第十四話 ていうか、温泉での会議の後、アーガス家の刺客狩りを開始します。
「やっぱ敵さんが喧嘩売ってきたんや?」
「まあね。ご本人自らってことじゃなく、配下のアサシンを操っての襲撃だったけど」
「操ってって……≪統率≫使ってか!? あれって人間には効かんのやなかったん!?」
「あくまで『意思を持たない』ってのが条件なんだから、薬とかで意思を奪っちゃえば操れるんじゃないかな。そこらへんはどうなの、エカテル?」
「可能です。意思を奪った人間を操るのは、アントワナの常套手段でしたから」
「わーい!」
バチャバチャバチャ!
「こら、ドナタちゃん。温泉で泳いじゃいけませんよ」
……なかなか殺伐とした会話をしているけど、私達は露天風呂に浸かっている。アントワナモドキとの戦いのあと、部屋に戻っていたエリザ達と合流し、もう一回露天風呂に来たのだ。
え? 何回入るんだって? 別にいいじゃん。私は一日露天風呂で過ごしてもいいくらいよ。
「……なあ、今更やけど。わざわざ温泉浸かって、作戦会議する必要なかったんやない?」
「何言ってんのよ、敵の襲撃を受けた直後よ。室内みたく隠れるとこがいっぱいある場所なんて、盗み聞きして下さいって言ってるようなもんじゃない」
「……露天風呂の方が盗み聞きしやすいと思うんですが……要はサーチさんが温泉に浸かりたかっただけでは?」
「命令。エカテルはそこで裸踊りしてなさい」
「えっ!? い、嫌あああ! 誰か止めて、見ないでえええ!!」
湯船の中で変な踊りを始めたエカテルは放置して、エリザと今後のことを議論する。
「議論できるわけないやろ! 後ろで踊ってるエカテルが気になってしゃあないわ!」
「そうかしら? なら仕方ない………命令、そのまま踊りながら部屋に戻りなさい」
「嫌ああああああああああああ!!」
「止めたりぃな! 命令や、エカテル! サーチの命令、全部撤回や!」
「ふ、ふええ……助かりました……」
ちぇ。おもしろくなりそうだったのに。
「サーチん、鬼やな……」
失礼ねっ。
「ていうか、何でドナタまで踊ってるのよ?」
「だって〜、えかてるせんせえ、おもしろいよ〜」
「おい、ドナタ。エカテルに追い打ちかけたらあかんで」
……エカテル、ちょっぴり涙目。
「……でさ、エカテルに聞きたいことがあるんだけど」
「何ですかっっ」
あらら、反抗的。
「命令。部屋まで裸「きゃああああ! わーわー!!」……冗談よ、冗談」
肩で息をするエカテルが不憫になってきたので、そろそろ本題に入る。
「ここでアサシンを撃退したときにさ、その死体のそばでアントワナモドキが何か呟いたのよ。そしたら」
「死体が粉状になって消えたんですね?」
「そう。あれは何?」
「≪消去≫という魔術を、予め刺青で掘ってあるんです。アサシンが返り討ちにあった際の、証拠隠滅の為の処置です」
「そ、そこまでやるんかいな……」
「私にもありますよ、ほら」
そう言って背中を見せるエカテル。そこには複雑な紋様が描かれていた。
「そ、それ大丈夫なん?」
「あくまで対象は物ですので、生きてる限りは大丈夫です」
「あ、あんまりいい気分にはなれへんな……」
エカテルの背後に回り、ミスリルの針を作る。そして。
ぷすっ
「いったああああああい!! な、何をするんですか!」
……この刺青……まさか……。
「命令、ジッとしてなさい」
ぷすっぷすぷすっ
「痛! 痛い痛い! な、何なんですかああ!?」
やっぱり……この魔力の流れは……!
