第十九話 ていうか、誰が海に行くか、民主的に決めますか?
「……というわけで、この簡易護符があれば海の底へ潜れます」
「ちょっと待って下さい。突然『というわけで』とか言われても、全然意味がわかんないっすよ」
「え〜、説明するの〜、超めんどいっていうか〜」
「な、何か異常にムカつくな……」
ムカついてもらえて光栄です。
「この簡易護符はね、このロケットに魔石をはめ込むだけで、かなり強力な護符になる超便利品なのです!」
「マ、マジっすか!?」
「凄い……他の大陸では、そんな高性能なモノが普及してるんですね」
少し前に戻ってきたエカテルが異様に関心する。
「まだ発明されたてで、そこまで普及してないけどね。で、今現在手元にあるのが、私のとエリザが持ってる二つだけ」
「二つ……か」
「それじゃあエカテルとフリドリで決定ね」
「「何で!?」」
あ、やっぱり嫌がるか。
「フリドリはともかく、何故私まで!?」
「おいエカテル姐、何気にディスってんじゃねえよ!!」
「はい、二人ともストーップ。そんなにイヤなの?」
「「嫌です!」」
「なら民主的に、挙手による多数決で決めましょう」
「た、多数決ですか……それなら、まあ……」
「俺もそれなら……」
「じゃあさっさと終わらせましょ。エカテルとフリドリの二人が行った方がいいと思う人、手を挙げて!!」
私とエリザが挙げる。
「命令、手を挙げて!」
「「うぐっ……」」
「……はい、全会一致でエカテルとフリドリに決まりました〜!! はい、拍手〜!!」
パチパチパチ
「はい、命令! 拍手〜!」
「「うぐぐ……」」
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!
「はい、民主的に決まりました。良かった良かった」
「「良くなあああい!!」」
あ、珍しくエカテルまで反抗的。
「あらあ? ご主人様の命令に逆らうつもり?」
ニヤリと笑うと、二人はたじろいだ。
「んっふっふ……」
「な、何ですか!?」
「な、何だよ!?」
「……命令。この場で二人で【いやん】しなさい」
「はあああああっ!? ちょっとサーチさん!? 何を言い出すんですか!」
「…………エカテル姐」
「フリドリ、あなたも何か言ってください!」
「……俺……俺……」
「ちょちょちょっと! 何を興奮してるんですか!」
「俺……俺はもおおおっ!!」
「いやああああああっ!!」
「いただきまあああすぐふぅおえあ!?」
寸前で私の蹴りが凶行を防ぐ。
「え、あれ?」
「ごめんごめん、冗談だから。命令は撤回ね」
「へ?」
「それじゃ行こうか、エリザ」
「そやな」
「へ? へ?」
何が起きたのかわからず、私とエリザの顔を見るエカテル。
「ま、まさか……私をからかったんですか?」
やっと気づいたか。
「あはは。最初から私とエリザで行くつもりだったわよ」
「も、もう! お願いですから止めてください!」
プリプリと怒りつつも、フリドリの治療を始めるエカテル。何だかんだ言って心配なのね。
「なあ、サーチん」
「ん?」
「からかうのが目的やったんなら、フリドリの股間を蹴りあげるのは……やり過ぎやったんとちゃう?」
口から泡を吹いて白目を剥くフリドリを見ると……少しだけ可哀想な気もした。
早速近くの道具屋で風属性の魔石を購入し、簡易護符にセットする。
「これでええんか?」
「たぶん私達の周りを、風の結界みたいなのが覆ってるはず」
「う〜ん……確かめようがあらへんな」
「あ、大丈夫大丈夫。エカテル、ちょっと!」
治療中のエカテルを呼ぶ。
「はい、何ですか?」
「ちょっとこっちに来てくれない?」
「はーい……何でしょう?」
エカテルが私の1m手前まで迫ったとき。
びゅごおっ!
「きゃああ! な、何ですか、これ!?」
エカテルは強烈な風によって、後方へ押し戻された。
「どう、私に近寄れそう?」
「うぐぐ……む、難しいですね。相当強力な結界です」
「……ていうわけだから、水の中でも有効そうよ?」
「なら大丈夫やな。おおきに、エカテル」
「いえ。お役に立てて何よりです」
ペコリと頭を下げてから、再びフリドリの治療へと戻っていった。
「それにしても……意外だったわね……」
「まさかの紫やもんな……」
エカテル、自分がスカートだったって忘れてたわね。
「さーちん、もんすたーみつかったよー」
ドナタの様子を見に行ってみると、イルカみたいなモンスターと戯れていた。
「こ、これがモンスターなの!?」
見た感じは普通のイルカなんだけど……?
「うん、もんすたーだよ。ぶれーどるふぃんっていうの」
ブレードルフィン? ………あ、ヒレが刃になってる。だから刃物イルカなのか。
「ひれでね、ふねのそこをきりさくの。ずばずば〜って」
見た目の割に怖いな、ブレードルフィン!
「だけどてつせいのふねだと、ひれがかけちゃうの」
……木造船限定っすか。残念モンスター確定。
「それじゃあみんな、さーちんとえりざをおねがいね!」
キュイキュイ!
おお、なかなか可愛い声ね。
「はい、じゃんぷして〜!」
キュイ!
ざばーん! ざばーん!
ス、スゲえ。
「ドナタ、あんたこれで飯食っていけるわよ?」
「ほんと? それもいいかも」
……統率者っていうより調教師よね……。
「はい、みんなで≪火炎放射≫〜!」
キュイキュイ!
ゴオオオオッ!
「水棲生物が火を吐くのかよ!」
「だって、みずだとくさにはこうかがいまひとつだし」
ポ○モンの相性をこの世界に持ち込まないでくれるかな!?
「ドナタ、水タイプやから氷の方がええんちゃう?」
「あ、そっか〜」
「だ〜か〜ら〜……っていうか、今覚えさせたの!?」
「うん、そうだよ」
……わざマシンでも持ってるのかよ。ていうか、さすが早熟才子。
「それより早よ行こか。簡易護符の効果が切れてまうで」
「大丈夫よ。いくつか予備も持ったから」
海の中でモンスターに遭遇したら……やっぱ銛がいいのかな?
「エリザ、あんたは海の中での武器はどうするの?」
「あ? そんなん盾に決まってるやないか!」
「盾って……水の抵抗でキビしくない?」
「それはやな、ちゃんと水中用の盾があるんや」
何それ!?