第十四話 ていうか、あの亀をぶっ殺せって、アレックス先生もむちゃくちゃ言うわね!?
「そ・し・て♪ ビキニアーマーも提供できるのよね?」
「ビキニアーマー自体というより、その素材と言った方が早いな」
素材!? ま、まさか……。
「……大王炎亀の甲羅とか?」
「惜しい。アレキサンダー・タートルには違いないが、ただの甲羅ではない」
服を身につけながら、またもや何かを取り出した。ていうか、紙よね?
「ちょっと待っててちょうだいね〜……サラサラサラ〜っと」
……この人、いちいち擬音を口に出す人なのね。
「サラサラサラ〜……はい、できた。これがアレキサンダー・タートルの甲羅を、上から見た図なのだが……」
「「「…………」」」
「……どうかしたのかね?」
「先生……画家になった方が成功するんじゃないんですか?」
……リアル過ぎて写真にしか見えない……。
「よく言われるが、絵は私の趣味の一つに過ぎんのでな」
このクオリティで趣味!? もったいない!
「それよりも。この絵に注目してくれ」
あ、失礼しました。話が脱線するのは、私達の中じゃ日常茶飯事なんです。
「この辺りに、他の甲羅とは明らかに違う突起がある。これを逆鱗という」
逆鱗? ウロコじゃなくて甲羅なのに?
「この部分が非常に弾力性に富み、尚且つ抜群の対魔力性能を発揮する。しかも弾力性のおかげで加工もしやすい。これほどビキニアーマーに向いている素材はないだろう」
「ちょっと質問。弾力性ってどれくらい?」
「地竜の突進をそっくり跳ね返すくらいだ」
「その大きさで!?」
「そうだ。凄いだろう」
「も、もう一つ質問。対魔力はどのくらいの性能?」
「ファイアウェイブをそっくり跳ね返すくらいだ」
「マ、マジか……」
「君の体型になら、三匹分くらいあれば作れるね。良ければ加工する職人も紹介しよう」
「そ、そこまで至れり尽くせりの条件ってことは、依頼は相当難しいってことよね……?」
「無論だ。おそらく、今までに誰もなし得た事はない」
……すっげえイヤな予感がする……。
「ま、まさか……大王炎亀の生け捕り……とか?」
後ろで話を聞いていたエリザとリジーも、さすがに顔色を変えた。あれを生け捕り!? そりゃ不可能に近い……。
「あっはっは。君は面白い発想をするな。そんなの、無理に決まってるだろう」
「…………へ? そ、そうなんですか?」
「万が一にも生け捕りに成功したとして、それをどうするんだい? 硬くて解剖もままならないし、生態を調査しようにも寿命が短すぎる。何より、アレキサンダー・タートルを捕まえるくらいなら、卵から孵して育てた方が余程賢明だよ」
た、確かに。
「私が君達に依頼したいのは……アレキサンダー・タートルを討伐する事だ」
「「「と、討伐?」」」
「私がアレキサンダー・タートルを研究しているのは、彼らの弱点を探る為でもある。真正面からぶつかって敵わないのなら、弱点をつくような搦め手で攻めるしかないからね」
「搦め手なんてことはないわよ。相手の弱点をつくってのは、基本的な戦術よ」
「そうだね。どちらにしても、弱点を見つけられない限りは勝ち目はない」
……確かに。目眩ましだけじゃなく、もっと確実に仕止める必要はある。あんなデカい亀が目を潰されて、ゴロゴロゴロゴロと悶え苦しんだら……建物の被害が甚大だわ。
「そこで私は考えた。何故、アレキサンダー・タートルは倒す事が困難なのか? それは簡単だ、防御力だ」
……何を今さら……。
「だが、どんな硬いモノだろうと、絶対貫けないモノなどない。それは森羅万象に共通する真理なのだ」
真理なんて大層なモノじゃないと思うけど。
「つまり! アレキサンダー・タートルの防御力を一点突破する、極限まで攻撃力が集中された刺突! これこそが、アレキサンダー・タートルの弱点ではないかと!」
「……要は亀の甲羅を貫ける攻撃って事やろ? そんなん誰だってわかってる事やない?」
「まあ……ね。それができるんなら、とっくに大王炎亀の討伐は達成されてるわけだし」
「そうだ。そうなのだ! だ・が。それを叶えられる伝説の奥義があったのだ!」
「で、伝説の奥義!?」
「女王陛下からの情報によると……サーチ君、君はそれをマスターしてるそうだね?」
「へっ!? わ、私ぃ!?」
そんな伝説の奥義なんて知らないわよ!
「…………あ、わかった。サーチ姉、あれ。≪竹蜻蛉≫」
……あ、ああ、ああ! あれか!
「まさか〝竹竿〟の最終奥義じゃないでしょうね?」
「そうだ、それだよ!」
「ごめんなさい、絶対にムリです」
「…………へ? な、何故だ!」
「≪竹蜻蛉≫は刺突じゃないから」
「ぐふぁ!? そ、そうだったのか……」
……あっけない幕切れでした。
「言うとくけどな、あのかったい甲羅を貫くのは、奥義とかで何とかなるもんちゃうで?」
「そうね。やるなら、圧倒的な力よね。例えるなら、≪充力≫全開のエイミアと、≪怪力≫を発動させたヴィーが、二人で〝知識の聖剣〟を持っての牙突!! ……くらいは必要かな」
「……例えが突拍子もないけど、それくらいの力が加わらんと無理やっちゅう事やな」
「わ、私の計画が……」
あっさり挫折するなよ。さっきまでの自信はどこいったんだよ。
「魔術は完全に防がれる?」
「あ、ああ。先程話した逆鱗の対魔力によってな」
「魔術自体は通用しなくても、魔術によって飛ばしたモノは?」
「……いや。それならば、魔力を纏っていない以上、単なる物理攻撃と同じだ」
「なら、魔術でモノを飛ばして攻撃すれば良いと思われ」
「……つまりどういうこと?」
「例、崖の上に巨石をセット。魔術で押して転がす。下にいた大王炎亀はぺしゃんこ」
「やったら、最初から人力で押せばええんちゃう?」
「ていうか、それぐらいのことはもう試してると思うよ」
「ああ。すでに実行済で、見事に傷一つつかなかったそうだ」
あ、リジーが部屋の隅でのの字を書いてる。
「ならこの手も使えんやん。ウチのパーティでは無理ちゃうかな?」
「そ、そこを何とか!」
あーあ、ライフルくらいあれば何とかなるのに…………ん?
「……ライフル……銃か……」
「ん? どないしたん?」
「ねえ、この辺りで火薬の調達はできない?」
「火薬??」
「えーっと……燃焼石の粉よ」
こっちの世界の火薬は、獄炎谷で採れる燃焼石を粉状にしたモノだ。
「それなら近くの谷で大量に採れるはずだ」
よし、いける!
あとは銃身ね。銃の構造はわかるから、腕のいい鍛冶屋を雇って、一から作れば…………ん? 一から?
「あ、そうか。≪偽物≫で作ればいいんじゃん!」
「おーい、サーチん?」
「……アレックス先生。何とかなるわよ」




