第六話 ていうか、久々のドロップアイテム。宝箱を開けたら、中から出てきたのは……!
しかし……私達のパーティって、変な攻撃するのしかいないなあ……。
私は羽扇で殴るんだし、リルは素手と全身のバネを使った弓矢。エイミアは勇者なんだけど釘こん棒で、マーシャンは初級攻撃魔術のみ。リジーは呪われてれば何でもOK、ヴィーは≪怪力≫を活かした素手と蛇、たまに杖。エリザは盾で殴り、新メンバーのエカテルは千本ノックと粉薬……。
「……普通は剣や槍なんだろうけど……」
たまに街中ですれ違う冒険者を見てみれば……つくづく思う。
カキィン! ぼごっ!
「エリザさん、背後の三匹は麻痺させました」
「おおきに! 後はウチに任せとき!」
ばがががががっ!
「おー……突進の舞が唸りをあげる……」
要は盾を持って走ってるだけなんだけど、なかなか侮れない威力なのだ。で、見た目のイメージから「ブルトーザーみたい……」と呟いた私の一言以来、この技はブルトーザーという読みが定着している。
「サーチん、終わったで〜〜! 今回もザコばっかやったわ」
「あ、ドロップアイテムが出ていますので回収してきます」
「おおきに〜……ってサーチん、浮かない顔してどないしたん?」
「エリザってさ、剣とか槍とか使わないの?」
「い、いきなり何やねん?」
「いやね、私達ってさ、つくづく普通の装備からは外れてるな〜……って思ってね」
「普通の装備? 確かにそやな。初めてエイミアと会った時は、胸以上に釘こん棒のインパクトが凄かったし」
「で、重装戦士のあんたは剣とか使わないのかな? と思ってね」
「……使うよ。ちゅーより、得意な方やな」
えっ?
「きぃああああああああああああっ!!」
「うわビックリした! エカテル、どうしたの!?」
視線を向けると、そこにはドロップアイテムが入ってる宝箱を開けて、腰を抜かしているエカテルがいた。
「な、どうしたの? まさか死神の箱だった?」
死神の箱ってのは……言わずもがな。
「い、いえ。違います。宝箱の中に……」
宝箱の中から、何かが這い出てくる……這い出る!?
「マズい!! 死出の宝箱かもしれない!」
「そらあかん! エカテル、目ェ開けたらあかんで!」
死出の宝箱ってのは、即死クラスの呪いが内包された最悪最凶の呪われアイテム。敵が稀に落とす超稀少品なんだけど、『中を見たら魔王でも即死』な呪いのおかげでドロップされても速攻で捨てられるアイテムだ。リジーですら「……ヤバい」と呟くほどの一品。ただ、箱の表面にいくつかの特徴があるので、知識さえあれば開けることはない。
「エカテルは知らなかったのかしら!?」
「いや、それはないやろ! 今日び三歳のお子ちゃまでも知ってるで!」
私達がダッシュしてる間にも、箱から出てきた何かはエカテルに近づいていく。
「エカテル、逃げなあかんて! 何してんねん!」
そのとき、私の魔法の袋から、大音量の呼出音が鳴り始めた。これは……緊急時の!?
「はい、もしもし!」
『サーチ姉!』
リジー!?
「一体どうしたの!?」
『ごめんなさい、サーチ姉! あれだけ孫ーズの事を頼むって言われてたのに……!』
「ま、孫ーズに何かあったの!?」
『ド、ドナタが……』
ドナタが!?
『いなくなった!』
「な、何で此処にドナタがおるんや!?」
………ん?
「リジー、ドナタがいなくなったのよね?」
『うん』
後ろを振り返ってみると。
「なあ、何で宝箱から出てきたんや?」
「……えりざこわい」
…………エカテルに抱きついてるのって……。
「……見つかったから心配しないで」
『は?』
「……で? 何で宝箱の中から、あんたが出てくるわけ?」
宝箱から飛び出してエカテルにくっついた子……ドナタは、バツが悪そうにソッポを向いた。
「……さーちんたちをおいかけて、ぐんからぬけだした」
ダメじゃん!
「そしたらだーくごぶりんにつかまった」
ますますダメじゃん!
「そこからおぼえてない」
………宝箱から出てくるまでの間が、一番興味深いんだけど……。
「まあええやないか。こうして無事やったんやしな」
「さすがえりざ、はなしがわかる」
「ていうか、何で私達を追っかけてきたわけ?」
「だって……りじーこわい」
あはは……要は脱走してきたのか。
「かなたとそなたは、りじーがすきみたい。けどわたしはむり」
「……はああ……ドナタ、今すぐ念話しなさい」
「なぜ?」
「リジーが心配してるからに決まってるじゃない。ほら、さあ!」
「む〜……ぶぅ」
イヤイヤながら、ドナタはリジーに念話する。
『…………もしもし! サーチ姉……あ』
「は、はろー。ないすとぅーみぃーとぅー」
「誤魔化してないで、きちんと謝りなさい!」
「む〜………………すまなんだ」
『………………く』
あ、リジーが震えてる。怒ったかな?
『く…………うわあああああああああん! よ゛がっだよ゛〜!!』
「あ、あれ? りじー?」
……よく見たら目の下にクマもできてる。よっぽど心配してたのね。
「ほら。ちゃんと謝りなさい」
「うん……りじー、かってにぬけだしてごめんなさい……」
『うええええええええん! い゛い゛の゛よ゛!! 無事だっだら゛ぞれ゛でい゛い゛の゛よ゛!』
何言ってんのかわかんないわよ!
「うん、ありがとう」
わかるの!? ドナタわかったの!?
……そのあとに副長さんに代わってもらい、今後のことを協議した。
「じゃあドナタを迎えに来るだけの兵の余裕はないと?」
『はい。もうすぐ敵と遭遇する率が高い以上、軍を分散する余裕はありません』
「……リジーは迎えにこれない?」
『ソナタ様とカナタ様まで脱走されては敵いませんので、リジー殿に張り付いて頂いております』
あり得るな。
しかし、軍も出せなくてリジーも動けないとなると……。
「……仕方ない。グリムに頼んでみるか」
『あ、それは駄目です。すでにグリム様から「サーチ達に面倒みさせろ」という通知が』
また先手を打たれた!
「く………し、仕方ない。あんた達が迎えに来れる余裕ができるまで、ドナタは私達が預かるわ」
『そうしていただければ、とっっても有り難いのであります!』
……ホントに余裕がないのね。
「やったああ! ありがとうさーちん!」
「だけど、一時的だからね? 迎えがきたら、素直に帰るのよ。いいわね!?」
「……え〜……」
「え〜……じゃない! 言うことが聞けないなら……」
右手に現れたハリセンを見て、ドナタはとっさに姿勢を正して敬礼した。
「というわけで、みなさま、よろしくおねがいいたすのであります!」
……あ〜あ。仲間というか、保護対象というか……。とにかく、旅のメンツが増えた。