第十二話 ていうか、私が欲して止まなかった情報がついに……!
今回見つかった大王炎亀への対処法は、絶大な効果を発揮した。第二軍を主軸として再び進軍を開始した私達は、何度も大王炎亀に襲撃された。だけど、その度に太陽作戦を決行しているのだが……。
「視力頼りのモンスターだから、目を潰しちゃえば何てことないわね」
「リジーの言う通りやったなあ……。ずっと真っ暗な中で暮らしてるんや、視力スキルが暗視特化になっててもおかしゅうないわな……」
普通の動物なら、真っ暗な環境で暮らし続けると、視覚以外の感覚が発達し、それ自体は退化していく。目のないミミズなどがいい例だ。
だけど大王炎亀には、視力スキルという特別な力があった。そのため、暗い中でも変わらず見える大王炎亀の視覚は退化することはなく、逆に視力スキルを特化させることによって、さらに鋭敏になっていったのだろう。
「逆に、鋭敏になった視覚が災いしたわね。強烈な光によって目を焼かれ、完全に見えなくなっちゃうんだから」
この対処法によって、襲ってきた全ての大王炎亀は失明し、ただウロウロすることしかできなくなった。放っておけば勝手に衰弱死するだろう。
「あ、でも魔術で回復できるんやない?」
「回復したとしても、恐怖の記憶は消えないわ。二度と光るモノには近寄らないでしょうね」
「……成程なあ……これを長く繰り返せば、大王炎亀は光るモノから逃げる習性ができるかもしれへんな」
それは後々の話だけど、可能性はあると思う。この大陸の人達は、大王炎亀に怯えずにすむようになるのだ。
「サーチ姉、副長さんが呼んでる」
すると、夜の見張り番だったリジーの声が、テント内に響いてきた。
「副長さんが? わかったわ」
こんな時間に何の用だろうか? 脱ぎ散らかしてあったビキニアーマーを装着しつつ、テントのジッパーを下ろした。
「本当にあなた方のおかげです。ありがとうございました」
「いや、もうわかったから。会うたびに礼言われるのにも飽きたから」
焚き火前の丸太に座るよう促され、私は着席する。いや、着丸太?
「まさか光が弱点だったとは……。確かに外の世界の人達にしかわかりませんね」
「ていうか、この大陸には『目眩まし』っていう手段はなかったの?」
「あるにはありますが、命を懸けてまで試そうとする人はいませんでしたね」
そらそうか。獲物を見つけたときの大王炎亀の素早さは、亀の域を超えてるしね。
「で? 私を呼び出したのは何で? まさか、今の話をしたかったから?」
「違いますよ」
「まさか……夜のお誘い?」
ちょっと胸の谷間を強調しつつ。
「ちちち違いますよ! わ、私には妻子がいるんです!」
「わかってるわよ、冗談よ、冗談。で、本題は何なの?」
「じょ、冗談でしたか……いやはや、心臓に悪い……」
……どういう意味よ、それ。
「実はあなた方に別に任務をお願いしたくて」
「いいわよ。内容と報酬によるけど」
「実は我々の軍に、大王炎亀の研究者が同行しているのですが、彼女があなた方の話を聞きたいとの事ですので」
「……へ? まさか、その話相手をしろっての?」
「それだけではありませんよ? まだ話の途中ですから」
あらら、それは失敬。
「そして、その研究者の調査に同行してほしいのです」
「調査に同行って………………その研究者って、大王炎亀が専門なのよね?」
「はい」
「その研究者の調査なんだから……当然、大王炎亀の調査よね?」
「おそらく」
「……つまり……大王炎亀とことを構える可能性があると?」
「十中八九」
…………たぶん、めっちゃイヤそうな顔してるだろうな、私。
「一応、彼女からも特別な報酬を用意するとのことですが」
「報酬ねえ……お金で何とかなると思ってるのかしら?」
「いえ、情報だとか」
「情報?」
「ええ。温泉と豊胸とビキニアーマーの素材に関する」
ジャストミィィィィィィト!!!
「その依頼、受けたああああああっ!!」
……帰ってから、エリザにめっちゃ叱られるハメになったけど、私は気にしない、ブレない。
次の日、副長さんに案内されて、その研究者がいるテントへと向かった。
「なあ、サーチん。おかしいと思わへんのか?」
「ふんふふーん♪ 何がー?」
「こんだけピンポイントに、サーチんの好きなモノばっかやって事」
「何が?」
「情報がや!」
……………ああっ!
「そうだわ! こんだけピンポイントだった時点で気づくべきだったあああっ!!」
「……もう手遅れや。着いたみたいやで」
目の前には『大王炎亀研究所』と、デカデカと看板が設置してあった。仮設のテントに看板いるか?
「先生、アレックス先生いらっしゃいますか?」
大王炎亀の研究者がアレックス先生って……偶然?
「はいはーい! ちょっと待ってねええ!」
あ、いた。
「……あー、ごめんごめん! ちょっと手が離せなくってねえ…………おや? 君達は?」
「あ、えーっと……依頼をいただきました、始まりの団ですが……」
「ファーストオーダー? ああ、君達がアレキサンダー・タートルをブッ飛ばしたという!!」
いや、ブッ飛ばしてはないけど。
「初めまして。私が第十六王国でアレキサンダー・タートルの権威として知られております、アレキサンドラ・タートルネックと申します!」
「……は?」
「ですから、私がアレキサンダー・タートルを研究してる、アレキサンドラ・タートルネックと申します」
「し、失礼ですけど……芸名ですか?」
「本名だよっっ! それよりも芸名って方が失礼だろ!」
いや、マジで芸名だと思ったわよ!
「もしかして名前が大王炎亀の研究のきっかけ?」
「ちーがーいーまーすー! 何なのだ、この失礼な人達! プンプン!」
うわあああ! 自分の口で「プンプン!」言ったよ! やべ、鳥肌が……。
「サーチ姉、聞きたい事があるんじゃ?」
ああ、そうだった! プンプンの衝撃で忘れるとこだった!
「あの、プンプン先生!」
「誰がプンプン先生だ!?」
「報酬の件なんですけど……」
「ああ、そうそう。その件に関しては、間違いなく良い情報を提供できるよ」
え、マジで!?
「それよりや。何でアレックス先生は、サーチんの欲しいモノがわかったんや?」
「それは、情報源があるからに決まってるだろう」
「情報源?」
「君らのパーティメンバーなんだろう?」
「パーティメンバー?」
「ふむ、わからないか……ならば、これでわからないかね?」
そう言ってプンプン先生は、髪の間から耳を見せる。ピンッと突き立った耳が姿を現し……って、ピンッと突き立った耳!?
「エルフ!? ってことは、まさか……」
「そうだ。女王陛下だよ」
またマーシャンかああっ!!