第七話 ていうか、せっかく勝ったのにいちゃもんをつけてくるヤツがいるので、お灸を据えてやるんです!
ジジイが率いる連合王国軍がラインミリオフ帝国軍を蹴散らし、手柄を独り占めすることとなった。
「……ん? ジジイが率いるやて? 単なる守備隊長やないか?」
「元将軍で、常勝で有名だったんだって。今は現役を退いて、指導役って名目で守備隊長も兼ねてたみたい」
「成程な〜……有効活用かぶごっ!?」
「口の利き方に気をつけなさいっての!」
だけど、それを良く思わない連中もいるわけで。
「ジジィ達は我等を出し抜いて攻撃したのだ! 誠に卑怯というより他ない!」
「……出し抜かれる前に攻撃すれば良かったじゃない。ていうか、戦いが終わってから文句つけに来てる辺り、底が浅いっていうか小物っていうか……」
「勝った以上は何も言う事はありません。しかし、我々も遠路遥々とこの地にやって来た以上、多少なりは戦いに参加しなければなりません。その辺りを考慮して下さい」
「……言うことはないって割に、ブツブツと文句言いに来てるだけじゃない。要はメンツを潰されたのが気に入らないんでしょ、だったら最初からそう言えばいいじゃない。回りくどいっていうか、みっともないっていうか……」
「……ジジイ、あそこの露出狂女を引っ込めろ」
「正直今すぐ殺してあげたいんですが……」
あら、一人言が聞こえてました? 失礼しました〜……退散退散。
まあ、これで種を蒔けたわけだし……あとはジジイの話の進め方次第ね。
「サーチ姉、わざと相手を怒らせるような事を言った?」
「あら、よくわかったわね。頭に血が上った相手ほど、論破するのに簡単な相手はいないからね」
「でもサーチ姉が危ないんじゃ?」
「別に。あの程度の連中、束になってきても問題ないし」
逃げればOK。あとは背後から各個撃破で。
え? 殺り方が汚いって? だってアサシンだもん……元だけど。
「でも国際問題にならない?」
「ならないならない。ていうか、する度胸はないわよ。相手が攻めてきたときに、何もしなかったっていう負い目があるからね」
その点はジジイ達も同じなんだけど、撃退した実績があるから無問題。
「あとはどれだけこちらに有利な条件を引き出せるか……かな」
ま、少なくとも主導権は握れるわね。私達としても、そのほうがやりやすいし……。
夜になって、ジジイに酒の席に招待され、そこで事の顛末を聞いた。結果としては、ジジィが全体の指揮を担当する形になったらしい。やるじゃん。
「条件付きじゃがの」
「みみっちい連中ね〜。どういう条件なの?」
「そのまま伝えるぞい」
「そのまま伝えるって……誰に?」
「お主にじゃ」
ぶごふぅぅぅっ!
「汚いの〜……少しかかったぞい」
お、思わず飲んでたお酒を吹いちゃったよ……。
「『あの露出狂女を一発殴らせろ。そうしたらジジイの指揮権を認めてやる』じゃと」
「……あの単細胞指揮官か……」
「それと『一滴で数万人の致死量なる毒を、先程の女性に試しても良ければ』じゃそうじゃ」
怖! めっちゃストーカー気質じゃん!
