第十三話 ていうか、エカテルのお友達対策をした後は……温泉温泉、クライベーツ温泉よおおおっ!
連合王国軍内の注意喚起は、グリムに一任した。ていうか、丸投げした。
「注意してどうにかなるもんじゃないけど、警備が厳しくなるだけでも儲けもんだし」
「警備が厳しくなるだけで違うモノですか?」
「全然。暗殺ってヤツはね、こっそり殺るから暗殺なの。対象に狙われてることがバレた時点で、八割くらいは失敗なのよ」
「な、成程……」
「あとは一人にならないこと、食事等の毒の混入に気をつけることで、九割は大丈夫ね」
「あの、残り一割は?」
「対象を巻き込んだ爆破かな。ただ時限式は魔術とかでもムリだから、踏んで反応する地雷式か、自分を起点とする自爆式か……」
「自爆って……そこまでするんですか!?」
「ま、それだけ手段はたくさんあるってこと。どちらに転んでも動きにくくなるのは間違いないから、かなり抑制効果は期待できるわ」
さて、この件は片づいた。あとはエリザなんだけど……あ、戻ってきた。
「おーけーや。エリーミャさんと師匠に念話しといたで」
「何か言ってた?」
「エリーミャさんは『年中狙われてますから、平気ですよ』だって」
ね、年中って……。
「それと師匠やが……『あらあら、私にまで話を回すのかい』とか言って笑ってたで」
「……警戒されてること、バレバレみたいね……」
「師匠が黒なんは確定やけど、問題は繋がってる相手やな」
ただ単にマーシャン辺りと繋がってるだけなら、何の問題もないんだけど。
「後は師匠の出方次第やな」
……よし。
「休憩終わり、出発するわよ〜。みんな、馬車に乗りなさい」
「「はーい」」
「ほいな」
「さあ♪ さあさあさあ♪ めんどくさい案件は放っておいて……あと少しで到着よ、クライベーツ!!」
「何なんや、このいきなりの明るい雰囲気!? さっきまでの殺伐とした空気はどこ行ったんや!」
「いいのよ、これで♪ 久々の温泉よ、あんただって入りたいでしょ?」
「そ、それはまあ……」
「なら無問題無問題♪ 全速力でクライベーツへ向かうのだ〜♪」
「むかうのだ〜♪」
「ドナタちゃん、サーチさんの真似だけは止めましょうね」
……エカテル、どういう意味かな?
「さあさあセキト、私の野望のために血を吐くまで走りなさい♪」
「駄目や駄目! セキト、言う事聞いたらあかんで!!」
……結局セキトのペースは全然上がらなかった。ちっ。
その後もドナタに≪統率≫をフル活用させて、モンスターを一切近づけさせないくらいに難なく使いこなせるようになった頃、私達はクライベーツへと到着した。
「凄いわ、ドナタちゃん! たった数日で、ここまで≪統率≫を使いこなせるようになるなんて!」
「えへへ、えかてるせんせえにほめられた♪」
「あれだけ連続使用させるなんて、サーチさんの性根を疑ってしまいましたが……それもドナタちゃんの修行の為だったんですね」
「いやいや、サーチんの私情に決まってるやん。ドナタが≪統率≫マスターしたんは、結果オーライに過ぎへんで」
「そ、そうなんですか!?」
「そ、それはもちろん、ドナタの修行のために決まってるじゃない!」
「サーチん、暑うもないのに汗でびっしょりやで?」
「………………サーチさん?」
「そそそそれより旅館よ旅館!! どこにしようかな、楽しみだな〜……」
エカテルがトゲ無し金棒とボールモドキを取り出したのを見て、速攻で観光案内所へと駆け込んだ。
「…………」
「な、何よエカテル」
「…………いえ、別に」
旅館に向かう道中、エカテルの視線が刺さること刺さること……。
「……エカテル、今夜は夕ご飯のときに裸で踊ってもらおうかしら?」
「ひえっ!? そ、それは卑怯ですよ、サーチさん!」
さすがは奴隷紋、もう手が服に伸びてるし。
「あははは、冗談よ。それはそうと、この町でエカテルとドナタの防具を更新したいわね」
エカテルは旅用の厚手の服を着てるだけなので耐久性が不安だし、ドナタは成長が著しいためにローブが小さくなってきてるのだ。
「なら旅館に着いてから、町に出て買い物しよか」
「それでいいわ。エリザ、私は旅館で一仕事あるからさ、二人を連れて防具屋へ行ってきてくれない?」
「…………んな事言って、温泉に浸かりたいとちゃうんか?」
「あはははは〜……」
「笑って誤魔化すんかい! ……まあええわ。ウチも防具屋に用があったさかい、一緒に面倒見たるわ」
「ありがと〜、さすがエリザ……スリスリ」
「あ、ちょ……! どこに触っとるねん!!」
ごめっ!
