第五話 ていうか、もうすぐ戦争が始まるってのに、各国の連係は……はあ。
盗賊の討伐から四日後。
「……着いたあああっ!」
「や、やっとカッポカッポガラガラガラから解放や……長かったわ」
「呪鉄にジュテーム……んふ、んふふ」
……リジー以外はようやく馬車の旅から解放された開放感を、全身で味わっていた。
私達が到着した町サッフードは、暗黒大陸の町の中では最大の規模を誇る町だそうだ。人口とかの統計はとってないみたいだけど、数十万は下らないだろう……とのことだった。何気にスゴくね?
「さ、寒いわね。季節的に冬は早いわよ?」
「この辺りは北極圏に近いんや。……ていっても、オーロラが見えるほどやないんやけどな」
「え? こっちの世界にもオーロラがあるの?」
「あるで。限られた条件でしか見えんそうやけど。ただ稀に地上に被害を及ぼすそうやから、気を付けなあかんで」
……前言撤回。オーロラとはいっても、全くの別モノらしい。
「そういうサーチんは寒うないんや?」
「んっふっふ……私にはこういうモノがあるからね」
しばらく眠ってたんだけど、久々の登場、簡易護符! 炎熱石をロケットの中にセットすれば、それだけで全身ポッカポカという超便利品! 他の魔石にも対応してて、クーラー効果もある。下手な防寒護符を買うより、よっぽどお得なのだ!
「えええ!? そんな便利なモノがあるん!? ど、どこに売ってん?」
「え〜と……グラツ」
「グラツって………向こう側の大陸じゃどうしようもないやん!」
「心配しなくても大丈夫よ。はい」
私は小袋を渡す。
「? こ、これ何や?」
「リファリスがあんたのことを心配して、グラツから取り寄せてくれてたのよ。昨日の夜にヴィーが転移魔術で送ってくれたわ」
「え!? 転移魔術って……」
「ヴィーの話だと、モノを送るくらいなら問題ないんだって」
「ようウチらの場所がわかったもんや」
「……私を基点に送れば何の問題もないって……」
「サーチんを基点って……サーチんの位置をどうやって特定したん!?」
「…………『愛で繋がってますから』って…………」
「…………そ、そうなんや…………ウ、ウチもリファリス様の座標をすぐ特定できるようにせなあかんかな……」
……別に対抗しなくてもいいんじゃない?
「……ま、何はともあれこれで安心や。リファリス様、ありがとうございます〜……スリスリ」
「嬉しいのはわかったから、はい炎熱石」
「あ、おおきに」
……これで防寒対策はカンペキね。
「そうや、ジジイはどこや?」
「あ、今は他の国の関係者と会議してるはずよ。先鋒の押しつけ合いをしてるんじゃないかな」
「先鋒の押しつけ合いって……普通は先鋒は『騎士の誉れ』ってなるんちゃう?」
「兵を消耗していちいち叱られるんじゃ、先鋒なんてもっての他でしょうよ」
「……勝てるんかいな、こいつら……」
「不安だけど勝たなきゃならない。まかり間違って大陸を統一なんてされたら、私達の大陸に被害が出かねないわ」
「……そうやな。人間にも友達はおる。その子らの為にも、負けるわけにはいかへん」
……そうなると……カギとなるのは、初戦の勝敗か。相手はできたばかりの新興国だから、治世が安定してるとは思えない。負ければ国内は確実に恐慌状態になる。
「そうなったら、混乱に紛れてエイミアをかっ拐うだけ。だけど……」
勝っちゃったりしたら厄介だ。恐慌状態に陥りやすいってことは、逆も然り。一気に国内が盛り上がり、軍の士気も高くなる。
「勢いに乗って押され出したら、連携がいまいちとれてない連合王国軍は簡単に瓦解する。下手したらラインミリオフ帝国側に寝返る可能性もある」
……絶対に初戦は落とせないわね。
私の不安を煽るかのように、ジジイ達の協議は物別れに終わったそうだ。
「各軍は連係せず、個別で行動するそうじゃ」
「はあああ!? バカじゃないの!? 連係もとれてないような軍なんか、各個撃破してくださいって言ってるようなモノじゃない!」
「わかっておるわい。じゃが、上の決定に逆らうわけにはいかん。それが軍というモノじゃ」
「っ……全く! いつの時代でも、どこの世界でも、上層部がろくでもないってのは共通してるのね!」
「……お主も相当苦労したようじゃのう……」
ええ。ぶちキレて組織そのモノをぶっ潰したくらいには。
「でもサーチん、逆に言えばどんな行動をしても文句言われる事はないやろ? やったら思い切った事もできるで」
「ん? そりゃそうだけど……何か妙案でもあるの?」
「簡単や。戦わないようにすればええんや」
…………………………………はい?
「何を豆鉄砲食らったような顔しとるんや。連係する必要がないんなら、他の国の軍に戦いを任せて、ウチらは高みの見物でも構へんやろ」
「いや、流石にそういうわけには……いかないよね?」
「……それも手じゃのう」
えーーーーっ!?
「ちょっと! それはいくらなんでも……」
「いいんじゃよ。どちらかと言えば揺さぶりの意味合いが強いしの」
揺さぶり……ああ、そういう事か。
「これをきっかけに、少しは連係をとれるようにしたいわけ?」
「うむ。このままバラバラな行動をしておっては、お主の言う通りになってしまうからのう。この戦いは絶対に負けるわけにはいかぬ。その為の布石ならば、多少の泥くらいは被ろうではないか」
お、少しジジイがカッコいい。
「じいちゃんすげー!」
「じいちゃんかっこいいー!」
「じいちゃんだーいすき!」
何だよ、スリー孫ーズが来てたからカッコつけたのか。
「あんた達、もう寝る時間でしょ。さっさと寝なさいよ」
「「「は〜い」」」
……去っていくスリー孫ーズを名残惜しそうに見送るジジイ。だけど、言質はとってある。
「じゃあ動かないってことでいいのね? ジジイが全責任を負うってことでいいのね?」
「ちょ、ちょっと待ってほしいのじゃが」
「さーすが! 三人の可愛い孫から、敬愛されるだけのことはあるわ!」
「ホンマにカッコいいで! 孫からの好感度、更にアップやで!」
「ひゅーひゅー。孫から尊敬されるジジイ、カッコいいー」
「う、うぬぬ……し、しかし……」
「あら、もう意見を変えちゃうんだ? あーあ、孫が見たらがっかりだな〜」
「リジー、三人を呼んできてえな」
「らじゃあ」
「うわわわわわっ! わかった! わかったから止めてくれえええっ!」
ようし、これで状況は動くでしょ!
これから一週間後、ラインミリオフ帝国との小競り合いが起こるのだが、何とも言えない状況に陥ってしまった。
「ウ、ウソでしょ……」
連合王国軍、どの国も動かなかったのだ。