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第一話 ていうか、とんぼ返りで戻ってきて、三人のお子様のお守りです。

「た、ただいま〜……」


「あ、サーチ姉お帰りなさい」


「あ〜、しんど……ようこの日程で帰ってこられたわ……」


 拠点に戻って念話して、またとんぼ返りして……全行程約二週間。普通なら三倍の日にちがかかるんだけど……。


「逃げた音速地竜(ソニックランドラゴン)を捕まえるのが、一番苦労したわね……」


 トカゲと違って、尻尾が再生することがない音速地竜(ソニックランドラゴン)。それが尻尾を食い千切ってまで脱走したんだから、捕まえるのも一筋縄でいくはずがない。


「……ブラックリストに載ってなきゃ、こんな苦労はしなかったんだけどね……」


 散々追いかけ回して、ようやく捕獲。その足で帰路につき、普通ではあり得ないスピードを強制……もとい努力して出してもらい、さっき到着したのだ。半死半生の音速地竜(ソニックランドラゴン)を返しに行ったら「お前らの血は何色だああっ!?」と言われて、店から叩き出された。赤いに決まってんじゃん。


「リジーは順調だった?」


「うん。三人ともとっても良い子。教え甲斐がある」


 へえ……意外とリジーも子供好きなんだ。


「ちゃんと教育したら、呪われアイテムの重要性について理解してくれた」


 ……は?


 ……ドタドタドタ!

「こりゃああ! うちの孫に何を教えおったんじゃあああ! 呪われアイテムを持ち出して大暴れしておるぞ!」


 ……迂闊。完全に人選ミスだった。



 カナタ、ソナタ、ドナタの三人は、幸い軽い呪いで済み、ただいま教会にて解呪中。その間私達は、ジジイからたっぷりとお灸を据えられた。その後には、私からのお説教がリジーを待っているのだが……自業自得だと思う。



「……はい、そこまで」


「はあ、はあ、はあ……」


「どう、使ってみた感じは?」


「ぶきがかるすぎるけど、なれてきた。だいじょうぶだとおもう」


 教官を交代し、私が三人を見ることにした。「お主らの誰かで、基礎を叩き込んでやってくれんかの?」というジジイからの依頼の延長。ていうか、リジーの尻拭いだ。


「カナタは『力』に頼りすぎなのよ。だから短剣みたいな軽い武器に慣れていけば、細かな剣さばきもできるようになるわ」


「……つよくなれる?」


「もっちろん。今までよりずっとね」


「ならがんばる!」


 ……さっきまで「のろわれ〜……のろわれ〜……」と呟いてた子とは思えないわ。


「ほい、ほい。ええで、ええで」


「うりゃああ!」

「たあああ!」


 私の後ろでは、エリザとソナタ・ドナタペアの模擬戦が行われている。この二人、攻撃魔術の中でも接触型という魔術に秀でてることがわかったのだ。わかりやすく言えば、魔法剣みたいなヤツ。


「足が付いてきてないで! ウチの動きにちゃんと合わせや!」

「「はい!」」


 ただいかんせん、魔術士にはよくあることだけど、近接での戦闘はからっきしなのだ。だから格闘術の心得があるエリザの出番となった。


「ほい、やめ! 一旦休憩やな」


「は、はいい……」

「し、しんど……」


 タオルをエリザに渡しつつ、二人の様子を聞いてみる。


「どう?」


「筋はええで。この短期間でここまで腕をあげるってのは、なかなかおらへん。流石は早熟才子(ジニアスキッド)やな」


「……そうね」


 正直、この子達の才能が羨ましい。数年のうちには、私達が届くかわからない高みへと到達するだろう。


「……だけど、そう簡単には越えさせないわよ。私達もちゃんと腕を磨かないと!」


「そやな。越えようとする存在が大きな程、この子らも強くなれるっちゅう事や」


 それにしても、エリザって意外と面倒見が良いのよね。やっぱ長年メイド長を務めてきたからかな?


「楽しみや。楽しみやなあ……くっふっふ」


 ……それとも、ロリの気があるか。



 夕方になって訓練が終わり、私達は旅館へ帰ろうとしていた。そのとき、ジジイが私達に声を掛けてきた。


「どうじゃな、孫達は?」


「あれだけ教えるのが楽しい子もいないわ。間違いなく強くなるわよ」


「戦争までに間に合いそうかの?」


「……前から聞きたかったんだけどさ、あんた自分の孫を戦争に出したいの?」


「何を言っとる。出したい訳がないじゃろが」


「「「……はい?」」」


 なら、何で鍛えてるわけ?


「我が家の孫が早熟才子(ジニアスキッド)だという事は、この国ではよう知られとる。じゃから、間違いなく出征は免れん」


「……」


「じゃったら早々に出征を公表し、儂の部隊に配属させた方がマシじゃ。儂が手綱を掴んでおけば済むからの」


「な、なら、この訓練は?」


「強ければ強い程生き残る率が高いのは道理じゃろ」


「いえ、逆もあり得る。貴重な戦力として、さらに最前線に駆り出されかねない」


「そこは儂が何とかする事じゃよ。それより、そこまで孫を心配してくれてすまんの」


「……そりゃあ……ね。子供が死ぬのは……見たくないから」


 思わず、前世の苦い記憶が過る。助けられなかった、小さな手が。


「……? どしたんや、サーチん?」


「んぁ!? あ、何でもない何でもない」


「ならええけど……」


 そんな私の様子を、ジジイがじっと見ていたのは知ってたけど、これ以上この話題が続くこともなく、そのまま解散となった。



「……よう来なすった。夜分遅くにすまんのう」


「別に。私も用件があったし、あの場では話しにくいことだったし」


 夜半。私はジジイが住む官舎に忍び込み、部屋へと潜り込んだ。口パクで「夜中に一人で」と言われたのだ。


「でも若い娘を部屋に呼び込むって、ジジイの信条に反するんじゃないの?」


「国と孫に関わる事じゃ、儂の信条なぞ二の次じゃよ」


「……私さ、もう眠いの。さっさと終わらせましょ」


「そうじゃな。明日は早いからの」


 明日は早い? まさか……。


「軍の編成が始まるの?」


「うむ。今月中には出立する予定じゃ」


「今月中って……性急ね。もう半月もないじゃない」


「随分前からきな臭かったからの。それなりに準備はしておるわい」


 ……なるほど。


「それでお主に頼みたい事がある。名目上は、お主らは傭兵部隊に配属されるのじゃが……」


「私だけ別にしたいとか?」


「! ……ようわかったのう」


「どうせ私を諜報か何かに使いたいんでしょ?」


「そうじゃ。お主は転生者なんじゃろ? おそらく元アサシンの」


 こ、この爺さん……!


「その経歴を買っての抜擢じゃよ。給金は弾むぞい?」


「パーティから離れろと?」


「そこまでは言わん。たまに、で十分じゃよ」


「……一つの仕事ごとの報酬ってことなら、引き受けるわ」


「ならば商談成立じゃな」


 ……このジジイ、意外と切れ者かも……。


「主に頼むのは孫に関する事じゃ。日々の成長や微々たる変化、とにかく孫に関わる全ての事を報告してくれい」


 前言撤回。単なる孫バカ。



 それにしても……何で私の前世を知ってるわけ?

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