第二十三話 ていうか、あんたは私達の仲間……じゃなく奴隷だからね?
「結局そういった面に絆されて、エイミアのムチャな頼みを承諾したのね……」
「周りが敵だらけの環境で、唯一私だけを信用して下さり、このような重要な事を打ち明けて下さった。ここまでされてエイミア様を裏切るような真似、私にはどうしてもできませんでした……」
……エイミアって意外と人を見る目はあるのよね。
「……あんた、これからどうするの? 組織から追われることになるんじゃない?」
「いえ、それはありません。私の行動がバレた時は、エイミア様の所業が発覚する事と同じ。故に慎重に事を進めました。ですから、今回の件が実家に知られている可能性は絶対にありません。あくまで私は、エイミア様に無礼を働いて前線に飛ばされた身です」
………プロがここまで断言してるんだから、今回は信じてみますか。
「もしもエイミアの身に危険が及ぶようなことがあれば……あんたの命は無いわよ?」
「わ、わかっています! エイミア様の身に何かあれば、私の命で「あんたの命程度で償えると思うな」……わかった」
よし、これで尋問は終わりね。あとは……。
「このままじゃ拷問が行われたとは、誰も思わないわよね……」
おでこと腕が赤くなってる程度だし。
「悪いけどさ、偽装工作させてもらうわよ。これもエイミアの件がバレないためだからね?」
「そう……ですね。わかりました。鞭で打たれた痕を付けるのですね?」
「はあ? その程度じゃ偽装とは言えないわよ」
「え………な、何ですか。そのワキワキと動かす手は!?」
「これもエイミアのためよ。悪く思わないで……ね!」
ビリイイイッ!
「!! い、いやあああああああああっ!!」
ガラッ
「…………ふぅ」
「終わったか?」
「ええ。あの子、皇帝の前で粗相をして、罰として戦場に飛ばされただけみたいよ」
「何ぃ? 本当にか?」
「あそこまでされてもしゃべらなかったんだから、ホントのことだと思う」
「あそこまでされて………!? な、何をしたんだお前!?」
「別に。女しかわからない痛みってのがあるのよ?」
少し妖艶に笑ってやると、拷問役の兵士は完全にドン引きしていた。そしてエカテルの様子を見て、さらにドン引きしていた。
そらそうか。肝心な箇所をギリギリ覆う程度に引き裂かれた服で、白目を剥いて気絶してるんだから。
え? 何をしたんだって? 猿ぐつわを噛ましてから、気が狂いそうになるくらいくすぐっただけですけど? ちゃんと肝心な箇所は見えないに破いたし、涙やヨダレも吹いてあげたわよ。
「ま、最低限の尊厳は守ってあげたから、大丈夫でしょ」
……しばらくの間、私の周りで「あいつ、鬼だぜ……」「たぶん拷問が趣味なんだぜ……」と言うヤツがいたので、シバいておいた。偽装工作なんだから仕方なかったんだよ、ふん。
次の日、エカテルが回復したのを見計らって、牢屋を訪ねてみた。
「はろはろ〜♪」
「ん? ……げっ! 昨日の!?」
「げっ! とは何よ、失礼ね」
「す、すまん。また誰かを拷問か?」
「……あんたにしてあげようか?」
「いいいいや!! 全力でご遠慮申し上げます!」
「……ま、いいけどね。エカテルは起きてる?」
「ああ。さっきご飯を届けた時には起きてたぞ。何故か異様に怯えられたが」
……やり過ぎたかな? それとも演技?
「なら話してくるわ」
「お、おい! これ以上は耐えられないんじゃ……」
「拷問しにきたわけじゃないから!」
「……エカテル、今いい?」
「もぐもぐ…………ぶふぅぅぅ!?」
「汚な! 食べてるモノを吹き出さないでよ!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい申し訳ありません!」
……あれ? マジで怯えてる?
「もう何にもしないから大丈夫よ」
「な、何も……しない? は!? そう言って安心させたところで襲撃するつもりですね!!」
「しないわよ。今日は普通に話したいだけ」
「話したい……だけ? は!? そう言って打ち解けた時を狙って!?」
「何にもしないっての! いい加減しつこいと、またくすぐるわよ!?」
「い、いやぁぁぁぁぁ!! 許して下さい、申し訳ありませんでしたぁぁぁぁ!!」
……たく。
「もう何にもしないから、お願いだから私の話を聞いて」
「は、はい……ガクガクブルブル」
……子供レベルの拷問でも、案外追い詰めることはできるモノなのね。
「まずは……あんたはこれからどうするの?」
「そ、そうですね……。表向き前線送りにされた以上は、エイミア様の元へは戻れないでしょうし……」
「あ、そっか。前線送りってよっぽどのことだもんね。なら組織にも戻れない?」
「組織? あ、実家ですか。そうでしょうね。私の行動は許されるモノではありませんから」
「なら行き場がないのね。いっそのこと、違う大陸に行ってみない?」
「違う大陸ですか?」
「ええ。私の仲間にエリザってのがいるんだけど、私の幼なじみの貴族のメイド長をしてるのよ。たぶん、雇ってくれるように口利きしてくれるわよ?」
「でも……別の大陸に移るのですか……」
「エイミアもどうせ元の大陸に戻るし」
「でしたら行きます。行きますとも。ええ、地獄の彼方までも!」
さっきの迷いは何だったんだよ!
「なら私達のパーティと行動を共にしなさい。あなたは敗残兵の一人として、私達のパーティに奴隷として来てもらうから」
「わかりました…………………………へ?」
反応が遅い!
「だから。正統王国の場合は、敗残兵は奴隷として国に連れ帰るのが当たり前なんだって。どっちに転んでも、あんたは奴隷になるのが決定事項なの」
「ええええええええええええっ!?」
それぐらい調べてから捕虜になれよ!
「ま、私達についてくれば悪いようにはしないわよ。言っとくけど、男なんかに奴隷として雇われたら……どうなるかしらね?」
「ひ、ひぃぃ!」
「ま、貞操の危機は免れたから良かったじゃない。ちなみに、戦闘なんかでは何ができるの?」
「え? 私は非戦闘員ですよ?」
「そうなの?」
「はい。私は実家では毒の調合を専門としていました」
毒かあ……それは私のカテゴリに被るなあ。
「とはいえ、薬草を混ぜ合わせる事になりますので、当然回復薬なども調合できます」
「あ、それはいいかも。どれくらい回復できるの?」
「欠損箇所を元に戻すくらいはできます」
すげえな!
「更に燃焼石を組み合わせて、火炎薬も調合できます」
「な、何それ?」
「えっと……激しく燃えます」
それ、薬は薬でも火薬よね!?
「それから……氷結石を組み合わせて、凍結薬も作れます」
「ま、まさか……」
「はい。対象を凍らせます」
「すげえな! っていうか、どういう薬なんだよ!」
「あ、ただ……血を見ると気絶しますので」
「使えるのか使えねえのか、よくわかんねえよ!」
こうして。
奴隷兼薬師のエカテルが仲間に加わった。