第十八話 ていうか、これで私の遠距離用必殺技ができた!
昔……ある奴隷組織を壊滅に追い込んだそのとき。組織のトップと対峙したときのことだった……。
「……これで終わりね。あなたを殺せば組織は壊滅よ」
「う、はあ、はあ、はあ……な、何故だ。何故私と同じ女の〝殺〟が、私達の組織に牙を剥くんだあああ!?」
「は? そんなの簡単よ。依頼があったから、それだけよ」
「そ、それだけの理由で……? それだけの理由で穢らわしい男共の手足になるのか、お前は!?」
「……何の理由であなたが男を憎み、男ばかりを奴隷に追い込んだのかは知らない。だけどそれは、あなたの僻みや八つ当たりでしかない」
「き、貴様ぁぁぁぁっ!!」
ダダダ!
「……遅い」
ズドムッ!
「ぐふっ!?」
バタッ
「私が前に立っている以上、あなたの死は免れない。信じてる神がいるのなら、さっさと祈るがいい」
銃を向ける。あとは引き金を引くだけ。
「わ、私は神など信じていない!」
……! へえ……。
「……驚いた。私の蹴りをまともに食らって立てるなんて」
「け、蹴りの威力を私の胸が緩和したのでな」
ズギュウン! ズギュウン! ズギュウン! ズギュウン! ダダダダダダダダダダダダダダダ! カチッ! カチッ! カチッ! …………ピンピンピンピンピン! カランカランカランカランカランカラン…………どっかあああああん!!!
「……う、ううん……」
「あ、サーチ姉。目が覚めた?」
「…………ん。あ、あれ? わ、私……?」
「覚えてない? 大砲を撃った直後に、爆発音で気絶したと思われ」
……あ、そっか。ドジったわ……。
それにしても嫌な夢を……あのときは拳銃を三丁、マシンガンを一丁撃ち果たして、さらにありっったけの手榴弾を投げつけて、奴隷組織を本部ビルごと壊滅させちゃったのよね……あとでめっちゃ叱られたっけ。
「……それで? 弾は当たった?」
リジーは無言で敵の陣地を指差した。
「? ……あんなとこにあんなクレーターあったっけ?」
「サーチ姉が作ったの」
「……って、あそこに当たったの!?」
……スッゲえ威力だな……我ながら。
「敵は首脳陣が一瞬で消滅して大混乱。その隙に戦闘馬鹿が攻勢をかけて、敵は更に大混乱」
「……それなら勝敗は決まったようなモノね。そういえばエリザは?」
「少し動いてくるって言って………あの辺りに」
……ああ、敵兵が四方八方に吹っ飛んでるとこか。
「ずいぶんと暴れてるみたいね。欲求不満かな?」
最近リファリスと会ってないもんね〜。
「それよりも『起きたら本陣へ来い』……って戦闘馬鹿が言ってた」
ばたっ
「……まだ起きてないから行かない」
「サーチ姉……とんちじゃないんだから……」
「いいのよ、放っておけば」
「おいおい、お言葉だな」
げっ! 戦闘馬鹿!?
「な、何であんたがここにいるのよ!?」
「何でって……どうせ呼んでもバックレるだろうと思ってよ」
鋭い。
「な、何の用よ」
「いやな、今回の勝利の立役者が寝込んでるって聞いてよ。こういう場合は王子様のキ「きゃあああああ! チカンヘンタイゴーカンマーーー!!」じょじょ冗談だ! 頼むから止めてくれ!」
「……じゃあ何の用!?」
「さっきお前がぶっ放したヤツの事だ。あれは量産できるのか?」
……絶対にこういう反応がくると思ってた。
「一応できるわよ。大量のミスリルと少々のオリハルタイトがあれば」
「な、何でそんな超稀少金属がいるんだ!?」
私は大ざっぱにではあるけど、大砲を撃つメカニズムを説明した。
「……んじゃ何か? ≪火炎波≫を細い筒の中で爆発させるってのか?」
「その衝撃波を利用して、この弾を撃ち出すの。普通の金属の筒じゃ耐えられないでしょ?」
「耐えられないどころじゃねえ。暴発して撃った本人がお陀仏だな」
「それに、実際にミスリルとオリハルタイトで大砲を作ったとしても、連続使用に耐えられるかどうかは……」
「微妙だな。何より、こんなコストのかかる武器を作るくらいなら、同じ額で攻撃魔術士を大量に雇った方がマシだ」
確かに。
「ある意味≪偽物≫使いだからできる事だな。大砲本体が破損しても、もう一回作れば済む話だ。まさかこんな事で≪偽物≫に光明が差すとはな……」
「役立たず? 私はめっちゃ使える魔術だと思うけど?」
「ま、お前さんにはピッタリだったんだろうよ。何はともあれ、お前さんの大手柄には間違いない。これは褒美だ、とっときな」
そう言って革袋を渡された。結構ズッシリときますね♪
「ただし、その大砲の事は言うなよ。その金は口止め料込みだ」
「わかってるわよ。言うわけないじゃない」
もし知られて、私以外の≪偽物≫使いまで使用するようになったら……世界の軍事バランスが崩れかねない。
「それに、これは私の必殺技として相応しいし……誰にも教えるもんですか……うふ、うふふ♪」
「……聞かなかった事にする。まだ掃討戦が残っているからな、俺はもう行くぞ」
「はいはーい」
「……何だ、金さえ貰えればもう用無しか?」
「はいっ!」
「………………正直なヤツだ」
少し名残惜しい雰囲気をかもし出しつつ、戦闘馬鹿は去っていっ……。
「そうだ、忘れていた」
……かなかった。何なんだよっ。
「俺はグリムだ。お前は?」
「サーチよ」
「サーチか。お前の名前、覚えておく」
「私は忘れるわよ」
「好きにしろ。じゃあな」
……今度こそ、戦闘馬鹿ことグリムは去っていった。
「……結局何しにきたのやら」
「お金渡しに来たんちゃう?」
あ、お金お金♪ 早速中身を確認しなくちゃ!
「さあ、金貨が何枚かな♪ それとも銀貨かな♪」
「楽しそう、サーチ姉」
「ま、パーティの会計役やさかい、お金が貰えれば嬉しいやろな」
「何じゃこりゃあああああああああっ!!」
「ど、どないしたん!?」
「びっくりした……」
ワナワナと震える私の手から、数枚の硬貨がこぼれ落ちる。
「な、何やこれ!? 銅貨……でも小粒の方やないか!」
(注! 小粒銅貨は日本円で一銭くらいの価値)
「あらら、全部そうやな」
「これじゃ銀貨一枚分にも程遠い」
あ、あ、あの戦闘馬鹿……! ここまで私をコケにするとは、いい度胸じゃないの……!
「……エリザ、リジー。今回は止めないでね。マジでぶっ殺してくるから……」
「……これはしゃあないな」
「死んでも不可抗力」
よし、二人のお墨付きも貰ったし……ゴートゥーヘルしてきますか……うふ、うふふふふ。
ゾクリッ
「……!!」
「どうなさいました、グリム様?」
「いや、寒気がな……ん?」
「革袋……ですか?」
「しまった、渡す袋を間違えた………おい、すまんがこの革袋を取り替えてきてくれ。正統王国の傭兵部隊にいるサーチという娘だ」
「わかりました」
……結局私はその革袋を持った人とすれ違うことになり、誤解だとわかってエリザ達が駆けつけたときには………。合掌、礼拝。