第二話 ていうか、順調……?
まずは基礎となる動作の反復練習を始めた。小さい頃から身体に叩きこめば何をするにもやり易い。手の振り、足の運び、体の重心を意識的に保つ訓練。繰り返し、繰り返し、練習する。私が必死になって食らい付いた、地獄の訓練が下地になっているんだ。必ず効果はある……!
「ねー先生! また変な踊りしてるよー?」
「……新しい遊びなのよ。そっとしておこうね」
「そーなんだー! 私もやるー!」
……ったく……。
外野がうるさい。
「さーちゃん、一緒にやろー」
またか!
一体何回言えばわかるんだ。
「リファ姉、私はさーちゃんじゃない。シャア。シャアよ」
「さー」
「シャア」
「さー!」
「シャア」
「さーなの! さーちゃんなの!」
あー、もう。どっちでもいいわ。本当の私の名前はシャア。「殺」と書いてシャアだ。
「さーちゃん、さーちゃん!」
……この子のおかげで、さーちゃんさーちゃん言われるけどね。一応真面目に考えた名前なんだけどなあ……。
夜。
自分の部屋に戻ると。
『さーちゃんの部屋』
……わざわざ木で作ってドアに貼ったの誰だ。はあー……なんか疲れが倍増した……。
粗末なベッドで筋肉を揉みほぐす。柔軟体操も毎日の日課だ。身体が軟らかいだけでも、戦闘でのアドバンテージになる。できることは何でもやる。貪欲に強くなってやる。
「いっちにーさんしーっと……はい、かんりょうっと」
さーて。
柔軟体操も終わったし。
カチャ
鍵を閉めてと……一番重要な訓練へと移りますか……。
よーーーく揉みこまなければ!
モミモミ
モミモミ
「大きくなーれ、大きくなーれ」
モミモミ
モミモミ
「大きくなーれ、大きくなーれ」
私の研究の成果、豊胸モミモミ体操! むふふ……必ず大きくなるはずだ。念入りにやるぞ……そーれ!
モミモミ
モミモミ
「大きくなーれ、大きくなーれ」
「先生、さーちゃんがまた何か言ってるー!」
「……そっとしておこうね」
そんなコツコツとした努力の日々。少しずつ訓練内容を変化させ、身体に戦闘の基礎を馴染ませていく。身体能力の向上によって、同年代ではあり得ない動きをみせるようになり、五感が鋭敏になり、二部屋先の子の行動も把握できるようになった。
「……ていうか、さすがにちしきにないことは……」
……だけど魔術に関しては、さっぱり進んでいない。何せここは孤児院。決して豊かだ……と言える生活ではない。当然、生活用品以外のモノは極端に少なく……。
「……魔術に関する本がない」
当然、魔術を調べる術がない。結局、独学で研究せざるを得ない。MPは少ないながらもあったので、いろいろ試してみたけど……発動するわけがない。
「やっぱ基本から学ばないとダメか」
……まあいきなり某有名な金ピカ魔王や赤目魔王の術を試したのが間違いだった気もする。
そんな日々が続き、孤児院に来てから五年が過ぎた。いつもの訓練を終えた私は、ステータス画面を開いてニヤニヤしていた。
(順調順調。いい感じで伸びてるわ)
年齢的なことが原因なのかわからないけど、『力』は一向に上がらない。それと反比例して『素早さ』は異常に伸びている。私としては理想的なステータスなので、嬉しいかぎりだ。
(……でも何で『力』は伸びないのかな)
今まではあまり気にしてなかったけど、何か理由があるのだろうか。
(今までの訓練だと……走り込みや反復運動がメインだったから……『素早さ』が伸びた?)
……もしかして。
それから数日間、ひたすら腕立て伏せと腹筋運動を繰り返す。それからステータス画面を確認すると。
(…………やっぱりだわ)
今まで伸びなかった『力』が上昇した。
(ここまで如実に訓練内容が数値に反映されるなんて……)
だとしたら、できるかもしれない。
私は元アサシン。アサシンに必要なのは高い攻撃力よりも俊敏な動き。持久力よりも瞬発力。
『力』よりも『素早さ』だ。
かなりの賭けにはなるけど『素早さ』への極振りやってみよう。敵の攻撃が当たらなければダメージは受けないし、何より先に殺しちゃえばいいのだ。やっぱ重要なのは「いかに素早く殺すか」なのだ。
「……だけど……こっちは……!」
ステータス面では面白い成果を得られた。けど、胸には変化がない!
「なんでなのよ!? うっがあああ!」
どすーん! ばたーん!
「せんせええっ! さーちゃんこわいいいっ!」
「こら、止めなさい!」
……すみません。ていうか、体型にも極振りできれば、バスト一極集中するのにぃぃぃ!
しばらくして冷静になって。
「……よくよく考えたら、一桁の年齢で胸が膨らむわけないわね…」
……と気づいた。
ただいまのバストサイズ、測定不能。だけど努力を続ければ、いつか必ず報われる。
「お願いします! バストの神様! 私の願いを叶えてちょ!」
ていうか、バストの神様っているのかな……。
一人称ばかりですが、次回から人増えまーす。