第二十話 ていうか、やっぱり定番の巨大イカが出てくる……「ガツガツガツ」う、うまいの?
「それではサーチ、行きまーす!」
「え? えーっと、エリザ、行くでぇ!!」
ざさざざざっ! ざばーん!
ブレードルフィンにヒモを括りつけ、砂浜から引っ張られながら進む。完全に海に入り込むと、そこは見事なほどの青い世界……なわけもなく、やっぱ真っ暗だった。
「ホタルん、最高に明るくして」
びかああああっ!
眩しすぎるくらいの光が海の中を照らし、ようやく視界が開けた。
キューイ?
光が気になったらしく、大きな目をキョロキョロさせて、ブレードルフィンが私の周りをぐるぐるし出した。
「あ、そっか。深海生物と同じで、光が無くても見える目を持ってるんだ」
キンメダイなんかがいい例だ。
「さすがに眩しすぎたか……ホタルん、少しだけ光を弱めて」
さっきよりは若干光が弱くなる。するとブレードルフィン達も気にならなくなったのか、私から少し離れた。
「多分『目立つ』って教えたかったんやないん?」
あ、なるほどね。深海生物もハデな光に寄ってくるらしいし。チョウチンアンコウみたいなヤツね。
キュイ! キュキュキュイ!
するとブレードルフィン達がさっきとは明らかに違う様子で声を発した。
「……何か……いる?」
私はホタルんの光をサーチライト状にして辺りを照らす。すると、何か巨大な影を写し出した。
「あ、いた! ……って、うわ! めっちゃデカいイカじゃん!」
「げえっ! B級モンスターのコウテイイカや! 船の大敵やで!」
ぎゃあああ! 人魚の巣以上に危険とされる、体長10mオーバーの巨大イカ!? 私の光に寄ってきたんだわ!
「あんなんブレードルフィンでも敵わんで! 逃げの一手や!」
その場に留まり、魔法の袋から弾を取り出し、同時に≪偽物≫で大砲を作り出す。
「サ、サーチん!?」
「こいつは私が殺るわ! エリザは少し離れててくれる?」
弾と火薬を装填し、いつでも撃てる態勢を整える。あとは狙いを定めるだけ……。
「……なんだけど……速いな」
巨大な割に高速で移動するイカ。どうやら獲物を選んでる最中らしい。なら。
「ホタルん、高速で点滅して」
サーチライトで照らした状態で、ピカピカと点滅を起こす。するとイカは私を最初の獲物と決めたらしく、長い触腕を私に向けてそのまま突っ込んでくる。
「……そのまま来なさいよ。そのままそのまま……」
これだけ素早い相手だと直前で避けられる可能性がある。なら、方法は一つ……!
「サーチん、早よ撃たな! もう目の前やで!」
「零距離射撃しか……ないっしょ!!」
ズドオオン! ズチュン!
目の前に来ていた口に向かって放った弾は、そのままイカの体内を貫通する。青色の血を撒き散らしながら、コウテイイカは暗い海の底へ沈んでいった。
「……ふう……」
キュキューイ! キュキューイ!
「え? 何々々? わああああ!?」
急に加速したブレードルフィンに引っ張られるように、私も海底へ沈んでいった。
ガツガツガツ!
