第十二話 ていうか、ドラゴンの牙折っちゃった?
うわ、何か話しかけてきた! 頭に直接響いてくる!?
『何かとは何だ、失礼な!』
をを!? 意外とアドリブがきくな。ていうか、誰?
『先に』
名乗るのが礼儀よね、失礼しました。サーチって言います。あなたは?
『……話しにくい相手だな。我はアブドラ。このワイバーンの哨戒部隊の隊長だ』
アブドラ……危ないドラゴン?
『変な略し方するな!』
あーはいはいごめんなさい。略してはないけど。
……ん? 哨戒部隊?
……ていうかワイバーンと話してる!?
『今さらな反応だな……』
驚いた……これって思念で会話してるのかしら?
『察しがいいな……その通り『貴様許さん! 殺す!』な、なんだ!?』
ん? 違うワイバーンの思念がなだれ込んできた?
『ちょっ『うがあ『殺す殺『落ち着いてる』ああ!』ー!』すぅ!』
ワケわからんわ!
『すまぬ、しばし待ってくれ……お主の仲間と会話していた同胞が急に怒りだしてな……』
私の仲間と? トラブル起こしそうなのって……。
『なるほど……大体わかった。我らの中で一番若いのとお主らの……牛女? に……ああ、わかったわかった……でっかいトカゲ発言されたそうだが』
牛女ってエイミアしかいないじゃない! 何やっとんじゃ!
「あ・ん・たは何をしてくれるのよ!」
「いひゃい! いひゃい! いひゃい! いひゃいー!」
「サーチ落ち着け!エイミアの口が裂ける!」
そんな私達のドタバタ劇をアブドラさんがよくわからない表情で見ていた。
ここはワイバーンの哨戒部隊の駐屯地……ただの横穴とも言う……だそうだ。空中で怒鳴りあっても埒が明かないのでとりあえず……というわけだ。
「どいてくださいサーチ! あのトカゲが! トカゲが!」
『まだ言うか! 貴様のような牛女は私が噛み砕いてくれる!』
「また言いましたね!? 牛女って言いましたね!? あなたみたいなトカゲモドキはせいでんきで黒焦げにしてやります!」
はーあ〜……。
「エイミア」
先っぽをやや強めに摘まむ。
「はああああああん!」
へたりこんだエイミアを引き摺ってマーシャンの前に転がす。
「マーシャン。好きにしていいから黙らせて」
「んふ……了承じゃ」
そのまま洞窟の奥へ消えていった。たまにいろんな声が聞こえてくるけど無視。そしてまだ唸り続けるワイバーンに近づく。
『何だ貴様! あの牛女の仲間か!』
≪偽物≫で造り出せる限界の長さの針を。
『何だ、やる気か? 面白い相手にあいてぇぇぇぇ!?』
爪と皮膚の隙間にぶっ刺した。
『き、貴様なんてことを!』
「うるさあい! あんたが騒ぐと話が進まないのよ!」
『ここは私に任せて下がっていろ』
思い切り悄気た若いワイバーンは、痛い爪を擦りながらスゴスゴと去っていった。
「ふう……やっと話がわかるヤツが登場か」
『……お主はいい度胸をしているな』
「あぁん!? あんたの爪にもぶっ刺したろか!!」
アブドラはすごく痛そうな顔をして。
『…………本当にやめてくれ』
と白旗をあげた。
「で? 何の用だったの?」
針を消して“不殺の黒剣”を威嚇用に出す。MP消費は極力抑えたいし。
『そのとおり。節約、これに勝る美学なし』
「関係ないこと読み取るなあ! さっさと話を進めなさい!」
瞬時にアブドラの爪付近に移動した私は黒剣で逆剥けをつくった。
『うがああ! 逆剥けが! 逆剥けがー!』
……ドラゴンって皮膚が丈夫すぎて痛みに耐性がないって……ホントだったんだ……。
ドラゴンのイメージめっちゃダウン……。
「で! な・ん・の用だったの!」
逆剥けを捲らないように処置しながらアブドラが返答した。
『いや……久々の客人だったので……』
……。
まさか……。
『挨拶を……いひゃああああ!』
“不殺の黒剣”で深爪してやった。
「まったくもって時間のムダだったわ!」
爪をおさえてのたうち回るアブドラを横目にため息をついた。
すると。
「おう、もう決着はついたようじゃな」
妙に艶々……じゃなくてツヤツヤしたマーシャンと。
「ううう……お嫁に行けなくなっちゃった……びえええっ」
頬をピンクに染めて妖しい雰囲気を醸し出したエイミアが泣いていた。
「リル、どれくらい降りてきたと思う?」
今回出番が少なかったリルに聞く。
「やっと終わったのかよ……待ちくたびれたぜ」
と文句を言ってから。
「大体だが15000mは過ぎたな」
さすがリル。
「じゃあ目的の横穴は……」
「え〜と……この辺りだな」
え?
『ん? お主ら横穴を探しておったのか?』
アブドラが背後から声をかけてきた。
『ならばすぐそこだ。我らの任務はその横穴の守護でもある』
………………は?
「はやく言ええええ!!」
『ぎゃあああ! 逆剥けがああ! 深爪がああああ!』