第八話 ていうか、何故か現れないモンスター。その原因は……?
「おかしい……」
「……最近よう悩むなあ、サーチんは……今度は何やねん?」
「モンスターが全く出てこない。明らかに異常事態よ?」
「ええやん。モンスターが出てこないなんて、めっちゃラッキーやで。もしかしたらモンスターが少ない地域なんかもしれへんし」
……モンスターが少ない地域か……それならあり得ないことはないか。
「サーチさん、町が見えてきましたよ」
エリザと話してるところへ、馭者当番のエカテルから声がかかる。
「わかったわ」
この町が一番西端の王国、第十三王国への国境になる。この国を横断した先が、ゴールドサンへと続く海だ。
「へ? モンスターでございますか?」
私達はすぐに町の出入口近くの旅館にチェックインした。そこでモンスターの出現率について聞いてみたんだけど。
「おそらく暗黒大陸内でも、一位二位を争う程の出現率でしょうねぇ」
へ?
「ウ、ウソでしょ?」
「ウチら、一週間くらいモンスターと遭遇してないんやで?」
「え、一週間!? それは余程の強運だったとしか……」
「あの〜……普通でしたら、一日何回くらい遭遇するんですか?」
「そうですねぇ……一日とは言わず、一時間に一回は出るのではないでしょうか?」
「一時間に一回? そらあ多いやないか」
「はい。ですから『大陸内でも一位二位を争う』と申し上げました」
確かに……一時間に一回の遭遇率なら、かなり多いほうよね。
「あの〜……申し訳ありませんが、私もまだ仕事が……」
「あ、ごめんね。はいこれ、お礼」
私は財布から銀貨を一枚出して手渡す。
「あ、ありがとうございます! 宿泊の間に何かございましたら、私めに何なりとお申し付け下さい!」
男はそう言って下がっていった。
「……銀貨ー枚とは奮発したんやない?」
「いいのよ。あの男には銀貨ー枚以上の働きをしてもらうんだから」
「うっわ、えげつな……」
「えげつないって、これは立派な先行投資よ。だからさっそく働いてもらうわ」
部屋で一時間ほど休憩してから、さっきの男を呼び出す。
「はいはい、何でございましょうか?」
「この辺りでさ、腕のいい馬車の修理屋はいない?」
「勿論、心当たりはございますよ」
「なら……」
男に馬車の修理を委託する。
「承りました。二、三日かかりますがよろしいですか?」
「大丈夫よ」
「ではさっそく手配致します」
そう言って男は部屋から出ていった。
「二、三日でできるんかいな? 普通は一週間やろ?」
「ちょっとムチャ振りしてみたつもりだったんだけど……ホントにできたら、あの男って相当優秀なのね」
ならもっとコキ使ってもいいか……ウフフ。
「それはそうとエリザ、ちょっと付き合ってもらえない?」
「ん、何やねん」
「町の外へ。少しモンスター探し」
「モンスター探しやて? サーチんはモノ好きやなあ……」
と言いつつもノリ気なエリザ。やっぱあんたも気になってたのね。
「あ、なら私も」
「わたしもいくー」
「あ、ダメダメ。ドナタは勉強タイムでしょ」
「えー」
「ていうわけだから、エカテルはドナタをお願いね」
「わかりました」
それに……ドナタが来ちゃったら、実験にならないからね。
ドシュ!
……ドサッ
「ふぅ……な、何よ、この異常な遭遇率は!?」
一時間に一回どころじゃないわ。三十分で四回目よ!?
「三盾流奥義、独楽の舞!」
バガガガガガガッ!
「ふう……これでダークゴブリンは全部やで」
「こっちも片づいたわ。少し休憩しましょ」
私は地面にモンスター除けの聖杭をぶっ刺し、石の上に腰を下ろす。
「な、何やったんや、さっきまでの平穏な旅は」
「でもこれでわかったわ。原因は明らかにドナタね」
「そやな。ドナタがパーティに加入した途端、モンスターが出なくなったし」
遭遇したのはモンスターじゃなくて盗賊だったし。
「何が原因や?」
「最初はドナタがモンスター除けの魔術でも使ったのかと思ったんだけど……」
「そんな魔術あるん!?」
「エカテルに聞いたら『無いです。あったら私達のような冒険者は要らないでしょう』だって」
「確かにな。ウチらの仕事がなくなってまうな」
モンスター除けの魔術があるのなら、モンスター除けの護符も当然作れる。つまり、モンスター討伐がメインの仕事と言える冒険者は、ほとんど必要なくなるのだ。
「一応念話でリルに『スキルでモンスター除けのできるヤツはある?』って聞いてみたんだけど『一応≪威嚇≫ってのはあるが、サーチが言うほどの効果はない』だって」
「なら……何なんやろな?」
「う〜ん……モンスターに直接出てこないように話すとか? ……んなわけないか」
「……モンスターと……話す?」
「モンスターのヴィーでもムリなんだから、異種族の私達には到底ムリな話だけどね」
「そうや。話す必要はないんや!」
「へ?」
「モンスターを支配下におけばいいんやないか!」
「モ、モンスターを支配下って……そんなことできるの?」
「サーチん、急いで旅館に戻るで!」
「え!? ちょ、ちょっと!!」
急に走り出したエリザ。私は急いで聖杭を引き抜き、エリザを追いかけた。
「ドナター! ドナタはおらんかー!」
「ドナタを探すのはそなた? ぐふぉえ!?」
「くだらんボケはいらんわ! ドナター!」
見ず知らずのおじさん、状況をよくみてから茶々入れなさいね?
「どうなさったんですか? エリザさん」
「ああ、第一エカテル発見!」
「第一って……第二や第三がいたら怖いんですけど……」
「ドナタおるか!?」
「ドナタちゃん、エリザさんが用事があるみたいよ」
「ちょっとまって、もうすこしでもんだいがとける……」
「ドナタおるやないけええええっ!!」
「ひえっ!?」
「ド〜ナ〜タ〜、お前指揮棒持っとるんやないか〜?」
「ひ、ひ、ひえ〜……こ、こわいよ〜……ぐすっ」
「お・バ・カ! 泣かせてどうすんのよ!」
めごっ!
「ぐぼおっ! ……がぐっ」
「しばらく寝てなさい……ごめんね、ドナタ。勉強ジャマしちゃって」
「ぐすっ……ううん、だいじょうぶ。むしろもっとじゃまして」
……努力の天才ではないのね。
「ねえエカテル。エリザが言ってた指揮棒って?」
「指揮棒ですか? 確か統率者の専用装備ですね」
「ガ、ガバメンター?」
「自分と言葉が通じない者達……主に動物やモンスターですね。それを集団で操る事ができる職業です。呪剣士並みに稀少な職業です」
「……そうか。そういうことか……」
ドナタに統率者の素質があるんじゃないか、ってことか。
「ドナタ、あんた統率者って知ってる?」
「がばめんたー? ≪統率≫のこと?」
「えっと、統率者が唯一使用できるスキルです。≪統率≫によって相手を支配するんです」
「そ、それを知ってるってことは……」
「うん。わたし≪統率≫できるよ〜!」
「な、なら指揮棒を持ってないと大変です。≪統率≫は指揮棒を持つ事が前提条件のスキルですから、下手したら≪統率≫が暴走しかねません!」
「スキルの暴走って……街中にモンスターが乱入してきたりする?」
「あり得ます」
「……調達してくるわ」
……運良く近くの古道具屋にあったので、事なきを得た。近いうちにちゃんとしたヤツを買わないと……。