第十七話 ていうか、ついに東側に到着。だけど猛烈な時化のおかげで、全然海が渡れない!
ザア……ザザ〜ン
ああ、久々の海だ。波の音に、潮の香り。やっと東側へ到着したんだ……!
「……だんだん明るうなってきたな。海を越えれば、久々にお天道さん拝めるで」
「へ!? 暗黒大陸の影響を受けてないの?」
「ギリギリ影響下を抜けるんや。ゴールドサンいう名前の由来らしいで」
な、なるほど。
「となると、久々にホタルんもお休みできるわね」
「せやな。ウチらが寝る時以外は、ずっと働きっぱなしやもんな」
「あ、エカテル。薬で真っ暗闇が見えるようにはできない?」
「瞳孔を開く作用がある薬はありますが、実際の灯りの方が効率的ですよ」
うん、ホタルん様々ね。ちなみではあるが、エカテルとフリドリもホタルはくっついている。ドナタにはついてなかったけど、ホタルと同様の効果がある小型モンスターがいるみたい。
「わああ、おそらがあかるい!」
キ、キキ!
その小型モンスター、ミニミニ大蝙蝠は三匹でドナタの肩にくっついている。なかなか愛嬌があって可愛い。
「そうですよ、ドナタちゃん。もっと明るくなりますからね。もうすぐゴールドサンかあ……」
「……あんまり帰りたくないんだけど、それでも懐かしいなあ……」
エカテルとフリドリも懐かしそうにしている。
「どれぐらいぶりなの?」
「そうですね〜……私は五十年くらいですかね」
「俺は振られてすぐだったから……百年くらいか」
……さすが長命種。
「それにしても振られたって、一体誰に振られたの?」
「おいおい、いくらリーダーでも人のプライベートにまで口出しするのは止めてくれよ」
「口出しする気なんかないわ。単なる好奇心よ……じゃあ命令、全部白状しなさい」
「うぐ! ひ、卑怯だぞ……! エカテル姐に振られたんだ!」
「……何だ、エカテルか」
「サーチさん、この話題は避けましょう」
「何よ〜、二人のなれ初めくらいは話しなさいよ」
「話しなさいも何も……幼なじみから自然に、というパターンですよ?」
……そんな王道パターンが「自然に」あってたまるかっ。
「じゃあ振られた原因は?」
「さ、さあ……覚えてな「浮気です」言うなよ!?」
「うっわ、最低やな」
「さいてー」
あらら、ドナタまで敵に回ったか。
「……ていうかさ、ドナタ意味わかってるの?」
「え? わかんない」
……だよね。そこまで早熟だと怖いし。
「ていうかさ、あんたエカテルの何が不満だったわけ? はっきり言って、エカテル美人だと思うわよ?」
背中まで伸ばした艶やかな栗色の髪、知的な印象を与える整った顔。背丈だって平均より上だし、プロポーションだって悪くない。胸はリルよりやや上程度だけど、本人が気にしていない以上は欠点ではない。しかも性格は控えめで優しい……おい、非の打ち所がないじゃないか。
「だってよ、胸ないじゃねえか」
……一言で全て粉砕しやがって。
「そうなんですよ。デートの時も、巨乳の人ばかり視線で追うんですよ!?」
「それで浮気したわけ? 救いようがないわね」
「……ま、それだけじゃねえんだけどな……。でもよ、できるなら……あの時の俺をぶん殴ってやりたいと思うよ」
……へえ……少しは後悔してるんだ。
「何で浮気をうまく隠さなかったんだってぅぐふぉ!?」
「やっぱ最低!」
大事な場所を押さえてうずくまるフリドリを放置して、私達は港町へと向かった。
「へ? 船がない?」
「……全て沈んでしまいまして……」
ちょ、ちょっと待ってよ。全部沈んだって……?
「何かモンスターでも現れたん?」
「いえ。モンスターは全く問題ありません」
「なら海賊ですか?」
「いえ、海賊でもありません。はっきり言って、世界で一番安全な航路だと思います」
「じゃあ何なのよ!? 急に海が荒れだしたとでも言うの!?」
「そうです」
……は?
「ある日を境に……あれだけ穏やかだった海が、異常に時化るようになってしまったんです」
敵は自然現象かよ!
「……参ったわね……」
「……どないせいっちゅうねん……」
「……困りましたね……」
「こまったこまった」
仕方ないので、港近くの旅館にチェックインしたんだけど……ホントにどないせいっちゅうねん。
「ねえ、魔術で嵐を止めることってできるの?」
「できない事はありませんけど……それこそ伝説級の魔術士でもない限り無理ですよ」
伝説級……か。
「……ハイエルフの女王とか、魔王とかならどう?」
「はいぃっっ!? そ、それなら文句なしでしょうけど……?」
ま、向こうの大陸だから難しいか。転移してきても、MP切れで使いモノにならないだろうし。
「……この大陸で有名な魔術士って?」
「いますけど、先程の方々には遠く及びません」
……なら魔術ではムリか。
「他の手を考えないと……」
「はい! はーい! わたしにあんがある!」
「え、ドナタに? あんって言っても餡じゃないのよ?」
「わかってるよっ!!」
あ、ドナタが怒った。
「ごめんごめん。で、どんな案なのかな?」
「むぅぅ……もういわないもん?」
「そう? ならいいけど」
「え……」
あら、シュンとしちゃった。
「……うー……いいあんなのにぃ……」
「わかったわかった。言いたいんなら言いなさいよ」
「……うん、わかった。わたしが≪統率≫でうみのモンスターとなかよくなって、きょうりょくしてもらえばいいかなって」
海のモンスターに協力してもらう……か。状況によっては使えるかも。
と、そのとき。
ガチャガチャ バタンッ!
「はあ、はあ……や、やっと見つけた……」
汗だくになったフリドリが、部屋の扉を開けて倒れ込んできた。
「遅かったわね、変態」
「はあ、はあ……へ、変態言うな……」
置いてきたときに「命令、全力で合流しなさい」って言っておいたけど、ちゃんと守ったみたいね。
「お、鬼かよ……」
「え? 私は獣人とのハーフだけど?」
「そういう意味じゃねえよ……はあはあ」
「サーチん、そんなん放っとき。はよ時化の対策を考えなあかんで」
「わかってるわよ。けど魔術がダメとなると……」
「何だ、何かあったのか?」
「命令、敬語」
「うぐぅ……何かあったんすか?」
「実はね……」
フリドリに詳しい状況を説明する。
「普段は穏やかな海が、突然荒れだしたんだな……うぐ……ですよね?」
「そうよ。魔術で何とかならないかって言ってたとこ」
「…………」
フリドリは何か考え込んでいる。
「……何か考えがあるの?」
「……その時化が起きる前、船が沈んだりしてないか……うぐ……してませんか?」
「時化の前に? さあ、それは聞いてないわね……重要なことなの?」
「もしかしたら、その時化の原因を何とかできるかもしれない」
マジで!?