第十六話 ていうか、大砲の試し撃ちは、戦闘でぶっつけ本番。
「「…………変」」
なっ……!?
「なんですってええっ!? 私の会心のアイディアが変だって言うの!?」
「……そう言うてもなあ……」
「サーチ姉、そんな巨大な筒を抱えて歩いてる人、普通は変人に見られる」
へ、変人……! やっぱりこの機能美は、ファンタジーの世界には受け入れられないか……!
「……サーチん、落ち込んでるとこ悪いんやけど…………試し撃ちするんなら、さっさとやってくれへん?」
「…………あ、そうね。もうすぐ進軍を開始するんだっけ」
昨日までは別行動も許されたけど、今日は小競り合いの可能性があるため、私達も一緒に進軍することになっている。
「それじゃ試し撃ちといきますか。耳を塞いでよ」
「あ、そうやった! それ、めっちゃ凄い音が鳴るんやないか?」
「そうね。昨日のライフルの比じゃないくらい」
「ならマズいわ。敵に発見されるかもしれへんで」
……そうだわ。こんなだだっ広い平原でぶっ放せば、相当音が響くわね。
「……仕方ない。今日の戦闘で試し撃ちといきますか」
作り出した大砲を霧散させた。
だけど、戦闘が始まる少し前に、スッゴくくだらない騒ぎが起こった。
「今回は我々が指揮を執らせて頂く」
「何を言うか! 戦い慣れておらんヒヨッコは黙っておれ!」
「数百年前の遺物が何を言う! 貴様みたいなのを老害というのだ!」
「ヒヨッコも老害も向こうへ行ってろ。俺が全てを仕切ってやる」
「「戦闘馬鹿が横からしゃしゃりでるな!」」
……主導権争いというか……見栄の張り合いというか……。
「あれは第何王国なの?」
前回の戦いの際、馬車に乗っけてあげたのが縁で仲良くなった兵士に聞く。
「……さあ……正直よ、似たような名前ばっかだから、俺らもよくわかんねえんだ」
だろうね〜。この国名の伝統、意外と不評らしいし。
「……正統王国って名前の方がわかりやすくていいわ」
「あ、それも元に戻るらしいぜ。正統王国に変更させた古人族がみんないなくなったから、第……幾つだったっけ……まあいいか。第何王国になるらしい」
……住んでる本人達が忘れるくらいだから……よっぽどよね……。
「こら! 私語は慎め!」
ん? この声は……。
「確か第四王国の……」
「何だ、お前等か。無事だったのだな」
「はい。何とか逃げ延びました」
「ジジイ殿は惜しい事をした。あの御仁が健在ならば、このような下らぬ主導権争いなど起きなかったろうに」
……ジジイ相手に主導権を主張してた人が言うセリフか?
「第四王国の皆さんはよかったんですか? あれに参加しなくても」
「我々は一度敗戦している故、何も言う事はできんよ」
「ちなみにですけど、あの中で誰が指揮を執るのが最適だと思います?」
「そうだな、第十九王国がいいだろうな」
だから! 国名で言われたってわかりませんから!
「えっと……ヒヨッコ? 老害? 戦闘馬鹿?」
「……戦闘馬鹿だ」
ああ、あの。いかにも『主人公より人気がありそうな脇役』みたいな。
「結構男前やん。あの頬の傷痕がワイルドやなあ」
「でっかい剣。振り回すだけでも大変だと思われ」
……まあ、こんな感じの人だ。
「話を聞く感じだと、我が道を行くってイメージの人ですよね?」
「その通りの御仁だが、補給の重要性を一番理解している御仁だ。他の二人は突撃する事しかできない」
奇襲されたら真っ先に討ち取られるタイプだな。
「大丈夫そうやで。戦術論になった途端、ヒヨッコと老害が言い負かされとる」
うん、確かに戦闘馬鹿の戦術論は道理にかなってる。反面、ヒヨッコと老害の言うことはメチャクチャだ。
「……あのヒヨッコの兵の配置、あり得ないわよね。あれじゃ騎兵の利点が全然活かせないじゃない」
「何故弓兵があの位置? 理解不能」
「あーあ、どんどんヒヨッコと老害が言い負かされて小さくなってくで。これは勝負ありやな」
……結局。
「なら今回は俺が指揮を執る。異論はねえな?」
「うぐぐ……」「ぐぬぬ……」
「……異論があるのか? なら、俺を納得させるだけの作戦くらい用意してあるんだよな?」
「「…………異議無し」」
「よし決まった。なら各自の配置を発表する。まずはヒヨッコ」
「ヒ、ヒヨッコではない!」
「なら俺を戦闘馬鹿呼ばわりしないことだな」
完全に主導権を握ったわね。なかなかやるじゃない。
「なあ、サーチん。実際の戦闘で試し撃ちするんなら、大将になったあのおっちゃんに話通した方がええで」
あ、そうね。
「なら副長さんに頼んで、話し合いの場を作ってもらいましょ」
それから副長が駆けずり回ってくれて、夕方にようやく時間をもらうことができた。ありがと〜。
「……次、正統王国軍の方々です」
「ああ、ジジイ殿の。通してくれ」
秘書官らしき人に促され、私達は戦闘馬鹿の前に立つ。
「……あん? 何で傭兵がこんなとこまで来やがったんだ?」
書類の決裁をしつつ、私達に視線を向けた。こいつ、戦闘以外も有能なのかも。
「すいませんけど、私は単なる冒険者で傭兵です。畏まったしゃべり方はできませんけどいいですか?」
「構わない。用件を聞こう」
「実は……」
詳しく説明すると私の前世の話になっちゃうので、ジジイとアレックス先生が共同開発した魔術兵器、ということにした。
「そうか、ジジイ殿の……本当に惜しい事をしたもんだぜ」
……ジジイって人望あったのね……。
「ジジイ殿の遺したモノを無下にするわけにはいかんな。わかった、許可する。他の軍への根回しもしといてやるよ」
やったあ!
「あ、ありがとうございます!」
このためにジジイの名前を使わせてもらったのだ。天国のジジイ、ありがとう〜!
「では失礼します。貴重な時間をありがとうございました」
「構わない。それより……お前」
「え? 私ですか?」
「ちょっとこっち来い」
……?
「あの〜、何か?」
「いいからジッとしてろ」
そう言って戦闘馬鹿は、私の周りをグルグルと回りだした。
「ふむ……筋肉の付き具合といい、足の運びといい……何かアサシンっぽいとは思ってたが……」
ぎくっ。
「しかしビキニアーマーを装備してるってことは、重装戦士だよな……」
ぎくぎくっ。
「……すまんが首まわりの筋肉が見たいんで……失礼」
動揺する私のアゴに手をかけ、上を向かせる。
「……ふむ……」
「……あの、いつまでこの体勢でむぐっ!?」
「あ」「あ」
後ろにいたエリザとリジーの驚きの声が響く。ていうか、いきなりナニしてくれんだよ!?
「むー! むー! ……ぶはあっ!」
「何だ、格好の割には擦れてないな。経験人数は一、二人か?」
「な、な、な…………何をさらしとるんじゃわれえええええっ!!」
「サーチん、鈍器はマズいで!」
「サーチ姉落ち着いて!」
「殺す! ぶっ殺す!」
ハンマーと短剣を持って暴れる私は、秘書官とエリザ達によって引き摺りだされることとなった。
これが、後々までの腐れ縁となる戦闘馬鹿、グリム・フォードとの出会いだった。
クセのある新キャラ登場。ていうか、サーチは意外と隙が多い(笑)