第二話 ていうか、アレックス先生が訪ねてきたんだけとコラ。まだまだ完成してないってどういうことだコラ。
ある日、順調に進軍していた私達に、お客さんが訪ねてきた。
「しばらく平和だと思ってたけど、やっぱり騒動が起きるのかな……」
かなーりイヤな予感がするけど、エカテルが連れてきたお客さんに会うため、馬車から顔を出すと……。
「いやいや、久しぶりだね。元気だったか?」
アレックス先生の顔を見たとたん、イヤな予感は吹っ飛んだ。
「お待ちしておりました、アレックス先生! ここにいらっしゃったということは、ようやく完成したのですね!? そうなんですよね!? なら早くください。ちょうだい。ていうか、出せやコラ」
「ちょちょちょ待ちたまえ!! まだ用件も何も切り出してないんだが!」
「用件なんか知るかコラ。さっさと身ぐるみ剥いで置いてけコラ」
「サーチ姉、途中から単なる追い剥ぎになってる」
え? …………わ、私としたことが……おほほ。
「……おほん! 失礼しました。それでアレックス先生、何の御用でしょうか?」
「あ、ああ。まずはアレキサンダー・タートルを討伐してくれてありがとう。あそこまで新鮮な状態だと、研究が捗るよ」
私が大砲の零距離射撃でぶっ殺した大王炎亀の死体は、倒した私に所有権があるらしいので、アレックス先生に引き取ってもらっていた。無論、例のブツを準備してもらうために。
「いえいえ、それで……」
「少し待ちなさい。ちゃんと君への報酬の件だ」
ぃやったああ!
「結論から言えば……まだなのだ」
……………………あ?
「まだってどういうことだコラ? シバくぞ? シバいちまうぞコラ?」
「サーチ姉、ストップストップ。どうどうどう」
「だから……! 最後まで話を聞きたまえ!」
え? あ……………おほほほほ。
「ごほん! ……重ね重ね失礼しました。で?」
「あ、ああ。できていないが、完成させる為に手伝ってもらえないかと思ってね」
「手伝います。ていうか、手伝わせて。ていうか、早く作れやコラ」
「サーチ姉、さっきからキャラがおかしいと思われ」
「仕方ないんだよコラ。巨乳がかかってるんだよコラ」
「さ、サーチ姉! 顔が近い近い!」
「冗談よ冗談。なーに顔を真っ赤にしてんのよ。あ、さては……私にホレたな?」
「……っっっ!!」
あ、あれ? リジーのヤツ、スゴい勢いで逃げてった……。
「……何で逃げるのかな」
「君は……わかってやっていたのではないのかね?」
「いや、流石にそれはないかと……」
「……あの娘も不憫だな……」
どういう意味よ。
「さて、話を戻すが……君に約束していた報酬だが、まず巨乳になる薬」
わくわく。
「残念ながら今回の個体の質が悪くてな。もう一つ薬品を足さないと効果が期待できそうにない」
「効果が期待できないって……大きくならないってこと!?」
「いや、大きくはなる。だが持続性がないモノになってしまう」
「な、何ですってええ!?」
「落ち着け。だからもう一つ薬品が手に入れば、何ら問題はないと言っただろう」
「あ、そっか。それって何て薬なの?」
「マンドラゴラの根っこだよ」
出たああああっ! ファンタジーではお馴染みの、抜くと悲鳴をあげるといわれる魔草!
「この大陸には、何件かマンドラゴラを栽培する農家がいてね」
農家スゲえな!
「わ、わかったわ。マンドラゴラの根っこを貰ってくればいいのね!?」
「いや、もう一つ」
まだ何かあるのかよ!?
「ビキニアーマーの作成なのだが……獲れた逆鱗は逆に品質が良すぎてねえ……」
「品質がいいんなら……何が問題あるの?」
「加工が困難らしくて、知り合いの防具屋に断られたんだ」
がーん!! そ、そんなオチありなの!?
