第十一話 ていうか、無事に孫ーズと合流できたけど、再び亀と遭遇!?
「あんた達、無事だったのね!」
精一杯腕を広げて、駆け寄ってきた孫ーズを抱きしめる。
「良かった……! ホントに良かった……!」
「ちょっとさーちん、くるしいよ〜」
「あ、さーちんがないてる〜」
「……どこかいたいの?」
「良かったよ〜〜うわあああああああん!」
「ちょっと、さーちん!? い、いたい……」
「いたいっていうかくるしい……」
「え、えまーじぇんしー!!」
「うわあああああああん!! 良かった良かったああ!」
「ぎぶぎぶぎぶ!!」
「ろーぷろーぷ!!」
「へるぷみいい!!」
「ちょっとサーチん! 孫ーズが紫色になってきてるで!」
………あ、え?
「げっ! ごごごごめんなさい! 大丈夫!?」
「ふわああ……きいろいおはなばたけ……」
「ひへええ……おっきいかわ……」
「え〜っと……わたしちんはいくら?」
ちょっと待てちょっと待て! まだ逝っちゃダメだからね!
「そんだけ余裕があるなら大丈夫やろ。気ぃ付けえや、サーチん?」
「め、面目ない……」
「でもでも、はぐされてきもちよかったよ!」
「おっぱいやわらかかった!」
「……うっとり……」
ふふ。何を言い出すかと思えば……。
「「「でもえりざよりちいさいね!」」」
「…………」
「ちょい待ち! サーチん、右手の鈍器はヤバいで!」
「あら、殴るのはやっぱ良くない? なら刺殺か毒殺か、さっきみたいな圧殺か……」
「どれもあかああああん!!」
「「「がくがく、ぶるぶる……」」」
……しばらくの間孫ーズ達は、私に近寄ろうとしなかった。ちょっと脅しすぎたかな。
「……じゃあジジイが死んだことは……」
「ええ。三人は知りません。と言うより、知らせる事などできるはずがありません」
……確かに……ね。
三人をリジーが寝かしつけてくれてる間に、私はジジイの副官さんと話をしていた。
「……ご両親は?」
「三年前に大王炎亀に襲われまして……」
「……ていうか! 第二軍を襲ったヤツはどうなったの!?」
「ある程度暴れた後に去っていきました。ラインミリオフ帝国軍の撤退と同時期ですから、おそらく……」
……それは私も考えてたんだけど……これだけ大挙して大王炎亀が現れた以上、可能性が高い。
「あの亀達は……ラインミリオフ帝国軍のモノなのね?」
「……ではないと、説明がつきません」
厄介なモノを持ち出してきたわね。
「対策は?」
「はっきり言ってありません。大王炎亀はこの大陸で、最も危険視されているモンスターです。遭遇した場合は逃げるしか手立てはありません」
逃げるしかないっての!?
「魔術は!?」
「一切効果はありませんよ。失礼な物言いになりますが、我々は長い間大王炎亀に脅かされながら生きてきました。当然、いろいろな対抗策も考えてきました。しかし何も有効な手段が見つかる事もなく、現在に至ります。他所の大陸から来たばかりのあなた方の考えるような事は、ほぼ実行済なのですよ」
うぐ……!
「ただ一つ有効と言えるのが……寿命を待つ事だけなのです」
「……ごめんなさい……私が浅はかだったわ……」
「いえ……。私こそ、あの御三方の恩人に失礼な事を……」
「…………じゃあ、お互い様ってことで。それより、これからのことを考えましょう」
「そう……ですね。そうしましょう」
……ってちょい待ち!
「あんたさ、何で私達が他の大陸から来たって知ってたの!?」
「知ってたも何も……隊長が仰ってましたから」
「あ、そっか。あんた副官だったっけ」
「いえ、私だけではないと。お孫さんを紹介する度に『この子達の先生は他所の大陸の者なのじゃ』と言って回ってましたし」
ジジイイイイイイイイイイイイイ!!