……なるほどね。いっくらデカいモンスターでも、死んじゃえばただのエサってわけだ。
「あんなデカいの、美味いんかいな」
「知らないわよ……」
死んだコウテイイカを貪り食うブレードルフィンの姿は、あまりにもおぞましかった。さっきまでの愛らしい姿は夢幻だったらしい。
「ん!? 何か寄ってきたで!」
コウテイイカの周りには、ブレードルフィン以外のモンスターも姿を現していた。全てコウテイイカ目当てらしく、私達には興味も示さない。
「あ、グソクムシだ。デカいわね……」
「グソクムシ?」
「あそこのダンゴムシみたいなヤツ」
「うわ、気色悪……」
前世でも気持ち悪かったけど、こちらのはさらにパワーアップしてる。特に色合いが。
「お、こっちに向かってきたで!」
あらあら、グソクムシちゃんは私達を敵と認識したらしく、何匹かがこっちに泳いでくる。
「こういう場合は足場があった方がいいわ。海底で戦いましょ」
「そやな」
海底に降り立つと、≪偽物≫で銛を作る。エリザは何かよくわからないモノを取り出した。
「な、何それ?」
「何それって……盾に決まってるやんか」
「盾!?」
私から見えるのは持ち手のみ。肝心の盾が見当たらない。
「立派な盾や。よう見てみ……って言ってる場合やないな!」
私も銛を構え、迫ってきたグソクムシに相対する。
「ちぇい!」
がぎんっ!
投げつけた銛はあっさりと弾かれる。
「かったいなあ……なら節を狙って斬るしかないか!」
銛を素早く霧散させ、いつもの短剣二刀流にシフトする。
「やあっ!」
ザグンッ!
斬れた! 腹から一刀両断されたグソクムシは、痙攣しながら海底に落ちる。
「三盾流奥義、連の舞!」
後ろではエリザが、持ち手しかない盾で連撃を……ウソぉ!?
「うららららら! おらあっ!」
ギピィ……
グソクムシは変な声をあげると、青色の液体(たぶん、血)を吐きながら沈んでいった。
「よっしゃあ! 四匹片付けたでぇ!」
「ちょ、ちょっと待ってよ! 何で倒せたの!?」
余談ではあるが、私がエリザと会話できるのは、細い糸状の空気の線で繋がっているから。糸電話方式だ。
「これ、持ち手だけとちゃうで。よう見てみい」
近づいて、まじまじと見てみると………ん? 細い糸みたいなのがいっぱい絡まって……?
「これはモンスターの糸で作られた盾や。透明なせいで見えにくいけどな」
モンスターの糸!?
「こう見えて、めっちゃ丈夫なんやで」
触ってみると、スゴい弾力を感じる。確かにこれなら、並大抵の斬撃ははね返すだろう。
「その名も蜘蛛糸の盾や! どや、格好いいやろ!」
「……カッコいいも何も、見えないんだからコメントのしようが……」
「……そやな」
何かシュンとしちゃった。ごめんなさい。
「それにしても、その小さい盾でよく四匹も仕留めたわね」
「そ、そうや。それなんや? ウチにもさっぱりわからへんのや」
あんたにわからないことが、私にわかるわけないじゃない。何となく死んだグソクムシを見てみると、どれも大きな外傷はない。ただ共通して、口等から血みたいなのを吐き出してる。ていうことは、内臓にダメージがあったってことよね?
「……盾は硬いんじゃなくて軟らかい素材よね…………あ、そうか!」
「わかったんか?」
「盾の素材が軟らかい分、殴ったときのダメージが外側より内側に響くのよ。古流武術の裏当てや透かしみたいなもんね」
「……??」
「あ、わかんないか。ボクシングのグローブなんかで例えると、素手で殴るよりもKO率が高いの。グローブの重さもあるけど、クッションによる振動も原因だって言われてるわ。要はそれ」
「???」
「えーっとね……その盾で叩くと、内臓ときにダメージを与える効果があるの!」
「あ、そうなんや。リファリス様から頂いたんやけど、凄い盾やったんやな……」
糸でできてるから空気や水の抵抗も少ない。殴るにはもってこいの盾ね。
「……だけど、そんな盾で相手を倒しちゃうあんたがスゴいってこともあるけどね」
普通はここまでダメージは与えられないと思うけど……まあファンタジーだからあり得るのか。
「それが三盾流が世界最強たる由縁や!!」
あーはいはい。
「サ、サーチん! 何か突っ込んでえな! ボケたウチの立場がないやん! なあ、サーチん!」
知らんがな。