第二十二話 ていうか、エイミアのためなら、拷問もやむを得ず♪
「えぐっ、ひっく。いだい、いだいいい」
「ほら、キリキリと話しなさい」
「はい、話します。話しますから、もう止めてえええ!!」
わかればよろしい。
「はい、まずはお名前」
「エ、エカテル……」
「姓は?」
「……な、ない」
カチャカチャ
「ひ、ひぃぃ!! ア、アーガスですぅぅ!!」
……こんだけ痛い目にあっても隠すってことは……家名に何かあるわけね。
「はい、次。あんたの役職は?」
「皇帝付きのメイド……」
「……兼?」
「ご、護衛です」
「もう一個くらい『兼』が付くよね?」
「…………」
ガチャッ
「次はどこに刺す?」
「ぎゃ!? か、監視役です!! アーガス家は代々暗殺者や工作員を束ねてきた家柄で、私も上からの命令でエイミア様の元へ潜り込みました!」
……やっぱり、か。
「ならエイミア……皇帝は、自由のきかないお飾りなのね?」
「……は、はい……エイミア様はご自由のない立場にいらっしゃいます……お可哀想に……」
つまり監視対象に同情しちゃったわけか。なら……命の危険は今のところはなさそうね。
「どういう経緯でエイミアが皇帝になったのか、詳しく言いなさい」
「わ、私はその辺りは知らないです。私がエイミア様に潜り……いえ、お仕えするようになった時には、すでに皇帝になられてました」
ふむ……ウソは言ってないようね。
「はい次。普段のエイミアの様子を、できるだけ詳しく解説しなさい」
「……さっきから気になっていたが、何故エイミア様を呼び捨てにする?」
「なぜって、エイミアは私の大切な仲間だからよ」
「!!? ま、まさかお前は……サーチ?」
「! ……何で私の名前を知ってるのかしら?」
「……エイミア様が私にお話しされてたからだ」
………。
「その内容、詳しく話しなさい」
「? は、はい……わかりました」
内容次第で、コイツがホントのことを言ってるかがわかる。
「先に言っておきます。ごめんなさい」
は?
「サーチの事は『とっても仲間思いで面白いんだけど、戦いの場では手段を選ばない非情の人』だと仰っておられました」
まあ……間違ってはないわね。
「『だけど露出狂で、たまに私の胸をジロジロ見てため息をついてる』……とか」
ま、間違ってはないわね。
「『お』…………い、言えない! あなたが不憫すぎて……私には言えない!」
「……言いなさい」
「で、でも!」
ガチャッ
「次は足かしら〜♪」
「わ、わかりました! 言います! 言いますよ! ……けど……私に怒らないで下さいね?」
「わかったわよ。怒らないから言いなさい」
「『大きいのってそんなに良い事じゃないですよ。肩凝りますし、走ると揺れますし』……全く悪気はないと思いますが……」
ブチッ
「……あんたの皮を剥ぐわ」
「ちょ……怒らないって言ったじゃないですか!? というより、完全な八つ当たりですよね!?」
「…………」
「な、何で私の指を……」
ピリィ
「いったああああああい! 止めて! 逆剥けめくらないでええええっ!!」
「もう嫌だあ……深爪も……雑巾絞りも……つねるのも……! 今度は逆剥けを……!」
……何かこうして冷静になってみると、私の拷問法って子供っぽいような……。
え? さっきから「カチャカチャ」とか「ガチャッ」って鳴ってるのは何んなんだって? あんまり意味は無いから気にしないで。雰囲気作りってヤツよ。
「でも……エイミアなら言いかねないわ。再会したら、限界以上に頬っぺたを引っ張ってやる」
「そういえば、エイミア様は『私の頬っぺたはよく伸びるのよ』と仰っておられました」
ついに自分のアイデンティティーとして認めたよ!
「『引っ張ってみてもいいですよ』と頬を差し出された時は、本当に困りました……」
……自分に仕えてる人に、なんちゅうムチャ振りしてんのよ……。
「あ、それと、サーチ様のことを『こ、この世で一番大切な人です……きゃ♪』と仰っておられました」
……別に『きゃ♪』まで再現しなくてもいいから。
「……たく、あの娘ったら……。絶対に取り戻して、頬っぺたを引っ張り尽くしてやるんだから……」
「あの、私はこれからどうなるの?」
「どうなるも何も、まだまだ聞くことはたくさんあるわよ?」
「ひ、ひええ……」
「さて、次はエイミアの居場所と警備態勢についてだけど……」
それから三十分ほど、エカテルからいろんな情報を引き出した。たまに、しっぺやデコピン等の拷問を織り混ぜながら。
「……よし、聞きたいことはこれぐらいかな」
「ぐす、えぐ……もう嫌だあ……デコピンに、しっぺ……」
「それじゃあホントのことを教えてちょうだい」
「ほ、本当の事? もう何も……」
「あのね、普通に考えて皇帝の側仕えが、こんな戦場にいるわけないじゃないの」
「あ、えっと、それはその……」
明らかに動揺してるわ。わかりやすい。
「あんた、もしかしたら……わざと捕まったんじゃないの?」
「!!」
「理由は……そうね。エイミアから依頼されて、私達に接触するため……違うかしら?」
「……何故そう思うの?」
「私達のパーティではね、いくつかの符号を作ってるの。そのうちの一つが『頬っぺたがよく伸びる』ってヤツ。これは『この人は信頼できますよ』って意味なのよ」
「そう……だったの。エイミア様は私を気遣われて、そのような符号を託されたのね……」
………。
「はい、その通りです。私はエイミア様に依頼されて、あなた方を探しておりました」
「やっぱり。そうじゃないかと思ってたんだ」
じゃなきゃ、こんな子供っぽい拷問をするもんですか。単なる捕虜だったら死ぬ手前まで追い詰めるわよ。
「あ、それとね。さっき言った符号。ウソだからね?」
「え゛っ」
「あんな符号決めたって、エイミアはうまく使えっこないわよ」
ヘタしたらボロが出る可能性が高いし。
「……本当にあなたはエイミア様をよく理解していらっしゃいますね……」
「どうせあの娘のことだから、皿とか家具とか破壊してない? わざとじゃなく、天然で」
「…………皿は記録を更新中です…………」
あ、やっぱり?
「でもあなたの命懸けの行動のおかげで、いろいろと貴重な情報が入ったわ。ありがとう」
「い、いえ。エイミア様のお役に立ちたかっただけです」
「…………ねえ、エイミアってそこまで忠誠を誓うほどの人物?」
「何を言われますか! あの方の神々しい立ち振舞いは、見る者を惹き付けて止みません。誰もが進んで助けたいと思える、とても尊い方でございます!」
「え〜っと、つまり訳すと……見てるだけでも何をやらかすか、危なっかしくて仕方がない。でも可愛いくて素直だからみんな助けちゃう、ある意味役得な方……って感じ?」
「……………………まあ、噛み砕いて言えば、そのような感じかと」
……ドジッ子アイドルなわけね。