「はい、最後っと………もう動いていいわよ」
「な、何をしたんですか!? 何で針なんか刺したんですか!」
「あんたの刺青の紋様、ミスリルの針で肝心なとこを削っといたから。これで≪消去≫が起動することはないわ」
「…………え?」
「……何かね、イヤなのよ。仲間が使い捨てみたいな扱いされてるのって……」
照れくさいので先に露天風呂を出た。
「……サーチさん……」
「ま、ああ見えて仲間第一なんや。不器用やけどな」
「……はい」
「あ、えかてるせんせえ。せなかにほくとしちせいがあるよ」
「えっ!?」
ん〜……ついつい三つほど余分に刺しちゃったわ。世紀末マンガの影響かな?
「さて……ちょっとストレス解消してきますか」
完全装備で町に飛び出した。
「サーチさん? いらっしゃらないんですか?」
「さーちん、いない」
「……だから言ったやろ。サーチんは仲間第一なんやって。今夜は更に血の雨が降るで」
「はあ?」
「……ああ、その連中なら三軒先の廃屋にいるぜ。表に三人くらい見張りに立ってるから、すぐわかるはずだ」
「そう。ありがとう」
金貨を一枚渡して、酒場を出る。
「随分と気前のいい客だから忠告しておくが、連中は帝国と繋がりがあるらしいからな、下手に手を出さない方がいいぞ」
「わかってるわよ」
私はドアを開けたまま振り返って。
「ていうかね、ケンカを売ってきたのは向こうなのよ」
……吐き捨てた。
「がっ!?」「ぐはっ!?」
ザコをさっさと片づけて、道端に転がしておく。
バアンッ!
ドアを蹴破ると。
どんがらがっちゃああん!!
「「ぎゃああああ!!」」
中にいた連中にドアが飛んだらしく、下敷きになって伸びてるのが何人かいた。
「あ〜ら、ごめんあそばせ」
「な、何だ貴様は!?」
「何だって殴り込みに決まってるじゃない。ラーメンの出前にでも見えたのなら、さっさと眼科へ行ってきなさい」
「な、何だとおおぐぶっ!?」
「ま、その前にあの世に逝ってもらうけどね」
鳩尾に刺さった細剣を引き抜き、今度はトンファーに作り変える。
「うらあああああ!」
ガギンッ! ドゴッ!
斬りかかってきた男をトンファーで受け、もう片方で頭蓋骨を粉砕する。
「アーガス家の刺客の割には、ずいぶんとザコばっかりね。私が前世で所属してた組織のほうが、よっぽど粒ぞろいだったわよ」
飛び掛かってくるザコをブッ飛ばしながら、奥へ奥へと進む。
「いくつも部屋はあるみたいだけど、気配でバレバレだっつーの。この部屋ね!」
ドガンッ!
「ちっ、もう来やがったか!」
「あた〜り〜♪ ってね。あんたがアーガス家のアサシン?」
「……そうだ。他の連中はどうした?」
「全員ブッ飛ばしたわよ」
「チッ! だから町のチンピラは……!」
「この町のチンピラ……ね。それで弱いのか。ていうか、あんたはエカテルを狙ってきたわけね」
「そうだ。裏切り者は許さない。これは組織として当然の事だからな」
……こいつ……情報を持ってそうね。生かして捕えるか。
「……なるほどね。裏切りを許さないのは理解できるけど……私の仲間に手を出そうとしてる以上、私はあなたを殺さなくちゃならない」
「は! そういう事は、俺を圧倒してから言うんだな」
「……もう圧倒してますけど?」
「は? 何を……」
男が右手の短剣を振り上げた途端、肘の付け根付近に赤い線が走り。
ボトッ
「……あ? み、右手が? 俺の右手が……うああああああああああああ!!!」
「離れて!」
「あああ……ぐがっ」
男を突き飛ばし、私も急いで伏せる。
……ズドオオオオオオオオオンッ!!
「な……! お、俺の右手が……爆発した?」
呆然とする男に、私は背中の刺青を指し示した。
「エカテルもそうだったんだけど……あなた達の刺青、とんでもないモノよ」