表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
528/1883

第十話 ていうか、骸骨職人さんの手作り指揮棒《タクト》、完成するまでが長いんです……。

「何や。サーチん、持ってたんかいな」


「いやいや、持ってるわけないじゃない」


 雷竜と戦ったこともないんだから、雷竜の牙を持ってるわけがない。


「ていうか、魔法の袋(アイテムバッグ)が自ら吐き出すこと自体が、すでにおかしいじゃない」


 これじゃあバッグが自らの意思で…………あ。


「そうだ。そうだったわ。この魔法の袋(アイテムバッグ)は、炎の真竜(ファイアマスター)から貰ったモノだわ」


「マ、真竜(マスタードラゴン)の一柱からかいな!! そら、ウチらの話を聞いた上での贈り物やないか?」


 ……………あの酔っ払いが? 一緒に飲んでた私が言うことじゃないけど。


「……まあいいか。今度会う時に改めてお礼を言えばいいんだから。お酒を持ってけば喜ぶでしょ」


『もう貰ったぞ』


「? 誰か何か言った?」


「ウチは何も言うとらんで」


「わたしも」


「私も何も言ってませんが?」


「そ、そう……?」


 数日後、秘蔵のお酒がごっそりと無くなっていることに気づくんだけどね。今度会ったら張り倒す。



『雷竜の牙が手に入ったのなら、我らが為すべき事は……ひとおおおつ!!』


 ……骨だけじゃなかったら、さぞかし暑っ苦しい御仁だったんでしょうね……。


「わかったわかった。まずは削ってくればいいんだな?」


『そのとおおおり!』


 ……息子さんは反面教師ってことを、ちゃんと理解して育ったのね。凄まじい半生だったんでしょうね……。


「……おい。頼むから憐れみの目で見るのは、止めてくれないか?」


「あ、失礼」


「何だかんだ言っても、親父には間違いないんだからよ……」


 ……親は選べないからね。


『こぅらああ! 何をしとる! 時は金なり、ダイヤモンドなり! さっさと削ってこんか!』

「てい」

『ふがっ!?』


 背後から強襲し、骸骨から入れ歯を落とす。


『ワ、ワシャ何をしとったんじゃ……?』


「ほら、今のうちに削ってきて」


「あ、ああ」


「細かい指示が必要になったら、入れ歯を蹴り(・・)戻すから」


「蹴るな」


「だって呪われアイテムでしょ? それ以上に素手では触りたくないし」


「まあ……それはそうだが……」


 息子さんは何か言いたげだったけど、雷竜の牙を持って奥に引っ込んだ。



 一時間後。


「おい親父、これくらいでいいか?」


 そう言って戻ってきた息子さんの手には、荒く削られた雷竜の牙があった。30㎝くらいの細い棒だ。


『ふがふが……』


「あ、入れ歯を戻さないと」


「いいんだ、このままで」


「は?」


「まあ見てろ」


 その間に、骸骨は入れ歯もしないままに雷竜の牙を受け取った。


『ふが……ままいいじゃろうて。少々角度は甘いが、また腕を上げたのう』


 あ、あれ? ちゃんとしてる。


「親父は仕事の時は入れ歯を外してたんでな」


 あ、そういうことか。


『細かい意匠に魔術刻印を掘り込むのは、まだまだ任せられんのう』


「無茶を言うな。そんな神業、俺にできるわけがないだろう」


「……?」


「親父は指揮棒(タクト)に紋様を掘り込む際に、魔術刻印も同時に掘り込む技術を持っているんだ」


「……??」


「お前達が理解できなくて当然だ。長年修行させられた(・・・・・)俺でも、未だに理解できないからな」


 さ、させられたって……正直な人ね。


「でもおっちゃん、近くにお師匠さん(おとん)おるんやで。聞こえるんちゃうか?」


「大丈夫だ。入れ歯が外れてる間は耳も遠いからな」


 ……どういう身体の構造してるのかな?



 それから骸骨ゾンビは『ふがふが』だの『あががが』だの呟きながら、細く削られた雷竜の牙に彫刻刀で細工を施していった。


「…………スゴい技術ね」


「わかるのか?」


「分野は違うけど、私も一応プロだから」


 人殺しの、だけど。


「例えが悪いけど、人の身体に刃を通すのにも技術は必要だわ。人の身体の構造を考え、急所へと確実に刃を届かせるって、意外と難しいのよ」


 逆に極めれば、縫い針一本で殺すこともできます。


「それと同じで、あの骸骨は素材の強い箇所と弱い箇所を確実に見極めて、それに沿って彫刻刀を当ててる。あの指揮棒(タクト)の紋様は、あの指揮棒(タクト)にしか掘り込めないオンリーワンだわ」


「そうか、だから個人個人の専用品になるんやな……」



 骸骨ゾンビの作業は休むことなく続けられ、さらに三日間の時間を要した。



 ガチャ カランカラン♪


「おはようございます〜……どう?」


「ああ、もう出来たそうだぞ」


 マジで!?


「あとは本人が試してみて、何も問題がなければ引き渡しだ」


「だそうよ。ドナタ、いらっしゃい」


「ふぁ〜い……くぅ」


「ほらほらドナタちゃん。いい加減に起きましょうね」


「何だ、まだ目が覚めてなかったの?」


 エリザとリジー並みに、ドナタは朝が弱い。


「ん〜……フラフラ」


「エカテル、目覚めが良くなる薬ってない?」


「ありますけど……あまりお子さんにはお薦めしませんね」


「な、何か副作用が?」


「いえいえ。ただ体温が上昇し、大量に発汗を促し、口腔内の痛覚が過敏に反応するだけです」


 ……それって総合すると『辛い』ってことよね?


「まあいいわ。ドナタ、あんたの新武器ができたそうだから、一度試してみましょ」


「ふぁ〜い」


 ……大丈夫かよ、ホントに。


『はっはっはっはっ、ぶひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!』


 ……向こうも大丈夫かよ、ホントに。


「どうしたの?」


「会心の作が出来たみたいで、昨日の夜からあんな感じだ」


「ご苦労様です」


 息子さんの目の下の隈は、それが原因か。


「おい親父、依頼主が来たぞ」


『ぶひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ! ひゃーはっはっはっはっ!!』


「おい、親父!」


『ぐひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!! ひゃはははははははは!!』


「ていっ」


『ふがっ!? ……ワ、ワシャ何をしとったんじゃ〜……』


「後から謝ります、ごめんなさい」


「いや、別にいいんだが……普通は先に謝るじゃないか?」


 かもね。


「それより親父、お客さんだぞ」


『ふが………お、おお。本当に統率者(ガバメンター)じゃ。随分と小さいようじゃが』


「この子は早熟才子(ジニアスキッド)で、見たスキルをある程度再現することができるんです」


『成程、何処かで意識する事なく≪統率≫(ガバメント)を会得してしまったのじゃな。前に使っておった指揮棒(タクト)は折れた、と聞いたが?』


「うん、これ」


 そう言って中古の指揮棒(タクト)を差し出すドナタ。


『どれ……何じゃ、中古か。そりゃ折れて当たり前じゃ』


「だから新品を作ってもらったのよ」


『ふっふっふ、そうかそうか! ならば早速契約(・・)するがよい!』


 ん?


「あの、契約って?」


「何だ、知らなかったのか。統率者(ガバメンター)指揮棒(タクト)には、一種の契約みたいなモノが必要でな」


「ふむふむ」


「その契約が成り立ち、他のスキルが消失して(・・・・・・・・・・)、初めて≪統率≫(ガバメント)をマスターできるんだよ」


「ふむふむ………へっ!?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