第六話 ていうか、全然戦況が動かないのはマズい。
「ど、どこも動かぬとはどういう事じゃ!」
正統王国の本陣で、ジジイは怒り狂っていた。誰かー、孫連れてきてー。
「私達と同じことをどの国も考えたのね。で、ここと同じように荒れてるんでしょうね」
私達は本陣の隅で、三人で駄弁っている。
「……この大陸の人達はナマケモノの獣人が多いんかいな?」
「エリザ、ナマケモノならそれ以前に動かないと思われ」
「あ、そやな」
やっぱり連係がとれてないのは痛いわね。今のところは相手側が警戒して足を止めてるからいいけど、こんな状況が長続きするわけがない。
「なあ、サーチんならこの状況をどないする?」
「そうねぇ……今から使者を出して共闘を呼び掛けても『何を今さら』って言われるのがオチだし……」
「私達が先陣を切れば他の国が動く………わけがない」
「もう八割の確率で敗戦確定やな。連係とる事をサボった、連合王国側の墓穴や」
……私達の周りがザワついてる気がするけど、たぶん気のせいだろう。
「う〜〜〜ん……こうなっちゃうと、強硬策しかないわよね」
「強硬策いうと……奇襲やな?」
「うん。だけどこの軍の存在もバレちゃってるわけだし、今から奇襲するのは難しいのよね……」
……周りからため息が聞こえたのは、気のせいだろう。
「なら完全に手詰まり?」
「いえ、一番の強硬策が残ってるわ。敵の司令官の暗殺よ」
「暗殺かあ……それが一番確実やなあ……」
「敵が動揺してる間に連合王国軍が進軍すれば、それだけで相手は瓦解すると思われ」
ザワッ!
後ろが騒がしいな、と振り向いてみると……。
「……な、何よあんた達!」
私達の背後を、ジジイを始めとした連合王国軍首脳が取り囲んでいた。
「ガールズトークを盗み聞きするなんて、サイテーなことなんだからね!」
「……ガールズトークと言う割には、色気の欠片もない会話じゃのう」
うるさいわ!
「……はあああ!? 私達にやれっての!?」
「そうじゃ。お主は名うての暗殺者じゃろ?」
別に名うてじゃないし! ていうか本業は重装戦士だし!
「それに今回の案を考えたのはお主等じゃろ? こういうのは言い出しっぺがやるもんじゃ」
「ちょっと強引すぎない!?」
「もっと言えば、今回の静観案を考えたのは……エリザではなかったか?」
「ウ、ウチぃ!?」
「そうじゃ。じゃからお主等に責任をとってもらおう」
「いやちょっと!? マジで強引すぎるって!」
「なあ、ウチの責任? ウチの責任になるん?」
「…………報酬に呪われアイテムを」
「よいぞ。秘蔵のヤツを用意するわい」
「引き受けた」
「「リジー!?」」
「ああもう! どうすんのよ! あんたが勝手に引き受けるから!」
「今回の仕事がどんだけ大変かわかってるんか!?」
「大丈夫」
「「だいじょばない!」」
「本当に大丈夫。今回はこれを使う」
そう言って取り出したのは、最近リジーが使い出した必中の弓と……靴?
「この靴は墜死の靴といって、履くと必ず飛び降り自殺する呪いの靴」
相変わらずあんたの呪われアイテムは、えげつない呪いばっかだな!
「私が履けば、ある程度なら空中を歩ける」
空中を歩けるの!? …………ん? 空中で弓?
「……あんた……まさか……」
「だから二人には、敵の引き付けをお願いしたい」
「引き付けか……何かこんな役回りが多い気がするんやけど……」
「私は久々かな。……まあやると決まったからには仕方ない。ハデにやりましょうか、エリザ」
「……そやな。憂さ晴らしに派手に暴れたるわ」
「……申し上げます!」
「どうした」
「敵に動きがありました!」
「ほう、やっとか」
「はい。二人の女性がこちらに向かって歩いてきます!」
「…………は?」
「……この辺りでいいわ」
私達は敵の陣から100m手前で止まり、準備を始める。
「……よし、≪偽物≫」
金属製の小型投石器を作り出し、エリザが炸裂弾をセット。
「ええで」
「……せめて発射! とか発射! とか言いなさいよ」
「何や、めんどくさい……はい、どーん」
……まあいいか。エリザの「どーん」の後に、投石器の引き金を引いた。
ビュン!
「いったで〜……」
ヒュウウウゥゥゥ…………ずどおおおん!
「た〜まや〜」
「……何やそれ?」
ずどおおおん! どごおおおん!
「て、敵の攻撃です! 次々と炸裂弾が……ぐああ!」
「第六騎兵隊が被弾! 多数の負傷者が出ております!」
「スーリ少佐も被弾されました! ただいま治療中です!」
「おのれ……! たった二人だけでここまでの混乱を……! さっさとその二人を始末するのだ!」
「……これで最後や」
「あれ、もう無くなったか……あ、前進してきた」
あれは万単位で向かってきてるわね。
「じゃあ後退するで」
「あ、ちょっと待って」
「……何や、穴なんか掘って」
「行けえええ! 敵はたった二人だ、一気に踏み潰せええっ!」
「「「おおっ!」」」
「隊長、敵は逃げ出しております!」
「馬に乗ってないのなら、すぐに追いつける! 我々を挑発した報い、たっぷりとうけてもらうぞ!」
……ガッ!
「ん? 何か踏んで……」
どっかあああん!
「あ、踏んだみたい」
「何を仕掛けたんや?」
「地雷」
「な、何やそれ?」
「追撃部隊前方で爆発! 混乱し、足が止まっております!」
「小癪な輩め! 増員して追撃させよ! 絶対に逃がすな!」
「えっと……はろはろ〜?」
「ん? 誰か何か言ったか?」
「あ、あれを!」
「ん? な、何だと!? 空に人が!?」
「……そこは『空から女の子が』と言ってほしかった」
バシュ! ドスゥ!
「ぐはあっ!」
「将軍ーーー!!」
「……あ、狼煙が上がりました!」
「うまく殺ったようじゃの……よし、全軍前進!」
「「「おおっ!」」」
あ、連合王国軍が来た。
「ただいま〜」
「リジーご苦労様。それじゃあ私達は退散するわよ♪」
「「りょーかい」」
司令官を失ったラインミリオフ帝国軍は、連合王国軍の攻撃によってあっさりと瓦解し。初戦と呼べるのかよくわからない戦いは、連合王国軍の大勝利に終わった。
「わっはっは! お主等のおかげじゃ! 報酬は弾むからの! わっはっは!」
孫からの尊敬の眼差しを一身に受けてご満悦なジジイは、大盤振る舞いの報酬を約束してくれた。
「……ていうか、全部呪われアイテムなのかしら」
……後日。私の予想通りの結果となった。
新元号発表と一緒に投稿。