「……お願いします。できる限りの口止めを……」
「……手遅れかとは思いますが……承知しました」
……あのジジイ……ゾンビにして、コキ使ってやろうかしら……。
……やっぱり手遅れで、正統王国軍全体に知れ渡っていた。一応箝口令は出してもらったけど……もう遅いわな。
「う〜ん……」
「どしたん、サーチん?」
簡易テントに入ってからずっと考えごとをしてる私に、エリザが話かけてきた。
「ん? ん〜……大王炎亀のことがね……」
「まだ気にしとったんか。あれは倒す方法は無いで」
「そのことじゃないの。私達が最初に対峙したヤツ、帝国側に飛んでったじゃない?」
「そうやったな」
「あのとき、帝国軍に襲いかかってたのがね……」
あの叫び声はリアルなモノだった。私達を騙すための演技とは思えない。
「ああ、それはあり得る事やで」
「へ?」
「前にも言うた通り、大王炎亀を飼い慣らすのはごっつぅ難しいんや。飼い主には絶対に逆らわへんけど、他のヤツに牙を剥くなんてザラや」
「そ、それじゃあ、空腹の大王炎亀が自軍を襲うってことは……」
「さっきも言うたけど、あり得るで。飼い主の家族が食い殺される事もあるくらいやし」
こ、怖すぎじゃね?
「う〜ん……戦争に利用しようにも、それだけのリスクがあるのね……」
「ま、一国滅びるくらいやからな」
その時。
『戦闘準備ぃーーー! 戦闘準備ぃーーー!』
「な、何や!?」
「まさか、また……」
『大王炎亀だあああああ!』
こ、このタイミングでかよ……!
「これは敵さん、ウチらを生かして帰すつもりはないんやな。チクチクと攻撃して、戦意を無くす作戦やん」
今の私達には一番有効、と言わざるをえないわね。
「エリザ、出れる? ちょっとフォローをお願いしたいんだけど」
「何や? 倒す算段ができたんかいな?」
「倒せないわよ。ただ、撃退くらいはできる」
そう言って私は頭のホタルんを撫でた。今日の主役はあんただからね?
「リジーは孫ーズの護衛をお願い。じゃ、エリザ行くわよ!」
「はいな!」
「うぎゃああああ!」
「退け! 退くんだああ!!」
「あらら、ハデに暴れてるわね。エリザ、同時に顔に一撃いれて、こっちに注意を向けるわよ」
「ええで。ジジイの仇や、おもいっきりやったる!」
タワーシールドを構えて突っ込むエリザ。
「行くでええええっ!! 渾身のシールドバッシュ!!」
がごおおおん!
すごい音がしたけど……効いたの?
「す、すげえ! 大王炎亀が後退したぞ!」
効いてる! なら連続で……!
「おしおキィィィッッック!!」
どごおっ!
イテテテ! か、かったいわね……!
「な、何てヤツらだ! 大王炎亀にダメージを与えられるなんて!」
「すげえぞ! やっちまえー!」
「……周りはああ言ってるけど、実際はどう、エリザ?」
「駄目やなあ。あれだけ手応えのあったシールドバッシュやのに、あんだけピンピンしてるやなんて……」
……確かに。後退するにはしたけど、ダメージは大したことないだろう。当然、私の蹴りも同じ。
「なら切り札といきますか……! ホタルん、お願いね!」
最高速で大王炎亀の顔に近づき、目前で跳躍する。
「今よ! ホタルん、一番明るいヤツ!」
私の声に反応したホタルんは、最大級の発光を起こす!
びかああああ!
ギシャアアアアアアアアアア!!
その光を目の前で起こされた大王炎亀は、目を瞑ったまま一目散に駆け出した。そのまま深い谷間へ突っ込んでいき……。
ギシャアアアァァァ………ズゥゥゥゥン!!
谷底で木っ端微塵になった。
「た、倒した……大王炎亀を倒したぞおおおっ!!」
わああああああっ!!
すっげえ大歓声だわ。
「な、何で? どうなってるんや?」
「いい? この大陸に棲息する大王炎亀は、視覚スキルが暗視に特化してるのよ。そんなのに、生まれてから見たことがないくらいの光を浴びせたら……」
「そらたまらんわ。目には大ダメージやわな」
「こ、こんなにあっさりと大王炎亀を……こんな方法があったなんて……」
私の近くで笑いながら呟くジジイの副官さん。嬉しいのとびっくりが混ざってる様子。
「よそ者だからこそ、対抗策が考えつくこともあるのよ」
ま、谷底に落ちたのは結果オーライだけどね。
スターライトスコープにカメラのフラッシュ! というイメージです。