第十一話 ていうか、統率者になるのって、デメリットしかないような……。
「ちょっと待って。スキルが消失するって「わあああああい!」って、ちょっとドナタ!?」
骸骨が恭しく持ってきた指揮棒に興味津々なドナタは、早速受け取りに走っていく。
「がいこつさん、わたしのためにありがとー!」
そう言ってドナタは……手に取ってしまった。
……。
………。
……………あれ?
「……何も……起きないじゃない」
「まだ契約には至ってないようだな」
セーフか。よ、良かったああ……。
「ねえ、『全てのスキルが消失する』とか聞こえたんだけど?」
「その通りだ。もう一回言うが、統率者の象徴とも言えるスキル≪統率≫は、身に付ける為の二つの前提条件がある。一つが指揮棒との契約で、もう一つが今まで身に付けた全ての戦闘スキルの消失」
な、な、何よそれええええええ!?
「スキルを失うって……とんでもないデメリットじゃないの!」
「それが統率者になりたがる者がいない原因だよ」
統率者と同様に不人気な職業、呪剣士。それも『呪われアイテム以外は装備できない』というデメリットが原因なのだ。
「……まだ呪剣士は装備品で補えるけど……統率者ってどうしようもないじゃないの……」
「いや、そうでもないぞ。今まで身に付けてきたスキルが多ければ多いほど、≪統率≫も強力になるからな」
「でも≪統率≫って、ぶっちゃけ動物やモンスターと仲良くなるだけのスキルでしょ!? 身に付けるモノと失うモノとのバランスが悪すぎるわよ!」
「…………かもしれん」
……否定できないわけね。
「だったら≪統率≫を身に付けるなんて以ての外。ドナタ、その指揮棒は返品で「うん、けーやくする」……はっ!?」
『よおおおし! ここに契約は終了し、新たな統率者が誕生した事を宣言するっ!!』
「な、何ですってえええええええええ!!?」
「ぅわ!? び、びっくりしたあ」
「ドナタ、あんた、スキルはどうなったの!?」
「へ? すきる? なんで?」
「いいからステータスを開きなさい!」
「は、はーい。すてーたすおーぷん」
ドナタの目の前にステータス画面が展開される。
「えっと、すきるらんをくりっく………あれ? せんとうすきるがぜんぶなくなってる。なんでだろう」
…………お、終わった…………。
「えー!? まじゅつもつかえなくなっちゃったの!?」
半泣きになるドナタ。だから待てって言ったのに……。
「ちょっと待ちぃな……なあ、おっちゃん。あくまで≪統率≫の前提条件は『現段階で習得している戦闘スキルの消失』やろ? これから習得するスキルまで消失はせんのやな?」
「そうだ」
「なら簡単や。面倒かもしれへんけど、また勉強し直せばええんや」
あ、そうか。逆に真っ白な状態なんだから、ちゃんと魔術を教え込むことが……!
「無理だ。騎士が魔術を覚えられないのと同じで、統率者は魔術は使えない」
……お、終わった……。
「な、なら武器で補えばええんや。剣でも槍でもええ、一から修行し直しや」
そ、そうか。魔術が全てってわけじゃないんだ。
「無理だ。統率者は指揮棒以外は装備できん」
……お、終わった……。
「ちょっと待って下さい。職業欄は確認しましたか?」
エ、エカテル?
「早熟才子自体が、一種の職業みたいなモノです。ですから職業欄の記載も早熟才子となっています」
「そ、それで?」
「職業は職業欄の改変が起きない限り、前の職業のままのはず」
「ややこしいわね……つまり、職業が名札と仮定して、早熟才子って書かれてる名札を統率者っていう名札に付け替えない限り、前の早熟才子のままだってことね?」
「概ねその通りかと。ただ早熟才子は名札を交換すれば変わるというモノではありませんから……」
「ある意味、刺青みたいな?」
「そうです、その通りです! 刺青を落とす事ができない以上、統率者という名札に左右される事はないと思います」
「そう……なの?」
「知らん。早熟才子が統率者になったなんて、俺だって初めてだ」
でしょうね。ていうか、史上初よね。
「なら何とかなるかな? ドナタ、ステータス欄の職業は何てなってる?」
「え、えっとね……早熟才子ってかいてある」
おお、期待通り!?
「あと『ただし統率者にかぎる』だって」
「げ、限定解除になりやがった!」
「こ、これは……刺青が追加された口ですね……」
結論、どうしようもないくらい統率者固定。
「ふぁいあうぇいぶ! ふぁいあうぇいぶ!」
……うん。小揺るぎもしないわね。
「うええ……ほんとうにつかえないよう……」
「だから待てって言ったじゃない」
「だって! とってもきれいだったから!」
確かに。ドナタの指揮棒は、美術品と言ってもおかしくないくらいの一品だ。
「うぅ〜……」
「しかし統率者って、どないな手段で攻撃するんやろな?」
「あんな短い棒じゃ、敵を叩くこともできないわね……」
『何じゃ、使用法も知らなんだのか?』
後ろで出来映えを見ていた骸骨が、ドナタの元へ近づいた。
『お嬢ちゃん、この模様に沿って魔力を流してみい』
「まりょくをながすって?」
『魔術を使う時に、手に集中するじゃろ。あの要領じゃ』
「ん、やってみる…………ん〜……!!」
ドナタの強大な魔力が、指揮棒に遠慮なく流れ込み……。
「んぃぃぃぃ〜……だあああああっ!!」
ブオンッ!!
「わ、なにかでた」
指揮棒の先から、長い魔力の棒が伸びた。
『それが統率者のスキルの一つ、≪魔力鞭≫じゃ』
「ムチ!?」
『お嬢ちゃん、それを……あの木に振り下ろしてみい』
「は、はーい。えいやあ!」
ブウンッ! ズドメキバキャア!
「あ、きがつぶれた」
ドナタが言った通り、木は見事に押し潰されていた。
『威力は込めた魔力に比例する。そこまで大きいと扱いづらいじゃろうから、もっと細めにした方がいいぞ』
つまり、ライト何とかや何とかサーベルと一緒か。
「こ、これならかっこいー! わーい!」
流石は早熟才子、一回実践しただけで理解したらしく、細いムチにして振り回し始めた。っていうか、危ないな。
ブンブンブン、ビシィ!
「きゃ!? あ、危ない」
エカテルの足元に当たりかけた。そろそろ止めたほうがいいわね。
「はい、ストーップ!」
ぎいんっ!
私は羽扇でムチを受け、そのまま地面に叩き落とす。そのまま羽扇越しに踏みつけ、指揮棒のムチの動きを止める。
「危ないからここで終了。もう少しでエカテルに当たってたわよ」
「え!? ご、ごめんなさい!」
……明日からはムチの集中訓練ね。
「お、おい、親父……」
『うむ。あれは……あの羽扇は……!』