第二十話 ていうか、ここに伝説の騎士の伝説が幕を開ける!
一角獣。
前の世界でもドラゴンやペガサスに並ぶほど有名な幻想種。何より特徴的なのは、捻れながら生えてる角だろう。その角を粉状にして飲むと、不老不死の妙薬となるという。その伝説を悪用し、北極海に生息するクジラ・イッカクが乱獲され、その角を一角獣の角と偽って売り捌く輩が横行し、イッカクは絶滅の危機に瀕しているとか。
カッポカッポカッポカッポ……
……その伝説の馬が、この馬車を引いていたとはねえ……。
一角獣を連れ帰った日、宿場町は大騒ぎとなった。
「し、信じられねぇ! ホントに一角獣だぜ!?」
「ああ。とっくに絶滅してたと思ってたのに……」
前世の世界的には「ティラノサウルスを連れ帰った」並みのインパクトです。それぐらい昔に絶滅したと言われていて、角が化石になって見つかるくらいだ。
「超稀少種どころじゃないわよ。これ、大ニュースよね」
「サーチん。一体どこで捕獲したんや!?」
「…………信じてもらえないと思うけど、戦場で馬車をかっぱらってきたら……」
「……たまたま一角獣だったと? アホちゃうか!? んなわけあるかいな!」
うん。私もマジでそう思う。現実なんだけど、どうやって納得してもらえばいいのか、全く思いつかない。どうしようかな、このまま放逐してなかったことに……。
『いやいや、姿を見せたのは我が意思。放逐してもらっても困る』
「あ、そうなの? ならあんたから説明してくんない?」
『心得た。時を遡ること三日前、私はこの町で馬車を引く役目を請け負っていたのだ』
「…………って、はあああああああっ!? 馬がしゃべった!!」
『馬と一緒にするな!』
いや、あんた立派な馬ですから。角があるかないかってだけで。
「んじゃおめえ、オラの家の馬だか!」
『そうだ、マスターよ。我はマスターの一族に代々仕えていた一角獣の末裔なり』
……まさか自分の家の馬が伝説の幻想種だとは思わないわよね……。この町の乗合馬車の馭者さんは、腰を抜かして驚いていた。
「えっと、つまり……この馭者さんの先祖が、代々統一王国に仕えていた幻想種使で、そのご先祖様に代々仕えてきたのが……」
『うむ。我なり』
一途というか、忠誠心の固まりというか……。統一王国時代は幻想種使に付き従い、戦場を駆け巡った伝説の馬。それが今やど田舎の宿場町で乗合馬車を引いている……ある意味すげえな。
「しかし幻想種使っていう幻の職業まで現存していたなんて……馭者さん、あなたもスゴいのよ?」
「オ、オラは何も知らねえだよ! ちっちゃい頃からこいつの世話してただけだ!」
『マスターは親の仕事を見て成長しただろう。あの一つ一つが幻想種使の技の修練だったのだ』
すげえ一子相伝だな。
「あんさんは、おとんやおかんから何も聞いとらん?」
「知らねえべ! おっとうもおっかあも早くに死んじまっただよ!」
『事故だった。先代も全てを伝えきることができず、さぞかし無念であったろう……』
あ、そういうことか。ある程度成長してから、真実を伝えるつもりだったのね。
『ところが現在のマスターは、己の創意工夫で幻想種使の技を身に付けていき、ついには先代を超える程の幻想種使に成長した。いやいや、天才とはこのようなお人を言うのだな』
「そ、そんな! オラはおっとおの言い付け通り、馬の世話と野良仕事をしてただけだ! そのときに楽な方法を見つけただけだ!」
『だから、その全てが幻想種使の修練だったのだ。やはり大したモノだ』
もう一回言うわ。すげえ一子相伝だな。
「……普段は角を隠してたわけ?」
『その通り。現在のマスターが成人するまでは、真実を告げないつもりだった。たまにモンスターや盗賊がこの町を襲撃してきた時だけ、この姿に戻って撃退していた』
「そ、そういやモンスターや盗賊の死体が散乱してたことがあったな」
何気に守護してたわけね。
「そ、そうだっただか……すまなかった。戦争だ言うから、オメエを手放したオラを許してけれ」
『何を言う、マスター。我との別れの際の涙が、我にどれだけの力を与えてくれたか。ここに我は、マスターへの永遠の忠誠を誓おう』
「う、うう、ううう……うわああああ〜〜〜ん! 許してけれ、許してけれな、ごんろく〜!」
「……あの、ごんろくって……?」
「ん、ああ、あの馬の……一角獣の名前」
何かいろいろ台無しだよ!
「いやあ〜、ホントにあんがとな。これからはオラ、幻想種使の誇りを胸に、ごんろくと頑張るだよ」
お願い、ごんろくは止めてあげてよ。
「こ、これからどうするの?」
「ごんろくとも話し合っただが、今まで通り暮らすだよ。ごんろくも今の暮らしが性に合ってるみたいだしな」
『うむ。この長閑な暮らしは捨てがたい』
……すっかり牙が折れた一角獣さん。あ、角か。
「だけんども、もしこの町さ危険になったなら、オラはごんろくと一緒に戦うだよ。こう見えてもオラ、鍬を使われたら町一番だよ!」
鍬で戦うな!
『案ずるな。鍬による戦闘は幻想種使には必須だ』
だから何なんだよ幻想種使って!
「ああ、そういや鍬一本で盗賊を壊滅させてたなあ」
……もういいや。つっこみ疲れた。
これが後の幻想騎士誕生の瞬間だった、と言われている。
ある日、万を越すドラゴンの群れに襲われた宿場町。そこに颯爽と、鍬を振りかざした麦わら帽子の農夫が現れ、一角獣に跨がって対峙した。激しい戦闘は一昼夜に渡って繰り広げられ、戦いが終わった戦場には無数のドラゴンの骸と、逃げ去るドラゴンに向かって勝鬨をあげる農夫の姿があったと言う……。
「……これからも二人三脚でがんばってくのかな、あの主従……」
馭者さんから譲ってもらった馬車に座り、手綱を操る。その先に繋がれているのは……一角獣ではない。
カッポカッポカッポカッポ
「良かったやん。普通の馬がおったんやから」
「一角獣に感謝。幸運と思われ」
さすがに一角獣をもらうわけにもいかず、どうしようか悩んでいたら……。
ブルヒーン!
一角獣の嘶きに従うように、突然町にこの馬が現れ。
『我を助けてくれた礼だ、受け取るがよい。我のような知性はないが、中々の馬だぞ』
……となったのだ。
カッポカッポカッポカッポ
「……普通の……馬ねえ……」
……この馬……赤い汗を流すのは……気のせいよね?
この馬の名前は赤兎かな?