第二十話 ていうか、夢から覚めたけど、何だか現実とは思えず……。
ガバッ
「ゆ、夢……?」
スッゲえリアルな夢だったなあ……額の汗を拭おうとして右手をあげると。
「!? か、噛まれた痕!? ま、まさか……ホントに……?」
それじゃあ……三冠の魔狼が出てきたのは……夢じゃなかったんだ……。
「……ってことは、あの夢の内容も……アイツの裏切りも……現実なんだ……」
そんなことを呟いていたら、頬に液体の感触が。
「あ、あれ……? あれあれ……? な、何で私泣いてるのよ……?」
あ、あはは……な、涙が……止まらない。
「……ぐすっ……何で……何で!! 何でなのよおおおおおおおおお!!」
……リジーが心配して部屋を訪ねてくるまで、私は泣き続けた。
「……ごちそうさま」
「……!!」
「な、何よ」
「サーチん……」「サーチ姉……」
がしぃ
「「何があった!?」んや!?」
え……ちょっと。
「おかしい! おかしすぎるで!」
「こんなのサーチ姉じゃない!」
「な、何よ。私がたくさん食べるのが変だって言うの?」
「……朝からサーチんの様子がおかしいんはわかってた。やから、そっとしとこか、ってリジーと話し合ってたとこや」
「多分食欲もないだろうから、少なめに注文しておいたのに……」
「だ、だから私がたくさん食べるのがダメなのかっての!!」
「「落ち込んでる時は食欲無くなるのが普通だ!」」
「やかましいわ! 私は逆でやけ食いするタイプなんだよ!」
「……つー事は、落ち込んでたんは、認めるんやな?」
ギクッ! は、嵌められた!
「さて、何があったん? ちゃんと聞かせてや」
「聞かせてや」
「わ、私の個人的な悩みを打ち明けられるはずないでしょ!」
「……嘘やな」
「……嘘と断定」
何でよ!?
「「……いつも通り、顔に出てる」」
げっ! 顔をペタペタ触って誤魔化そうとするけど、時はすでに遅し。仕方ない、最新手段! テーブルの上に顔を突っ伏して、表情を隠した。
「……サーチんが落ち込むってのは、自分以外で何かあった時やろ? やったらウチらに関わる事とちゃうの?」
「面の皮が厚いサーチ姉が落ち込むんだから、余程の事と思われ……ぎゃひんっ!!」
「面の皮が厚くて悪かったわねっ!!」
「…………!! …………!!」
「サ、サーチん! 男やのうても、股間を蹴りあげるんはキツいで!!」
…………あ、そうね。ついうっかり本気でやっちゃったわ。
脂汗を滲ませてのたうち回るリジーを、仕方ないので介抱した。
「……さて、話に戻ろか?」
……まだ股間を押さえてるリジーが、恨めしそうに私を睨む。私の手を握り返して「……○が欲しい」と言ったりはしないけど。
「……聞いてるん?」
「あーはいはいごめんなさいちゃんと聞いておりますとも! もちろんですとも!」
「……胡散臭い返しはいらんわ」
さいですか。
「で? 何があったんか、話さへんのか?」
「それは……その……」
「……そんなにウチらが信用ならんのかいな?」
「そんなわけないじゃない!!」
「そんだけ断言するんなら……話してくれへんか? ウチら、仲間であり……友達やろ?」
………………ああ、もう! こうまで言われたら、話すしかないじゃないの……!
「……わかった、全部話すわ。ただし……覚悟だけはしといてね?」
「「……覚悟?」」
「それくらいの内容なんだって、腹を括りなさい」
「……わかった。ええで。いつでもドンと来いや」
「……ドンと来いや」
二人の表情で覚悟を読み取った私は、昨日の夢の内容を語った。
「……マジなん?」
「エリザもわかるでしょ? ルーデルの言ってることは、辻褄が合うって」
「そ、そうなんやけど……一回会っただけやけど、そんな事する人には見えなんだで?」
「そうよ! 私だって信じられないんだから!」
話を聞き終わったエリザがした反応は、当然のモノと言える。ただ、リジーだけは様子が違った。
「…………いや、やりかねないと思われ」
「「…………は?」」
い、一体何を言い出すの?
「あの人ならやりかねない……あの人の周りには、何かどす黒いモノが漂っていた……」
「どす黒いモノって?」
「……呪いというか、瘴気というか……普通の生物が放てるようなモノじゃない、邪悪な気……」
「……ちょっとリジー? 言っていいことと悪いことが……」
「……悪ぃ、サーチん。ウチもリジーに賛成や」
「エ、エリザまで!?」
「ウチも初めて会った時、何かこう……得体の知れん寒気を感じたんや。多分ウチだけやないで。何やったら他のメンバーにも聞いてみぃ」
「……ってことは……ルーデルと私の考えは、間違ってないってことなのね……。あは、あははは……誰か、誰かが否定してくると思ってたんだけどなあ……」
「サーチん……」
……あ〜あ、ダメだ。今日はもう休もう。
「ごめん、今日は一日休みを貰っていいかな?」
「ええで。どっちにしても、今日はフリーの日やったからな」
リジーも頷いたのを確認してから、私は一礼して外へ飛び出した。
町から少し離れた原っぱの真ん中で、大の字になって寝ていた。
「あ〜あ、いい天気なのに……私の気持ちはいっこうに晴れないなあ……」
……何だかんだ言ってアイツとは、結構付き合いが長いのよね……。
「……はあぁぁ……」
「何よ、サーチらしくない声出しちゃってさ」
へっ!?
「こ、この声は……ソレイユ!?」
「お久〜〜! 元気にしてたか〜い!」
「い、いつの間にここに!?」
「あのね、念話の中継点を作ったくらいだよ? ここまで来るのなんて、わけないない♪」
……はは……相変わらずのハイテンションで。
「……な〜に〜よ〜! アタシがはるばる励ましにきてやったんだぞ? 元気出しなっさい!」
「ふぇ!? な、何で知ってんのよ!?」
「ん〜……所謂盗み聞きってヤツ?」
「どこで!?」
「夢の中で♪」
器用だなっ! いや、器用かどうかって問題じゃないよ! 夢の中を盗み聞きってスゲエな!
「なーんか三冠の魔狼がチョロチョロしてるみたいだったからさ、少し前から尾行してたのさ!」
……三冠の魔狼になっても、ルーデルはルーデルか。
「はっきり言って、アタシもエリザとリジーの意見に賛成かな」
「……リジーが言ってた『邪悪な気配』ってヤツ?」
「そ。あれ、アタシも気になってたんだ」
「……わ、私が気づかないことを、何であんた達は気づくわけ?」
「これは仕方ないよ。やっぱりモンスターじゃないと気付きにくいよ、あれは」
「モンスターじゃないと……気付きにくい?」
「んー。あれはかなり特殊な気だからね。サーチ達は知らなくて当然だよ」
「一体何なの?」
「アタシも一回しか見た事ないけど、あれは魔神気って言うんだよ」
……魔神気?
「そのまんまなんだけどね、魔神だけが纏える気だよ」
「ちょ、ちょっと待って。つまり……アイツは……魔神だって言うの!?」
「おそらく」
マ、マジっすか……。