第十五話 ていうか、アントワナはとんでもない性悪女……「サーチさんも負けてないかと」「命令、裸踊り」「ぎゃああああ!」
「ぅぐ……! い、一体何が言いてえんだ!」
「エカテルから聞いたんだけどさ、あんた達アーガス家のアサシンは、背中の刺青に≪消去≫が仕込んであるんだって?」
「そ、そうだ。もし任務が失敗した場合、死体もろとも証拠隠滅するように……」
「確かにエカテルの刺青には≪消去≫もあったけどさ、遠隔操作用の≪魔力爆発≫も仕込んであったわよ」
「……何?」
そう。エカテルの刺青に施された魔術には、文字が反転した状態で≪魔力爆発≫が隠されていたのだ。
「魔力そのモノを爆発させる効果がある、自爆用魔術が!?」
「魔力の流れを辿ってみると、ある特定の人物の魔力が起爆剤となるように設定されてたわ」
「ま、まさか……!」
「そう、アントワナよ」
つまり……アントワナの気分次第で、アーガス家のアサシン達は爆殺される可能性がある、という事だ。
「このことはあんた達は知らされてたの?」
「う、嘘だ! アントワナ様がそんな事をするわけ……!」
「なら、何であんたの腕は爆発したのかしら?」
「そ、それは……」
この≪魔力爆発≫にも弱点はある。対象者が死亡した場合は、有無を言わさずに起動してしまうのだ。今回のように腕を斬り落とされた場合、腕は『死亡した』と判断され、自動的に爆発を起こす。
「つまり、あんたの刺青にも仕込んであったのね。≪魔力爆発≫以外に、自分の腕が爆発する可能性があるかしら?」
「……! く、くそ! 俺は自爆要員にされてたってのか!!」
「でも良かったじゃない。腕が爆発してくれたおかげで、≪魔力爆発≫が消えたんだからさ」
これが弱点その二。≪魔力爆発≫は一度しか起動しないのだ。つまり右腕が爆発した時点で、この男の≪魔力爆発≫は効果を失ったのだ。
「で、どうするの? ここまで道具扱いしてくれた組織に、義理立てする必要はないと思うんだけど?」
「そ、それは……」
「もし情報提供してくれるんなら、あんたの傷を治療してあげるし、今回仲間を狙ったことに関しては不問にしてあげる」
「ホ、ホントにか?」
「私を信用するかどうかは、あんた次第。もちろん、組織に忠誠を尽くすってのなら……わかってるわよね?」
「……というわけで、無事に捕虜を確保してきました」
「…………早かったですね」
そう?
「ウチはてっきりアーガス狩りに行ったん思ってたで?」
「私もそのつもりだったんだけどさ……その男の腕を斬り落とした直後に、近くにアントワナの気配を感じたのよ」
「そうでしょうね。アントワナの≪魔力爆発≫は、半径500m以内じゃないと起動できませんから」
「つまり、あんたはアントワナから監視対象にされてたのね。たぶん≪統率≫を用いた駒が町のチンピラに紛れ込んでたんでしょ」
「く、くそおおお! あの女、いつかぶっ殺してやる……!」
「……なあ、サーチん」
「何よ?」
「疑問なんやけど……何で露天風呂で尋問せなあかんのや?」
エリザは湯船の近くに設置された長椅子に座って、パタパタとうちわで扇いでいる。まあ温泉の近くだから暑いわな。
「え? そんなの決まってるじゃない」
「サーチさんが入浴したいから……ですか?」
男が縛り付けられた柱の近くで、浴衣姿のエカテルが先に答える。
「その通り! ていうか、それ以外に理由がいるの?」
「「…………」」
……何よ、その冷めきった視線は。
「……あのさ……捕まった俺が言う事じゃないかもしれねえが、俺、男だぜ?」
「そうね」
「男の前で素っ裸になって恥ずかしくねえのかよ?」
「? 何で?」
男は救いを求めるように、エカテルとエリザに視線を送るが……。
「「…………」」
おい。何で黙って首を左右に振るのかな?
「エカテル姐! 何とか言ってくれよ!」
「あらあ、いいじゃないの。あなたの望んでた巨乳さんよ」
「……そうかぁ? 形はいいと思うが、大きさはイマイチ「……みじん切りにされたい?」すすすすんません!!」
「エカテル、あんたの知り合い?」
「…………アーガス家一の覗き魔です」
「「よし、殺そう」」
「ちょちょちょっと待て! エカテル姐、嘘をぶっ込むんじゃねえよ!」
「……エカテル、実際は?」
「痴漢です。変態です。史上最低の女の敵です」
「「よーし、八つ裂き八つ裂き」」
「だ〜か〜ら〜! 本当の事を言ってくれよ!」
「……エカテル、命令。ホントは何?」
「うぐっ………も、元カレです」
……なるほど。元カレなら、覗き魔で痴漢で変態呼ばわりされても仕方ないわな。
「正確に言うと、俺とエカテル姐は幼なじみなんだ。ゴールドサン公国の出身なんだよ」
何と。まさに渡りに船じゃない。
「ならエカテル、ゴールドサン公国に伝はあるんじゃない?」
「…………ええ、あります。ありますとも! こいつの実家になら、ぶっとい伝があります!」
……何か触れてはいけないモノに触れちゃったみたいね。
「申し訳ないけどエカテル、その伝を最大限に利用させてもらうわよ。エイミアの身にも関わることだし」
「……わかりました。全力を尽くします」
するとエカテルは、男の頭を掴み。
「でしたら、この男も連れていった方が良いかと。一応長男ですので、私だけよりは話が通しやすくなります」
「そう? なら生かしといてあげてもいいかな」
湯船から出ると、男の前に屈む。
「あんた、名前は?」
「フ、フリドリ……」
「フリドリね。得意なことは?」
「完全な後方支援。暗殺もやるが、その前の準備の方が得意だ」
「サーチさん、フリドリの言っている事に間違いはありません。暗殺する場所の選定や、対象の当日の予定等、雑用をさせたら右に出るモノはいません」
「雑用言うな! 下調べや補給を怠っては、勝てる戦も勝てなくなるんだよ!」
「うん、こいつは使えそうね。わかったわ、エカテルの提案を採用しましょう。エリザもいい?」
「……寝てる間と入浴中は縛るってのが絶対条件やな」
「はい採用」
「入浴中はともかく、寝る時もかよ!」
「……じゃあエカテルと一緒に寝「断固拒否」……だそうよ。おとなしく縛られなさい」
フリドリはガックリと肩を落とした。
「……ていうかさ、フリドリも奴隷契約しちゃおか?」
「あ、それは賛成や。雇い主はエカテルやな」
「わ、私ですか!?」
「近くに奴隷商があったはずね。早速行きましょ」
「わ、私が主人だなんて……」
「なら命令」
「それは卑怯ですよおおお!」
「お、おい。俺の意思は無視かよ!?」
「「無視に決まってるじゃない」」
「エカテル姐! 何でこんな連中の仲間になったんだあああ!!」
「こんな連中とは何よ、失礼ね!」
「お前は服を早く着やがれえええっ!!」
……こうして、私達のパーティでは初の男性、フリドリが仲間になった。
『おい、俺は!?』
ルーデル……あんたは最初女だったでしょうが。