表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
498/1883

第六話 ていうか、全然戦況が動かないのはマズい。

「ど、どこも動かぬとはどういう事じゃ!」


 正統王国の本陣で、ジジイは怒り狂っていた。誰かー、孫連れてきてー。


「私達と同じことをどの国も考えたのね。で、ここと同じように荒れてるんでしょうね」


 私達は本陣の隅で、三人で駄弁っている。


「……この大陸の人達はナマケモノの獣人が多いんかいな?」


「エリザ、ナマケモノならそれ以前に動かないと思われ」


「あ、そやな」


 やっぱり連係がとれてないのは痛いわね。今のところは相手側が警戒して足を止めてるからいいけど、こんな状況が長続きするわけがない。


「なあ、サーチんならこの状況をどないする?」


「そうねぇ……今から使者を出して共闘を呼び掛けても『何を今さら』って言われるのがオチだし……」


「私達が先陣を切れば他の国が動く………わけがない」


「もう八割の確率で敗戦確定やな。連係とる事をサボった、連合王国側の墓穴や」


 ……私達の周りがザワついてる気がするけど、たぶん気のせいだろう。


「う〜〜〜ん……こうなっちゃうと、強硬策しかないわよね」


「強硬策いうと……奇襲やな?」


「うん。だけどこの軍の存在もバレちゃってるわけだし、今から奇襲するのは難しいのよね……」


 ……周りからため息が聞こえたのは、気のせいだろう。


「なら完全に手詰まり?」


「いえ、一番の強硬策が残ってるわ。敵の司令官の暗殺よ」


「暗殺かあ……それが一番確実やなあ……」


「敵が動揺してる間に連合王国軍が進軍すれば、それだけで相手は瓦解すると思われ」


 ザワッ!


 後ろが騒がしいな、と振り向いてみると……。


「……な、何よあんた達!」


 私達の背後を、ジジイを始めとした連合王国軍首脳が取り囲んでいた。


「ガールズトークを盗み聞きするなんて、サイテーなことなんだからね!」


「……ガールズトークと言う割には、色気の欠片もない会話じゃのう」


 うるさいわ!



「……はあああ!? 私達にやれっての!?」


「そうじゃ。お主は名うての暗殺者じゃろ?」


 別に名うてじゃないし! ていうか本業は重装戦士だし!


「それに今回の案を考えたのはお主等じゃろ? こういうのは言い出しっぺがやるもんじゃ」


「ちょっと強引すぎない!?」


「もっと言えば、今回の静観案を考えたのは……エリザではなかったか?」


「ウ、ウチぃ!?」


「そうじゃ。じゃからお主等に責任をとってもらおう」


「いやちょっと!? マジで強引すぎるって!」


「なあ、ウチの責任? ウチの責任になるん?」


「…………報酬に呪われアイテムを」


「よいぞ。秘蔵のヤツを用意するわい」


「引き受けた」


「「リジー!?」」



「ああもう! どうすんのよ! あんたが勝手に引き受けるから!」


「今回の仕事がどんだけ大変かわかってるんか!?」


「大丈夫」


「「だいじょばない!」」


「本当に大丈夫。今回はこれを使う」


 そう言って取り出したのは、最近リジーが使い出した必中の弓と……靴?


「この靴は墜死の靴といって、履くと必ず飛び降り自殺する呪いの靴」


 相変わらずあんたの呪われアイテム(コレクション)は、えげつない呪いばっかだな!


「私が履けば、ある程度なら空中を歩ける」


 空中を歩けるの!? …………ん? 空中で弓?


「……あんた……まさか……」


「だから二人には、敵の引き付けをお願いしたい」


「引き付けか……何かこんな役回りが多い気がするんやけど……」


「私は久々かな。……まあやると決まったからには仕方ない。ハデにやりましょうか、エリザ」


「……そやな。憂さ晴らしに派手に暴れたるわ」



「……申し上げます!」


「どうした」


「敵に動きがありました!」


「ほう、やっとか」


「はい。二人の女性がこちらに向かって歩いてきます!」


「…………は?」



「……この辺りでいいわ」


 私達は敵の陣から100m手前で止まり、準備を始める。


「……よし、≪偽物≫(イミテーション)


 金属製の小型投石器を作り出し、エリザが炸裂弾をセット。


「ええで」


「……せめて発射(ファイア)! とか発射(ファイエル)! とか言いなさいよ」


「何や、めんどくさい……はい、どーん」


 ……まあいいか。エリザの「どーん」の後に、投石器の引き金を引いた。


 ビュン!


「いったで〜……」


 ヒュウウウゥゥゥ…………ずどおおおん!


「た〜まや〜」


「……何やそれ?」



 ずどおおおん! どごおおおん!


「て、敵の攻撃です! 次々と炸裂弾が……ぐああ!」


「第六騎兵隊が被弾! 多数の負傷者が出ております!」


「スーリ少佐も被弾されました! ただいま治療中です!」


「おのれ……! たった二人だけでここまでの混乱を……! さっさとその二人を始末するのだ!」



「……これで最後や」


「あれ、もう無くなったか……あ、前進してきた」


 あれは万単位で向かってきてるわね。


「じゃあ後退するで」


「あ、ちょっと待って」


「……何や、穴なんか掘って」



「行けえええ! 敵はたった二人だ、一気に踏み潰せええっ!」


「「「おおっ!」」」


「隊長、敵は逃げ出しております!」


「馬に乗ってないのなら、すぐに追いつける! 我々を挑発した報い、たっぷりとうけてもらうぞ!」


 ……ガッ!


「ん? 何か踏んで……」



 どっかあああん!


「あ、踏んだみたい」


「何を仕掛けたんや?」


「地雷」


「な、何やそれ?」



「追撃部隊前方で爆発! 混乱し、足が止まっております!」


「小癪な輩め! 増員して追撃させよ! 絶対に逃がすな!」


「えっと……はろはろ〜?」


「ん? 誰か何か言ったか?」


「あ、あれを!」


「ん? な、何だと!? 空に人が!?」


「……そこは『空から女の子が』と言ってほしかった」


 バシュ! ドスゥ!


「ぐはあっ!」


「将軍ーーー!!」



「……あ、狼煙が上がりました!」


「うまく殺ったようじゃの……よし、全軍前進!」


「「「おおっ!」」」



 あ、連合王国軍が来た。


「ただいま〜」


「リジーご苦労様。それじゃあ私達は退散するわよ♪」


「「りょーかい」」



 司令官を失ったラインミリオフ帝国軍は、連合王国軍の攻撃によってあっさりと瓦解し。初戦と呼べるのかよくわからない戦いは、連合王国軍の大勝利に終わった。


「わっはっは! お主等のおかげじゃ! 報酬は弾むからの! わっはっは!」


 孫からの尊敬の眼差しを一身に受けてご満悦なジジイは、大盤振る舞いの報酬を約束してくれた。


「……ていうか、全部呪われアイテムなのかしら」


 ……後日。私の予想通りの結果となった。

新元号発表と一緒に投稿。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