「んぎゃあ! ……ちょ、今のマジで痛かったわよ……!」
「さあさあドナタちゃん、私達は先に行きましょうね〜」
「はーい」
「……ウチも先行くで」
「エリザ、わかってるわね?」
「こっちは責任持って守ったる。そっちは任せたで」
「もちろん」
エリザもリル並みに以心伝心だから、何かと助かるわ。
旅館にチェックインしてすぐに、エリザは二人を伴って出掛けた。すぐに準備を調え、露天風呂へ直行する。
「フンフンフ〜ン♪ ……おおっ! 何と言う広大なロケーション!」
ビキニアーマーを魔法の袋に突っ込んでから戸を開けると、そこにはクライベーツ一の見所、ヘルヘル谷が広がっていた。
「スゴい源泉の数! さすがクライベーツ名物だわ〜」
そして、お楽しみの入浴ターイム♪
「う、うううぅぅぅ……こ、この熱さがクセになる……!」
身体の芯まで染み入る〜!! 疲れが全て流れ出ていく感覚、たまんない……!
しばらく温泉を楽しんで身体をあっためた私は、誰もいないはずの背後に声をかけた。
「ねえ、その岩の影に潜んでるお二人さん。恥ずかしがってないで、さっさと出てきなさいよ。温泉では裸の付き合いが一般的でしょ?」
………少し空気が震えた。
「これぐらいで動揺してるようじゃ、アサシンとしては三流以下ね。今のうちだったら見逃してあげるから、さっさと逃げなさい」
すると、岩陰から一人が飛び出してきた。短刀を構えて私に突っ込んでくる。
ガギィン!
羽扇で短刀を弾き、バランスを崩したアサシンの鳩尾に蹴りを叩き込む!
ズドッ! メキメキボキッ
「ぐっ!? がはあっ」
受身をとるも、口から血を吐いて倒れる。肋骨と一緒に内臓もやっちゃったか。
「ぬ……! ふっ! ふっ!」
飛んできた何かを指で掴む。吹き矢か!
「ほいっ!」
ドスッ!
「ぐはっ……ぅ」
もう一回吹き矢を放とうとしていたアサシンの眉間に、投げたナイフが突き刺さる。
「さて、二人とも死亡したけど……もう一人は出てこないのかしら?」
私が声をかけると、ナイフが刺さったまま痙攣するアサシンの後ろから、髪の長い女性が現れた。
「……ち。対男用最凶兵器は使えないか」
私の呟きが聞こえたのか、髪の長い女性は訝しげな顔をした。でもそれは一瞬で、死んだアサシンに近寄って何か呟く。すると。
……ブワアアア……
「なっ、身体が……!」
アサシンの身体は粉になって霧散していった。
「……あんた達はエカテルのお友達かしら?」
「エカテル? あのような雑ざりモノは仲間ではない」
「ってことは、あんたがアントワナ?」
「ほう……よく知っているな」
私はアントワナが「知っているな」としゃべってる辺りで、一気に距離を詰める。
ズドムッ!
鳩尾に掌底を叩き込むが……手応えがない。
「…………ちっ。本物じゃないわね」
「当たり前だ。お前のような雑ざりモノ、私が自ら相手をする間でもない」
「あらあら、ホコリまみれの血統主義者は臆病者ばかりなのかしら?」
「……ふん、今回は挨拶代わりだ。次回はお前の首を貰う」
「はいはい、お帰りはこちらですよ〜」
アントワナモドキは憎々しげな顔を浮かべて、さっきのアサシン同様に霧散していった。
「……めんどくさいヤツと敵対しちゃったかな……。まあいいわ。私達に牙を剥くのなら……殺るだけよ」