第十六話 ていうか、やっぱり女性の中に男は一人ってツラい? 「そうかなあ?」「……やっぱ変態」
「おい、動け!」
………。
「動けよ、こら!」
………。
「な、何なんだよチクショウ……! 動けってんだよ、バカ馬ぁぁぁ!!」
ヒヒィィン!
ぱかあああん!
「うぎゃああああ!」
ゴロゴロゴロゴロ………パタッ
「…………フリドリ。あんたは何をやってるの?」
「……う、馬が俺の言う事を聞かねえから……ちょっとキレたんだよ」
「そしたら逆ギレされて、後ろ足で蹴っ飛ばされて……」
「そ、その勢いで荷台まで転がってきて……」
「私の胸に飛び込んできたと?」
「や、柔らかいっす、リーダー」
「……………………秘剣≪竹蜻蛉≫」
ざしゅざしゅざしゅざしゅざしゅずばあ!
「ぎゃああああぁぁぁぁっ!!」
パッカパッカパッカパッカ
ガラガラガラガラ
「い、いってえええ!」
「ジッとしてなさい」
セキトの蹴りと私の必殺技で半死半生の身になったはずなのに、今は叫ぶことができるくらいに元気になったフリドリ。流石にエカテルの薬はよく効く。
「うぐぅぅ……ふ、不条理だあ……」
「ていうかさ、馬車を動かそうとしてたあんたが、何でセキトに蹴られる展開になったわけ?」
「お、俺が聞きてえよ!」
「ていうか、何で私の胸へまっすぐ吹っ飛んできたわけ?」
「それはフリドリが変態だからです」
「エカテル姐はうるせえよ!」
……もう少し滞在したかったクライベーツだったけど、ゴールドサンへと急がなければならない身の上。泣く泣く出発するしかなかった。
で、そこで仲間になったフリドリ。雑用は得意だって言ってたから、馭者を頼んだんだけど……。
「何なんだよ、あの馬。男の言う事は一切聞かないのかよ……」
「と言うより、変態のあなたの言う事を聞かないだけよ」
「変態変態うるせえんだよ、エカテル姐!」
……現実問題、まっっったく役に立っていない。しかも超がつくほどのスケベ。
「朝、私の寝袋に突っ込んできたのは誰よ?」
「あ、あれはリーダーに起こしてくるよう頼まれて、テントの入口で躓いて……」
「その後に、着替え中のウチのテントに突っ込んできたんは……誰やねん?」
「そ、それはエカテル姐にブッ飛ばされて、その反動で……」
「わたしのおしりもさわったー」
「そ、それはエリザさんにブッ飛ばされて、その反動で……」
……あのね。
「……全部わざとじゃないって言いたげだけど……相当ムリがあるわよ?」
「そんなの俺だってわかってるよ! けどよ、何故かこうなっちまうんだよおおお!」
……それを言って信用されると思ってるわけ?
「わたしのおしりさわったー。すけべーへんたいー」
「うっせえ! お子様のヤツなんか触ったって嬉しくねえよ!」
「むかっ………とおりがかりのきらーほーく、ごー!」
キシャアアア!
「うっぎゃあああ! キラーホーク! キラーホークがあああ!」
そ、空の王者キラーホークを≪統率≫したの!?
ガッガッガッガッガッガッガッガッ!
「く、クチバシが刺さる刺さる! うぎゃああああ!」
「……ねえ、いつの間にあんな強いの従えられるようになったの?」
「わ、私が教え始めて二日程で……」
≪統率≫に関する知識があったエカテルが、初歩的なことを教え始めた……っていう段階だったはず。
「さ、流石は早熟才子。成長速度がハンパないわね……」
「今回は以前の攻撃魔術と違って、基礎をしっかりと叩き込んでますから」
「って、たった二日間よね!?」
「それだけあれば十分叩き込めます」
……教師も優秀だったのね。
「よーし、えさにしてもおーけー!」
「えええ餌は嫌! 餌は嫌ああああああ!!」
「ドナタ、それくらいでいいわよ。これで懲りたでしょ」
「はーい。きらーほーく、ばいばーい」
キラーホークは器用に片翼を振り返し、そのまま去っていった。飛びながらよくできるな。
「今度妙なことをしたら、ホントにキラーホークのエサだからね。わかった?」
「は、はい……」
血をドクドクと流しながら、フリドリは答えた。
……だけど……。
「エリザさん、お茶をお持ちしました」
「あ、おおきに」
つるっ
「うわ、足が……わったった」
「ん? うわあっ!」
ドサン!
