第九話 ていうか、やっぱり中古じゃもたないみたいで、新しい指揮棒《タクト》を作ってもらうことになった。
「指揮棒を作る職人かい!? もうそんなモノ好きいないよ」
「ですよね〜……」
次の日からさっそく探し始めた指揮棒作りの職人さん。やっぱりと言えばやっぱりなんだけど、絶滅危惧種な職業統率者の専用装備を作る職人さんも、絶滅危惧種だった。
エカテルの話だと。
「指揮棒は元々オーダーメイドの一品モノばかりです。使う人の魔力の波長にあわせて調整されてますから、違う人が使ったりすると……」
ピキッ
「あ、もうヒビが入ってます。ドナタちゃんの力を抑えるだけで精一杯みたいですね。早くドナタちゃん専用を作ってもらわないと、また≪統率≫が暴走しかねません……」
「……ていうか、今までよく大丈夫だったわね」
「数ヶ月前にたまたま統率者と遭遇したらしいで。その時に覚えてもうたんやな」
……早熟才子も考えモノだわ。気をつけてないと、どこで厄介なスキルを覚えてくるかわかんないんだから。
「次の店行ってみようか」
「やっぱ元職人を探して、頼み込むんが一番早ない?」
……現職はいなさそうだし……それも聞いてみますか。五分ほど歩いて見つけた武器屋に入る。
カランカラン♪
「へい、らっしゃーい」
「あの、すいませんが、こちらって指揮棒を取り扱っては……」
「あ、あんたら統率者かい!?」
「あ、仲間がなんですが」
「そうか、そうか……。まだ残っててくれたんだな、統率者が」
「あ、あの?」
「死んだ親父が知ったら、さぞかし喜ぶだろうな……」
「死んだ親父さんって、まさか……」
「ああ。この町唯一の指揮棒作りの職人だったんだ」
この町唯一ですって!?
「じゃ、じゃあ他には指揮棒作ってる人は……」
「いるわけねえだろ。この大陸でも数件しかないぞ」
がああああん!
「た、大陸で数件……」
「ぜ、絶望的やな……」
「何だ何だ、深刻そうだな?」
「え、えっと……そう! 仲間の統率者の指揮棒が折れちゃったのよ!」
「何だとおお!? い、一大事じゃねえか」
しばらく考え込んだ武器屋さんは、何か決心したような顔で頷いた。
「……ちょっと待ってろ。親父に聞いてみる」
「親父に聞いてみるって……もう亡くなったんじゃ?」
「ああ」
「ならどうやって……」
カタッカタッ
ん? 足音?
カタッカタッ
「お、ちょうどいいや。親父が来たみたいだ」
「だから……死んだんじゃないの?」
「ああ。だから……骸骨なんだよ」
『何じゃあ、ワシに用事かあ?』
って、骸骨ゾンビかよ! 確かに死んでるわな!
『ふがふが……成程なあ……』
……骸骨でも歯がないとしゃべりにくいモノらしい。
「親父、入れ歯」
『おひょ、ふまんな………いよっしゃああああ!』
へっ!?
『この俺様が町一番の指揮棒職人、タクト様だあああああっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!』
「タ、指揮棒職人のタクトさん? 本名?」
「本名だ」
い、いろいろと濃い人だわ……。
「ていうか、入れ歯入れると人格が変わるの?」
「元に戻る、と言った方がいいな」
……生前はさぞかし豪快な方だったんでしょうね……。
「なあなあ、死因って何やったん?」
「店に押し入ってきた強盗と刺し違えて……」
……この人に相応しい死に様だったみたいね。
「倒れた瞬間に入れ歯が喉に詰まり、窒息死した」
死因入れ歯かよ!
「それ以来あの入れ歯は、親父以外が装着すると喉に詰まる呪われアイテムに……」
いや、そんな入れ歯、誰も使わないって。たぶんリジーでも嫌がるわよ。
『ぶぁ〜っはっはっはっはっは!! 指揮棒を作ればいいんだな! 任せておけ、ふんぬぅぅぅ!』
おいおい、その状態でマッスルポーズ決めたって、筋肉ありませんから。
「本人を連れてこればいいのかしら?」
「その方が早いな。使う本人の体格や魔力の波長も知りたいだろうし……なあ、親父?」
『ぶひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃぶぐぅ! げーほげほげほげほ!』
すぽん!
『はみゃ……ふがふが……ワシも年じゃのう……』
「……大丈夫なの、これ……」
「…………」
おい、息子。見なかったことにするな。
「こ、ここが指揮棒やさんですか?」
一旦旅館に戻って、ドナタを連れてきたんだけど……骸骨ゾンビ見て泣かないよね?
「……いい、ドナタ。人にはいろんな事情があるんだから、店の人の姿を見て泣いたりしちゃダメよ!」
「? …………ん、わかった」
「よろしい。それじゃ入るわよ」
ガチャッ
「らっしゃい。待ってたぜ」
「をを! ないすちゅうねん!」
は?
「わたし、としうえがたいそうこのみなんです。できればわたしとよあけのらんでぶーをぴぎゃ!」
「……すいません。あとでよーく叱っておきますので」
「あ、ああ……」
息子さんはドナタの前にしゃがみこみ、真剣な面持ちで。
「すまんな、嬢ちゃん。俺には妻と子供がいるんだ」
「いやいや、子供相手にマジメにフラなくても」
「がああああん! ……わ、わかりました。どなた、みをひきますうぎゃ!」
「あんたは黙ってろっての!」
店内でぎゃあぎゃあ騒いでいると、店の奥から骸骨ゾンビが現れた。
『ぃやっかましいわ! 何の騒ぎだあああ!』
「あ、がいこつさん」
『ん? んんん? も、もしかして……嬢ちゃんが統率者か?』
「はい、なぜか」
『む、むぅぅ…………!!!』
なぜか骸骨がドナタとにらめっこを始める。
「……ねえ、骸骨は何をしてんの?」
「魔力の波長の見極めだ。生前はあれのせいで、何人の客が逃げ出したことか……」
……そりゃあんな近くで睨まれれば、誰でもドン引きだわね。女性客なら逃げたくもなるわよ。
「??」
『むむむむ……むぅぅ……!』
「あの、がいこつさん?」
『……ぃよぅし、わかったああ! このお嬢ちゃん、かなり特殊な波長を持っとるな。雷竜の牙辺りが妥当だろう』
「雷竜の牙か。在庫があったかな……探してみる」
……波長と相性があう素材ってことか。
「……ない。すまないが……ないな」
『なあああにいいい!?』
「雷竜の牙かあ……なかなか手に入らんヤツやな」
「この近くに雷竜が生息してる谷なんてある?」
「ないな。聞いたことがない」
うーん……弱ったわね。
……ブブブ……
「……ん? 何の音?」
「サーチん、魔法の袋が震えてるで」
「はあ? バッグにバイブ機能がついてるなんて聞いたことないわよ」
ブブブブブブ……ぺっ!
「わ、何か出てきた!?」
「それ……雷竜の牙やないか!」
な、何が起きたの!?