「ていうか……まさかジジイ、それ飲んだんじゃ……」
「じゃからお主を喚んだ『チャキッ』ちょちょちょっと待てい! その短剣を引っ込めよ!」
「殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺」
「お主の方がよっぽど怖いわ! それよりも話を最後まで聞けい!」
「……何よ」
「く、首の薄皮を斬りおって……よいか、その件は了承はした。じゃが『自分達で何とかするんじゃな』と言ってある」
「……つまり……黙って殴られる必要はないわけね?」
「そういう事じゃ。後は毒の件じゃが……」
「あら、それは大丈夫。私、≪毒耐性≫あるから」
「は? ……か、完全なヤツか?」
「青酸カリとヒ素を混ぜたヤツ一気飲みして『うまいっ!』って言える自信ある」
「…………………………なら大丈夫じゃろ」
「一応聞いとくけどさ、向こうに大恥かかせる結果になるけど……いいの?」
「構わんよ。『儂はどうなっても知らんぞ』と言ってあるし、向こうもそれを了承したしの」
……この爺さん、ホントにタヌキねえ……。
……次の日。
二人の指揮官の八つ当たり会場に、私は立っていた。
「よく来たな、露出狂女! その度胸に免じて、一発だけで済ませてやる!」
「きゃあああ! チカンヘンタイゴーカンマー! 一発だけで済ませるって、何を堂々と叫んでるのよおおお!」
「その一発じゃねえええっ! つーかギャラリーは白い目で俺を見るんじゃねえええっ!」
よし、まずは優位に立った。
「ふっふっふ……あなたから受けた屈辱、忘れた事はありませんよ……」
「……そりゃあ昨日のことだしね……」
「あなたを毒殺する夢を見て一日! 本当に待ち遠しくて待ち遠しくて……」
……堪え性のないヤツ。
「さあ、今日はあなたに試す為の、特別な毒薬を用意してきました! これを飲んで苦しみぬくがいい! あーはっはっはっは!」
……イケメンが壊れてると、それはそれで絵になっちゃうのは不思議よねえ……。
「これを飲めばいいのね?」
ひょいっ
「えっ」
ごくごくごく
「えっ? えっ?」
「ぷはあ……まっず。これ毒じゃなくても不味さで殺せるわよ……ぺっぺ」
「な、な、な……」
「あ、私には毒は効かないから。お生憎様」
「な、何だと!? そんなの卑怯だ!」
「卑怯だって……あんたは私に『毒を飲め』とは言ったけど、『毒を飲んで死ね』とは言ってないじゃない。ね、あんたも聞いてたわよね?」
「そう……だな。言ってなかったな」
「ということで、あんたの用件は終わりね。はい、アデュー♪」
……残念なイケメン指揮官は、その場に崩れ落ちた。はーい、御愁傷様。
「次はあんたね。はっきりと『一発殴らせろ』って言ってたし、ちゃんと殴らせてあげる」
「おいおい、別に抵抗するな、とは言ってねえぜ。黙って殴られるのはイヤだろうしな。いいぜ、かかってきな」
「そうしたいのは山々なんだけど、そういうわけにもいかないのよ。時間も限られてるし、ちゃっちゃと終わらせましょ」
「……大した度胸だ。わかったよ、一発で終わらせてやる。ただし、俺は加減できないタチでな。本気でいかせてもらうぜ」
「どうぞ。その方が私としても後腐れなくていいし」
「……舐められたもんだ。二、三日飯が食えねえかもしれねえが……俺は知らんからなあああ!」
巨体の割に素早い動きで私の前に立ち、右腕をおもいっきり振りかぶる。ホントに本気で殴る気だわ。
「おらああああああああああああ!」
どぐわああああん!!
「うっぎゃあああああああああ! こ、拳が! 拳がああああ!」
……あーあ。ありゃ指が何本か砕けたわね。すっごい音がしたから、わかったと思うけど……。
「……ひええ……ミスリル製の鉄板、ここまで凹ますなんて……」
私の顔にヒットする前に、≪偽物≫でミスリルの板を作って防御したのだ。
「うがあああああ! てめえ、卑怯だぞおお!」
「だって、あんたは『殴らせろ』とは言ったけど、『私の顔を直接殴らせろ』とは言ってないじゃない」
「し、しかし鉄板殴らせろとは言ってねえぞ! お前を殴ってねえじゃねえか!」
「何言ってんのよ。ミスリルの板越しとは言え、それなりにダメージあったわよ」
耳にキーンってきただけだけど。
「それにこの板は、私の≪偽物≫で作ったのよ? なら私の一部じゃない。はい、これで終了〜。アデュー♪」
「…………」
ばたっ
あ、こちらも崩れ落ちた。
これ以降、両軍がジジィ達に文句を言ってくることは、一切なかったそうだ。