第九話 ていうか、やっべええっ! 敵の増援にみつかったああ!
……で、別任務をこなしてる私達は、何をしてるかと言うと……。
ザクッ!
「ぐはあっ!」
ドサッ
……はあ……はあ……キリがない!
「なあ、サーチん! このままじゃ数で押し切られるで!」
「わかってるわよ! それより……」
ばきゃあ!
エリザの背後にいた兵士を蹴り飛ばす。
「口動かしてる暇があったら、盾を動かしなさいっての!」
「おおきに! ほな、そうさせてもらうで!」
ばきゃきゃきゃ!
「「「ぐあああっ!」」」
流石は重量級のタワーシールド。八人一気にぶっ飛ばしたわ。
「あれじゃ死んでるわね……さて、私も蹴り倒したヤツに止めを……あれ?」
倒れていた兵士は、妙な方向に首を曲げて倒れていた。無論、死んでる。
「……おかしいな……そこまで強く蹴ったつもりはないんだけど……?」
「サーチ姉、サーチ姉ぇぇぇ!」
「はいはい、人が考えごとしてるときに何よ!」
「ごめんなさああい! この数は無理ぃぃぃ!」
偵察に出ていたはずのリジーは、五十人以上の敵兵を連れて戻ってきた。
「な、何しにいったのよ、あんたはあああ!?」
「んな事言ってる場合やないで! はよ撃退して、本隊に戻るで!」
「わかってるわよ! ていうか、何でこんなことになったわけえええ!?」
……敵に追撃されてたりする。
河の上流に陣取っているらしい敵の増援部隊の確認にいきました。それで、進行を開始していた敵とばったりと出会っちゃいました。
はい、説明終わり。
「ありゃ万はいるで!」
ははは……三vs万っすか…………勝てるわけねえだろ!
「エリザ、リジー! このまま撤退するわよ!」
後方に二、三個けむり玉を投げて、敵に背を向けた。
「撤退する言うてもなあ、こんなだだっ広い平原、どこ逃げたって見つかるって!」
「言い忘れてたけどね、私は戦うことよりも得意なことがあるの!」
「何や!」
「逃げることよ!」
「自慢にならんやろっ!!」
「いーえ、胸を張って言えることよ。はい」
そう言って私は、エリザに革袋を渡す。
「な、何やこれ?」
「エリザのノルマ」
「はあ? ノルマって?」
同じ袋をリジーに渡しながら、満面の笑みを浮かべた。
「斥候を逃がすな! 絶対に討ちとれえ!」
「敵本隊に合流させるな!」
「それにしても……中々強いようだな。女だてらにようやるわ」
「感心してる場合ではありませんよ!」
「わかっておる。数はこちらが圧倒的だ。包囲して殲滅す「はっくしょい!」……ふふふ、大きいくしゃみだな」
「申し訳ありま……ぶはっくしょい!」
「はーくしょい!」
「へくし! へーっくし!」
「……何だ? 異様にくしゃみが多いな!」
「目、目があああ!」
どんっ!
「うおおっ!? な、何をする!」
「も、申し訳ありません……目が、痒くて……前が見にくくて……」
「ええい、危ない! 後方に下がっておれ! ……一体何なのだ? 敵が何か蒔いておるのか?」
「? ……いえ、私は何もなっておりませんし……閣下も平気そうですよね?」
「うむ……これは一体?」
「はあ? 花粉を濃縮した粉?」
「ええ。影響がある人とない人がいるから、余計に混乱してるでしょうね」
絶望の獣戦のときに一応準備しておいたヤツが、まさかこんな形で役に立つとは……。
「確かに、敵の足も止まってる。今のうちに進行すべし」
「その通り! さあ、一気に距離をかせぐわよ!」
そう言って走り出す。エリザとリジーも私に続いた。
「追ってくる気配はないで。こらうまくいったんちゃう?」
「逃げるが勝ち。よって私達の勝ち」
………。
「……左に逸れるわよ」
「え? 真っ直ぐにいけばええやん?」
「……前の岩、何か変じゃない?」
「へ? 岩?」
何かあの岩、動いてるような……?
「……あれ……岩やないで。あれは……」
モソモソと動きだし、岩の下から顔を……っていうか顔!?
「……亀ね」
「……逃げるで」
「へ?」
「あれはただの亀やない……大王炎亀や」
アレキサンダー・タートル?
「何それ?」
「最強最悪のBクラスモンスターや! はよ逃げんと……」
ゴオオオッ!
「来た、≪火炎放射≫や!」
あ、危な……! エリザがとっさにタワーシールドで防いでくれたので助かったわ。
「あれには何の攻撃も通用せえへん! 逃げるしかないで!」
「そこまで焦るようなヤツなの?」
「あのな、昔リファリス様が唯一敗戦した事がある。その時に敵が連れてたんが、あの大王炎亀やったんや!」
マ、マジで!?
「でもエリザ、所詮は亀。逃げ切れると思われ?」
「そんな簡単なもんやあらへん! アイツは……そら来た!」
へ!?
「はよ伏せいや!」
「ぶっ!?」
ゴオオオオオ……
「あ……あれって……」
「そうや! 大王炎亀は空を飛ぶんや!」
ガ○ラかよ!!
「しかも肉食で、大食漢や。目ェ付けられたら、何処までも追ってくるで」
さ、最悪ね。確かに。
「あ、でも都合よく……」
飛んでいった先は……敵軍。
「うわあああっ! 大王炎亀だああっ!」
「撤退! 撤退ぃぃぃぎゃあああ!」
「隊長ーー! う、うわ!? ぐああああ!」
「……多分、敵軍は全滅やな」
……そうか。そういうことだったんだ。
「ずっと不思議に思ってたのよ。この大陸の、あまりのモンスターの少なさに。それって……」
「そやな。大王炎亀が他のモンスターを食らってる可能性が大やな」
……事実上、食物連鎖の頂点ってわけね。あれだけ硬いんじゃ、AやSクラスのモンスターも相手にしないだろうし。
「天敵がいない大食漢なんて、生態系を破壊するだけじゃない! あんなのがいて、よくこの大陸に生物がいるわね」
「ところがやなあ……あの亀、ごっつ寿命が短いねん。長くても三ヶ月くらいらしいで」
「三ヶ月!? 亀なのに?」
「じゃなきゃあ、とっくに大陸の生物全滅してるやろ」
……確かに。
「どっちにせよ、あの亀のおかげで無事に退散できそうやな」
「あ、そうだった。敵軍が混乱してる間に距離を離しましょう」
「「了解!」」
無事に敵軍を振り切った私達は、連合王国軍の本陣に向かってるんだけど……。
「……何、この血の匂いは……」
「気持ち悪くなりそうや……」
「嫌な予感がする。急ごう、サーチ姉」
リジーに促される間でもなく、駆け出す。これだけ血の匂いが充満してるってことは、まさか……!
「サーチん! 本陣から煙が上がってるで!」
リジーの予感が的中した!
「あ、あれって……大王炎亀!?」
本陣の真ん中に姿を現したのは、さっきのよりもさらに大きい大王炎亀だった。
この話でついに500話を達成致しました。皆様のご愛読のおかげです。ありがとうございました!