええええっ!!」」
ボフッ! ボフッ!
「ありがとー、てらろどんさん!」
ザザザザザザザアアン!! ガボボボ……
「テ、テラロドン……ですって……?」
「で、伝説の海王を≪統率≫したってのかよ……!」
「……ぶはっ! ぺっぺ!」
な、何が起きたの!? ていうか、ここって砂浜!? エリザは……私の隣でスケキヨってる。
「おかえりー、さーちん」
「ド、ドナタ!? 一体何が起きたの!?」
「んっふっふ〜。ともだちにたのんで、かえりおくってもらったの!」
「帰りって……私達の?」
「そう」
「と、友達って……?」
「てらろどんさん」
………………は?
「……サーチさん……ドナタが言っている事は本当です。先程テラロドンが現れて、サーチさん達を吐き捨ててから去っていきました」
「は、吐き捨てて……?」
「てらろどんさん、すこしてれやさんだったよ〜」
……そ、そうっすか。
こうして私とエリザは、世界で初めて海王テラロドンの存在を確認した……だけではなく、初めて食われ、初めて吐き捨てられた。これって自慢になるのかな……?