第四話 ていうか、今回は小うるさい盗賊の討伐。
「日程的にはあと半分なんじゃが………何じゃ、余程暇を持て余しているようじゃの」
「……そりゃ持て余すわよ。毎日毎日カッポカッポとガラガラガラじゃあね……」
「……? よ、ようわからぬが……そんなお前さんらにうってつけの仕事があるわい」
「仕事? お孫さんの観察日記は毎日提出してるじゃない」
よく考えれば、これも暇だからできることなんだけどね。
「可愛い孫を動物のように言うでないわ! 観察日記等と……ブツブツ」
「はいはい、孫バカはいいから。早く仕事の内容を教えて」
「ま、孫馬鹿…………まあ良い。お主に頼みたい事は他でもない、盗賊の討伐じゃよ」
「……このまま軍を盗賊のアジトに差し向ければOK。よし、無事に解決」
「それが出来れば苦労はないわい。この軍はあくまで対古人族の為のモノ。盗賊の討伐等というくだらぬ理由で兵を損ねてはならん……となるのじゃよ」
「頭が固いわね〜……わざわざ討伐してくれなんて言うくらいだから、軍の力がいるくらいの大規模な盗賊なのか、軍の兵糧を狙ってくるかのどちらかでしょ」
「そうじゃ。なかなかの知恵者じゃのう」
「それなのに『兵を損ねるな』って……。兵をムダに消耗するのは愚策だけど、兵を動かすタイミングを見謝るのはもっと愚策じゃないの」
「……正直耳が痛いの。上層部に聞かせてやりたいわい」
「じゃあ何で私にそんなムチャ振りするわけ?」
「いやなに。上層部が言うには『我が国の兵でなければ、いくらでも損ねて構わん』と言うのでな」
「…………合理的だけどサイテーね」
「儂もそう思う。故に断ってくれて構わぬよ」
「へ? いいの? ていうか、ジジイの責任にはならないの?」
「本来冒険者は忠誠ではなく金銭で国に従うじゃろ? ならば『危険な任務に見合う報酬が用意されないのなら、受けるつもりは毛頭ない』と言われればそれまでじゃよ。儂の責任と言うより、妥当な報酬を用意できなんだ方の責任じゃな」
……なるほど。失敗の責任を財政面の担当に押しつけるのか。ホントに食えないジイさんね……。
「じゃあ逆に、ジジイにとって一番理想的なシナリオは?」
「ん? それは勿論、儂が選んだ冒険者が無事に任務を全うして、更に冒険者に対する報酬が少なすぎる点を追及する……という感じじゃな」
「……その財政担当者、ジジイの政敵か何か?」
「人間的にも大嫌いじゃ」
つまり、自分の株を上げた挙げ句、政敵を追い落とす材料も欲しいってこと? ずいぶんと欲張りだこと。
「じゃあさ、その最良のシナリオに持っていけたら、報酬を弾んでくれる?」
「? ……そ、それはまあ……じゃが良いんじゃぞ? 無駄に命を危険に晒す必要はない」
……私はニンマリと笑った。相当に悪い顔をしてるだろうな。
「いえ。その盗賊の討伐、私一人でやってみせましょう」
「………………は?」
その後、小一時間ほどジジイと話し、盗賊の規模や本拠地の地理、現在の連合王国軍の配置などを聞き出す。それと。
「な、何や何や。ウチを引っ張り出して、何かあったんか?」
地図と。
『……さーちゃん。今何時だと思ってるの? 時差ってのを考慮してよ』
……頭脳だ。少し前に念話の中継点が完成してて助かった。サンキュー、ソレイユ。
次の日まで一昼夜かけて策を練り、深夜になって作戦が完成した。
『これなら完璧よ。万が一にも失敗はないわ』
「ありがとうリファリス。この礼はいずれ」
『いいわよ、そんなの。さーちゃんの為だもん。それより……』
「ん?」
『エリザをあんまり酷使しないでね。寝不足は肌荒れの元だから』
