幕間 夢であってほしかった夢
『…………』
すう……すう……
『……きろ……い……』
くう……すう……
『……おい……起き……』
……くぅぅ……
『起きろっていってんだよ!』
……ううん……うるさいなぁ……。
ぽかっ
『ぃてっ!』
静かにしてなさい………くう……。
『…………………………がぶっ』
「いってえええええええっ!?」
『おぉ、やっと起きたなあ』
「い、一体何だってのよ…………………………ん? え、えええ!? 何で三冠の魔狼がここに!?」
『久しぶりだな、サーチ。絶望の獣戦以来か?』
「……………………あ、ルーデルだったっけ」
『お、お前! まさか忘れてやがったのか!?』
あはは……。
「そ、それよりも! 何であんたがここにいるのよ!? 戦いが終わったあと、速攻で消えたクセに!」
『し、仕方ないだろ! あの時はまだ不安定な状態で、地獄門へすぐに戻らないと消滅するとこだったんだから!』
「え? そうだったんだ……そんな不安定な状態で戦ってくれてたんだ……」
『そ、そうだよ』
「……ありがとね……」
『お、おう』
「じゃあおやすみ」
『はい、おやすみなさい………って誤魔化すなっっ!』
「はいはい、で、何の用なのよ? 周りの景色を見る限り……ここは夢の中なのよね?」
『……物わかりがいいと言うか、驚かし甲斐がないと言うか……』
「あ、あんた私を驚かすために!?」
『ちげーよ。つーか、そこまで暇じゃねえし』
「じゃあ何なのよ!」
『まずは……左手。変だとは思わなかったのか?』
……あ、そうよ。グッチャグチャのボッキボキになってたはずの左手が、なぜか再生してた件!
『それは俺のおかげだ』
「……ってことは、まだ契約は生きてるわけ?」
『契約って……商売みたいでやだなあ。盟約にしようぜ』
どっちでもいいわああああっ!!
『まあ、先代からそのまま受け継いだだけなんだが……役に立ったろ?』
「ま、まあ……」
『その左手は≪身代わり≫っていうスキルがあって、一定のダメージを吸収する効果がある。あの時の左手のグッチャグチャは、お前が全身に受けるはずだったダメージの肩代わりだよ』
……今度からは零距離射撃は止めておこう。
『ま、でもすぐに自己再生するから問題ないけどな。せいぜい有効に使ってくれ』
やだよ。痛いし。
「…………って、言いたかったのってそれ?」
『これはついで。重要なのはここからだ』
……ごくっ。
『お前に纏わる事件の、黒幕についてだ』
黒……幕?
『お前が生まれてから、今日で……十六、七年か。その間に、どれだけの騒動に巻き込まれた?』
え? えっと……。
「〝八つの絶望〟の一つ、堕つる滝攻略に始まって……マーシャンとダンナさんに関わる騒動に……人魚族と死霊魔術士のヤツ……ソレイユとの出会い……で、新大陸での帝国闘技大会……あとは」
『随分と濃い人生だな』
うるさいっ! 私だって好きで騒動に巻き込まれ………ん?
「言われてみれば……普通じゃあり得ないくらい、いろんな面倒事に関わってる気が……」
『はっきり言うとな、獄炎谷攻略だって、下手すりゃ一生モノの偉業だぞ?』
「そ、そうよね……」
『それだけの騒動をたった十六、七年でくぐり抜けるって……尋常じゃないと思わねえか?』
「た、確かに……」
『この身体になってから暇は幾らでもあるんでな、時間をかけて調べる事もできたわけだ。で、結論から言うと……ほとんどの事件が仕組まれている可能性が高い』
仕組まれてる?
『特に〝八つの絶望〟に関わる事件は、その傾向がハッキリとしていたよ』
〝八つの絶望〟かぁ……てことは、やっぱり……。
「……絶望の獣復活が目的だった?」
『それすらも目的の一端に過ぎないんだ。黒幕の目的はもっと別のモノなんだよ』
別のモノ?
『失ったモノを取り返したいってのは、誰でも一緒だろうが……ここまでやるのかね』
………まさか。
「ルーデル。今私の中では、一つの仮説が組み立てられてる。はっきり言って否定したいんだけど……できない」
『……だろうな』
「あんたは真相に気づいてるのよね。だったら、答え合わせも兼ねて、私の仮説を聞いて。あんたが黒幕だって睨んでるのは……」
……間違ってて。お願い。
「……じゃない?」
『…………はぁ。そうだよ』
………マジか。
『黒幕はお前等が〝八つの絶望〟を攻略する際、絶望の獣復活のための種を蒔いてたらしい。それが何かはわからねえが、結果としてその種が絶望の獣復活の決定的な要因になったんだ』
「まさか……黒幕は世界の命運を計りにかけてでも、自分の望みを達成したかったと?」
『そこら辺は黒幕本人じゃないとわからねえよ。けどよ、結果を見る限りでは……計りにかけたとしか言い様がねえな』
な、何でそんなことを……あいつは……。
『ショックなのはわかる。何せお前の知り合いだしなだからな』
「うるさいよ」
『す、すまん』
「……この事は誰にも言ってないんでしょうね」
『言えるかよ』
「確かに……ね。確固たる証拠があるわけじゃないんでしょ?」
『ああ。ただ、旧ランデイル帝国の至宝〝覇者の王冠〟が無くなってたのは証拠となりうるな』
「……覇者の王冠も鍵なの?」
『それも黒幕本人じゃないとわかんねえな。どちらにしても、覇者の王冠を隠し持ってるヤツが間違いなく黒幕って事だ』
………。
「たぶんだけどさ……私が絶望の獣復活の夢を見たのも……偶然じゃないわよね?」
『そうだろうな』
……ギリリ……
『おい、奥歯が砕けるぞ』
「……ルーデル。教えてくれてありがとう。今度からは注意しておくわ」
『ああ。俺もしばらく調査は続ける。くれぐれも慎重にな?』
「わかってるわよ。じゃあね」
『ああ』
……さて。起きたらソレイユにも話を通しとかないと……ね。
………。
まだ……確定じゃない。でも……もし、ホントにそうだったら。私達を裏切っていたのなら……。
リーダーとして、私が処断する。