第三話 ていうか、ゴールドサン公国へ、出発進行…………するまでの、準備なんです。
「……ゴールドサンにそんな伝承が……」
「ええ。アレックス先生が一度訪問した際に、割り当てられた部屋の壁に書かれてたらしいわ」
「部屋の壁ですか?」
「ゴールドサンの古代文字だったそうよ。先生も二日間かけてようやく解読したって」
「……どんな内容が?」
「魔神が来た〜、怖いよ〜……的な内容だって。やたら『お父さん、お父さん!』 って書いてあったって」
……何か聞いたことがあるような……? 私が聞いたことあるヤツは、神じゃなくて王だった気がするけど。
「? ……あまり意味がないような……」
「だから先生もすっかり忘れてたらしいわ。まあ……二日間の苦労の結果がそれだから、忘れたくもなるわよね……」
でも、他に伝承が残ってる可能性は、十分にあり得る。行って探ってみる価値はあるわ。も、もちろん、私の個人的な用件は二の次よ。ええ、あくまで『ついでに』だからね!!
「ま、とにかくエカテルも付いてきてね?」
「はあ……わかりました。断っても、命令されるんですよね……」
よくわかってるじゃない。
その足で第十九王国軍の元へ向かい、戦闘馬鹿……もといグリムに面会する。
「何だ、急な用件とは」
「アレックス先生に頼まれて、ゴールドサン公国に行くことになったから、その許可を貰いに」
「あぁ? これから本格的な戦いだって時にか?」
「これを読んでくれって、アレックス先生から預かってます」
グリムにアレックス先生の手紙を渡す。
「どれどれ…………ふむ…………成程な。大砲の量産の可能性か」
「今回倒した大王炎亀の死体を調べた結果、頭に近い甲羅は若干薄いことがわかったそうです。そこへ大砲を撃ち込むことができれば、一撃で倒せる可能性が高いと」
「ゴールドサン公国の製鉄技術は世界一だ。その技術を以て大砲を作れば、大量の火薬の衝撃に耐えうるかもしれない……か」
「もし成功すれば、対大王炎亀戦の切り札となります」
「……今後の戦局をも左右しかねんな……」
しばらく考えていたグリムは、ふいに立ち上がり。
「わかった。ゴールドサン公国への訪問、許可してやる」
「ありがとうございます」
「ただし」
「た、ただし?」
「優先事項を間違えないように」
バ、バレてるし!
「わ、わかってますよ〜……あははは……」
「……ならいいが……」
戦闘馬鹿、意外と鋭いわね……。お土産でも買って、ご機嫌とっといたほうがいいかな?
「土産はいらんからな?」
ま、またまたバレてるし!
その日のうちに、食料等の必需品の準備をすませる。ていうか、ほとんど軍の兵糧から供出してもらったから、準備に手間はかからなかったけど。
「あ〜あ……見事に保存食ばかりね。無限の小箱が懐かしいわ……」
やっぱ『保存中は時間が止まってる』って機能、最高だったわよね。腐る心配どころか冷める心配すら必要なかったし。
「やけどリジーから借りた魔法の袋には、保冷機能があるんやろ?」
「あるけどさ。やっぱ時間が止まる機能には負けるわよ。長期の保存はできても、やっぱ鮮度は落ちちゃうから……」
「あー……やっぱ保存食に頼るしかないんか」
干し肉に干し野菜にかったいパン等、正直美味いと思えるモノじゃない。
「でも米があるから、水があれば何とかなるわ」
「米ねえ……」
やっぱ前世が日本人だったから、米は大好きだ。だけどこの世界の主食は小麦。米はイマイチ人気がないのだ。
「いろいろバリエーションがあるから、飽きないと思うわよ。いつだったか作ってあげたパエリアは『めっちゃ美味いやん……』って感動してたじゃない」
「あ、あれなら毎日でもええな」
やだよ、めんどくさい。
「今度はチャーハンかな。これも美味しいわよ」
「そうかいな。期待せずに待っとるわ」
ふ。米の美味しさを知らないとは……不幸なヤツ。
「そういえば、エイミアだけはご飯を喜んで食べてくれたのよね。あ〜あ…………早く会いたいな……」
……今頃は、何をしてるんだろな……。
……その頃、エイミアは。
「……抜き足、え〜っと………何とか足、忍び足……」
「エイミア様。何をブツブツ言いながら歩いてるのですか?」
「ひえ!?」
「早くお部屋に戻りましょう。明日も早いですよ」
「………………はい」
……逃げる特訓をしていた。
「それじゃリジー、あとは任せたわ」
「ん。孫ーズの事は任せて。ビシバシと指導する」
「びしばし? どかばきだったよ」
「りじぃ、こわい」
「……こわい」
……意外とスパルタなのね。
「……リジー、もし戦況が危うくなってきたら……自分と孫ーズの命を第一に考えて。これは絶対命令だからね?」
「サーチ姉、私は奴隷じゃない」
「あ、そうだったわ」
「だけど……守る。この約束は、絶対に守る」
「……ん。頼んだわよ」
「さーちん、ふぁいと!」
「さーちん、はやくかえってきてね!」
「……さ、さみしくなんかないもん」
「三人とも、リジーを頼んだわよ」
「「「はい!」」」
「気を付けていってきなさい。頼むから私をドキドキハラハラさせないでくれよ?」
「わかりました。必ず朗報を持ち帰ります」
さて、名残惜しいけど……。
「出発するわよ!」
「よっしゃ、行こか」
「お供させて頂きます」
ブルヒィィン!
カッポカッポカッポカッポ
ガラガラガラ
私の声が聞こえたかのように、セキトは歩き始めた。
「「「さようならー! はやくかえってきてねー!」」」
……孫ーズの元気な声は、孫ーズの姿が見えない距離になっても……響いてきた。
「あーあ。さーちん、みえなくなっちゃった……うえええん!」
「さーちん、いっちゃった……うえええん!」
「ほらほら、泣いてないで訓練始める」
「ねえりじぃ」
「ん?」
「あのばしゃのおうまさん、たまにすきっぷしてない?」
「ん〜……何故かサーチ姉が乗ってるときに、やたらとスキップする」
「あ〜、じゃあおうまさんはさーちんがすきなんだ」
「……そうかも……と思われ」
「「「おもわれ!」」」
「…………今日の訓練、いつもの倍で」
「「「ええええええええええっ!?」」」
カッポカッポカカッポカカッポ
ガラガラガラ
……セキトのヤツ、ホントにスキップしてるわね。一体何者……?
『……あ〜あ、なんだいなんだい。念話が通じるようになった途端に、本拠地は用無しって事かい』
『何を荒れてるの〜?』
『ん? ……ああ、あんたかい。何か用かい?』
『私もそろそろ移動するから〜、少しの間お邪魔してもいいかしら〜?』
『……いよいよあんたも動くんだね。なら私も便乗しようかね』
『あら〜、手伝ってくれるの? 嬉しいわ〜』
『ふん。ゴールドサンがキナ臭いからね。仕方ないさ』