第十一話 ていうか、落下するだけなはずがない。
滝を落ちるなんてあまり体験したいものじゃない。
一、空気抵抗ハンパない。
二、水飛沫で寒い。
三、濡れる。
……なんて言うより、死ぬわ、これ。
「きゃあああ! 風がいやああ!」
エイミアが必死にローブをおさえてるけど……丸見えだよ。ていうか、ローブそのものを持っていかれそうね。
しかし……落ちるっていうのは速いんだね。ほら、だんだんと滝壺が……水面が……。
あ、やばい。
私もあんまり……余裕ないかもおおおおお!!
「きゃあああああ!」
……。
……。
……あれ?
「まだ……落ちてるわね」
周りの景色が気づけば変わってる。
「これは……」
堕つる滝に入った……ということか?
「そうじゃ。ここが“八つの絶望”のひとつ……堕つる滝じゃよ」
落ちながら語るマーシャン。
「……結局全部知ってたわけね」
「すまぬとは思っておる……だがのう、こういうモノは実際体験してもらわねば身に付かぬからの」
「つまりギルドから私達のパーティの監督兼監視を依頼された?」
「なななな何のことやら」
態度に出過ぎだっつーの。
「まあこの話はダンジョンから戻ってから、ゆっっっくりしましょうか?」
「ぐぬぅ……し、仕方ない。これで賢者の杖の件は水に流そう」
ぐ! それを出すか!
……つくづくエイミアが恨めしい!
「!? な、何か今寒気が……?」
エイミアがキョロキョロと周りを見渡す。どうしてこういうことは敏感なのかしら……?
「っ! おい、敵だ! 近くにいるぞ!」
リルが匂いを嗅ぎとったらしく警告してきた。
「リル! ≪身体弓術≫で先制して! エイミア、≪蓄電池≫で近くに来た敵を牽制! 私はエイミアを援護する」
「おーけー!」
「わかりましたわ!」
リル? いまOKって言わなかった?
「あの〜……ワシは?」
私は真上の影を指差す。
「上のファイアフライを何とかして!」
「よ、よし!」
ベルトにさしていた“逆撃の刃”を持って備える。
「まずはモンスターを散らすぞ!」
リルは弓の弦を肩に巻きつけて引っ張る。腕を弓の代わりに使って矢を放つ。身体のバネを利用して、弓を使わずに矢を打ち出す。これが≪身体弓術≫だ。
パシュンッ!
…………ギャアア!
集まっていたモンスターの一匹に当たったらしい。危険を感じたらしくモンスターが散開する。
「せいでんきよ!」
エイミアが慎重に静電気を操作して、敵だけを撃墜する。
「うわわわ! ワシを狙うでない!」
たまにマーシャンに当たりそうになるのは割合する。
私もエイミアが撃ちもらしたモンスターを刈る。
「マーシャン! お願い!」
「任せよ! 風よ……≪風撃弾≫」
杖から撃ち出された空気の塊が、モンスターに当たって破裂する。当たったモンスターはもちろん、細かく飛び散った≪風撃弾≫によって傷を負ったモンスターも墜落していった。だけどモンスターもだんだんと増えている。
しかもやっかいなのが……エイミアが見たら危険ね。
仕方ない。
「マーシャン! 弱めの≪風撃弾≫でエイミアを撃ち出して!」
「「え?」」
「早く!」
「う、うむ……やさし〜く≪風撃弾≫」
やさしく放たれた≪風撃弾≫がエイミアのお尻に炸裂する。
「ちょっとおおお!?」
重力に逆らって上昇するエイミア。
「サーチ、ちょっとヒドいんじゃないか!?」
近くで落ちてるリルが叫ぶ。
「よーく上を見てみなさいよ! 何がいるか見えない?」
「んん? ……あれは……ああ、なるほど。スネークフライか」
しばらくすると。
へえびぃぃぃぃぃやあああああ!!
バリバリバリズドオオオン!
「たーまやー」
「何だそれ?」
「あー……そのうちにね」
マーシャンの魔法で少し落下速度をおとしてエイミアと合流した。
「サーチぃ!」
やばい。エイミアがキレかかってる。
「ごめんごめん。あとでね、ね?」
エイミアはぷくっと頬を膨らませて。
「……後でヒドいんだからね!」
拗ねた。
可愛いんだけど……落下しながら揺れる胸が恨めしい。
「マーシャン、この壁沿いを落ちてけばいいのよね?」
「うむ、間違いない。この亀裂に沿っていけば良いはずじゃ」
壁に近づくにつれてわかったけど……堕つる滝の壁って全部ブロックが積んである。誰が作ったのか知らないけど……ご苦労なことです。
「あ」
突然のエイミアの「あ」は結構な率で不吉なのよね。
「……何だよ」
リルも苦虫を噛み潰したような顔してる。
「いえ〜……あーいうのって」
エイミアが指差す先。
「……何ドラゴンって言うのかな? って思っただけです」
「「「ドラゴン!?」」」
え! どこ? どこ?
こんなとこでドラゴン来たらマジ全滅よ!
「これこれ。慌てるでない」
マーシャン?
いやに落ち着いてる。何か策でもあるのかしら?
「お主ら竜殺しじゃろ? あれぐらい余裕じゃろ」
マーシャンが指差す先。
ばっさばっさと翼を羽ばたかせてくる飛竜の群れ。
ざっと二十匹。
「「無茶言うなー!!」」
ああ、詰んだ……と諦めかけたとき、頭に不思議な声が響いてきた。
『ほう……久々の客人だな』