……すでに寝入っているエリザを指差して苦笑した。
「うん。今回は私だけでやるから、エリザはこのまま寝かしとく」
『ならいいよ。じゃね〜……ふあああ……』
……リファリスもこの後、バタンキュ〜だな。
「さて、あとは実行あるのみ。まずは第四王国軍かな……」
「……申し上げます!」
「何事だ」
「後方より敵襲! 少数の遊撃隊による奇襲と思われます!」
「なにぃ!? 被害は!?」
「複数の炸裂弾を投げ込まれただけですので、人的被害はありません。ただ……」
「後方の部隊……まさか兵糧を!?」
「はい。複数の荷馬車が被害にあい、燃えてしまいました……」
「な、なんだとお……おのれえ! 我等を栄光の第四王国軍と知っての狼藉か! して、敵兵は!?」
「南側の森の中に引き上げた模様です。おそらくそこに敵の陣地があるものと思われます」
「そ、そんな近くに敵が……! これは古人族の企みに違いない! すぐに追撃するぞ! 総員戦闘準備!」
「お、お待ち下さい! 罠の可能性が……」
「知るかっ!! 罠ごと食い破ってくれる! 出陣、出陣じゃあああ!」
「「「おおおっ!!」」」
やれやれ、うまくいったか……。
「なあ、あんな兵士いたっけ?」
「ビキニアーマーなんて珍しいな」
ぎくっ。さっさと退散しよう。
さて、次は……と。
「……申し上げます!」
「何事ですか?」
「ただいま第四王国軍が戦闘状態に入りました! 南側の森にて交戦中の模様です」
「戦闘? 何処とですか?」
「第四王国軍の話によりますと、古人族の遊撃隊による奇襲があったようです。兵糧に大きな被害が出ているそうで」
「兵糧!? ……そうか。ここで兵糧を消耗させ、我等の進軍を遅らせる魂胆ですか」
「な、ならば我等も用心せねば!」
「狼狽えるな。相手の居場所がわかるのなら、やられる前にやってしまえば良いのです」
「で、では我等も!」
「今から行けば第四王国軍と挟み撃ちできます! 急ぎ戦闘準備を!」
「「「おうっ!」」」
よし、これで完了。さっさと退散しますか……。
「待ちなさい」
ぎくっ。
「な、何か?」
「あなた……」
ひ、ひええっ。
「よく知らせてくれました。報奨を与えましょう」
………ラッキー。
……数日後。
「お主、一体何をしたのじゃ?」
「何をしたって……ただ報告をしただけですよ?」
ちょっと夜陰に紛れて炸裂弾投げ込んだり、過大な報告をしただけで。
「何故か第四王国軍と第十二王国軍が絶妙なタイミングで盗賊を挟み撃ちし、数時間もしないうちに盗賊の大軍を壊滅させたそうじゃ」
「それはそれは。良かったじゃない、命令通りに兵を損なわなかったんだから……この軍は」
「……両軍には少なからず被害があり、各国の上層部より叱責されたそうじゃ。確かに我が軍には被害がなかったの……」
「どう? カンペキでしょ? じゃあ報酬報酬〜」
「何を言うとる。儂は『我が軍』と言ったんじゃぞ?」
「ええ、だから……」
「第四王国軍と第十二王国軍は味方じゃぞ? 同じ軍ではないか」
「え、えええ!?」
「それに第十二王国軍の指揮官から報奨を貰ったのじゃろ?」
うぐっ! バ、バレてる!!
「よって儂からの報酬は無しじゃ。残念じゃったのう」
「…………観察日記も終了ね」
「いやちょっと待て! それは別問題……」
「なら今の報酬を二割増しね」
「ぐぬぬ……!」
……結局了承した。やっぱり孫バカ。
「……恐ろしい知略じゃ。あの者達は何者じゃ?」
『孫の友達ですよ』
「孫の……か。それだけではあるまい」
『フフ……どうでしょうか?』
「ふん……相変わらす食えない女狐が」
『古狸には言われたくないです』