「その防具屋が『ゴールドサン公国お抱えの防具屋なら、加工できるかもしれん』と言っておってな」
「ゴ、ゴールドサン公国?」
「大陸の西に、複数の群島がある。その群島の一つがゴールドサン公国。統一王国と同時期に誕生した、暗黒大陸最古の国だよ」
「じゃ、じゃあその国へ行けば、ビキニアーマーは何とかなると?」
「おまけにその群島の特産品がマンドラゴラなんだ」
いよっしゃああ! 一石二鳥!!
「ならすぐにでも……!」
すぐにでも出発しようとする私を、近くで聞いていたエリザが止めた。
「ちょい待ちぃや。ウチらは正統王国に雇われた身やで? 何の断りも無しに、軍から離れたらあかんやろ」
うっ!
「それに孫ーズの指南役も承けてるんやで? それも中途半端で終わらすんか?」
ううっ!
「何より……そのゴールドサン公国まで、どうやって行くんや?」
ぐふぉ!?
「その辺りは私が解決できるよ」
うおおお! アレックス先生が輝いて見える!
「まず軍からの離脱の件だが、私からの依頼とすれば問題ない」
「あ、そやな。それで大王炎亀狩りできたんやもんな」
「ゴールドサン公国には私も用事がある。だから何の問題もない」
「なら、孫ーズの指南役はどうするんや?」
「二手に分かれたらいい。指南役にパーティ全員が必要なわけじゃないんだろ?」
「そら……そやな」
カナタとソナタは私とエリザとで実戦形式の訓練、ドナタは軍の魔術士から講義を受けている状態だ。
「なら、ウチが残って二人を……」
「エリザストップ。その役、私が引き受ける」
ん? リジー?
「私も何回かカナタとソナタと稽古した事がある。だから、私でもできる」
「そ、そやけど……」
………。
「待って。リジー、あんた……やってみたいのね?」
「うん。あの二人を育ててみたい」
……リジーが呪われアイテム以外に興味を示すなんて、初めてじゃないかしら……。
「……わかった。リジーに任せるわ」
「サーチん!?」
「エリザ、リジーが自分から言い出すなんて、今まで一度もなかったのよ。これはリジーにとっても、成長するいいチャンスだわ」
「…………はあ。リーダーであるサーチんが言うんなら……」
「というわけで、リジー。責任持ってやりなさい」
「わかったサーチ姉、ありがとう……それと」
「ん?」
「……べーっ」
は?
「じゃあ早速訓練してくる」
リジーはスキップしながら、孫ーズの馬車まで走っていった。
「……何あれ?」
「ウチにわかるわけないやろ……」
結局、私とエリザとエカテルの三人で、ゴールドサン公国に行くことになった。
「えっ!? 私も行くんですか?」
「そうよ。長旅になるかもしれないんだから、回復要員は必要でしょ」
「でもサーチさんの個人的な用件で、そんなに長く離れて良いのですか?」
「もちろん、個人的な用件だけじゃダメよ。もっと重要な理由があるの」
「……と言いますと?」
「アレックス先生の用事を頼まれたんだけど、そのときに意外な情報が聞けたのよ」
……一時間ほど前のこと。
「……じゃあ、その標本を見せればいいんですね?」
「ああ。すまないがよろしく頼むよ。それと、頼まれていた紹介状だ」
「ありがとうございます〜♪」
「しかし……ビキニアーマーに拘らなくても、もっといい装備があるのではないかね?」
「いいんです。ビキニアーマーは、私のアイデンティティーなんです! 絶対に外せない身体の一部なんっす!」
「……まあ、拘りは人それぞれだからね」
「……あ、そうだ。アレックス先生なら知ってるかな?」
「ん? 何かね?」
「魔神……なんて聞いたことありませんか?」
「魔神……かね。ちょっと待ちたまえ………どこかで聞いたな……」
「マジっすか!?」
「えっと……………あ、そうだ。ゴールドサンだ。君達が向かう、ゴールドサン公国の古い伝承に登場してたはずだ」