ムニュ
「ん?」
ムニュムニュ
「こ、この弾力……まさか!?」
「ど、どこ触っとんねん!! シールドバッシュ!!」
「おごおっ!?」
……フリドリの変態っぷりは……。
「エカテル姐、こっち持つぜ」
「ありがとう」
つるっ
「あ、足が……わったった」
「あ、危な……!」
ドサン!
ぼふっ!
「む……? 前が真っ暗……い、息が……」
「ちょ、ど、どこに顔を突っ込んでるのよおおおおおおっ!! ふーっ!!」
「わ、この薬は……!? か、痒い! 痛い熱い冷たあああい!!」
……留まることを知らず……。
ギシャアアア……!
フウウウウッ!!
グルルルル……
「な、何でドナタの周りをモンスターが囲んでるの?」
「ああ、あれは痴漢対策やて」
「……ドナタにまで被害が……」
……ついに……。
「……あんたさあ……」
「マ、マジでわざとじゃないんす!」
「……わざとじゃないのなら、何で空からダイブしてきたの? しかも私が水浴び中に」
「いや、あの……ホントにわざとじゃ……」
「ライトニングソーサラー!」
「ぶふぉ!?」
「からの……足四の字ぃぃぃぃ!」
「ぎぃぃあああああああああああ!!」
……怒りは頂点に達した。
「さあ、言い残すことはない!?」
「マジで誤解です! 誤解なんす! 話を聞いてくれえええっ!」
「問答無用やな。盾で頭砕いてやろか?」
「いえ、新しい薬の実験台に。間違いなく死にますが」
「もんすたーのえさ!」
「ひぃぃぃ! リーダー、何とかしてくれぇぇぇ!!」
私はフッと笑ってフリドリの肩に手を置き。
「……打ち首獄門で勘弁してあげるわ」
「うっぎゃあああ! お母ちゃああああああああん!!」
フリドリがマジ泣きし始めたとき、突然呼び出し音が流れた。
「ん? 誰だろ………あ、リジーか」
『サーチ姉、少し相談が』
「いいけど、ちょっと待って」
私は念話水晶をフリドリに向ける。
「リジー、新しい仲間なんだけど、わずか一週間で死罪が確定したフリドリよ。一応紹介しとくわ」
「たああすううけええてえええっ!!」
『……? ねえ、サーチ姉』
「何?」
『この人……呪われてるよ』
……はい?
死刑の執行を一旦中断し、フリドリの装備品を確かめてみると……。
『あ、それ』
フリドリのペンダントが当たりだった。
「そ、それはダンジョンでの拾いモノ……」
『誤解の首飾りという。効果は身に付けた者に次々と災難を起こし、周りから嫌われるようにする』
「そ、それじゃあ、フリドリの変態っぷりは……」
『そのペンダントが原因と思われ』
「ほらあああ! 誤解だって言っただろがああ!」
な、何ていうか……恐ろしい呪いだわ。
「ま、まあ、今回の執行は保留して、ペンダントを取った状態でしばらく様子を見ましょ」
「「……さ、賛成」」
……結果。
「どうだ! 何も起きないだろが!」
リジーの言う通り、呪われアイテムが原因のラッキー(?)スケベだったと判明した。つまり、フリドリは無実だったのだ。
「「「申し訳ありませんでした」」」
「べ、別にいいよ。わざとじゃなくても、セクハラまがいの事はしちまったんだし……これでおあいこだ」
「フリドリ……もしかして私達が付き合ってた時のも……」
「あの頃だったな、あのペンダントを手に入れたの……」
「そ、それじゃあ近くの女子寮を覗いてたのも……」
……ん?
「ちょっと待って。覗きって……それ、完全な確信犯じゃない?」
「そう……やな。女子寮に行ってる時点で、ラッキースケベとは言えへんで」
「……滝の上から降ってきたのも、ラッキースケベなのかしら?」
「ああ、あれは木の枝が折れ……あ」
……そっと後退りするフリドリ。
「やっぱ打ち首」
「ちょっと待ってぎぃあああああああああああ!」