第十九話 ていうか、ケガをして歩けなくなったエリザのために馬車を調達。
出発して三日、早くもつまずくこととなった。
「ちょ、ちょっと休憩せえへん?」
「またあ? エリザ、体力ない」
「せ、せやかて……あ、足が……」
「やれやれ、ちょっと見せてみなさい。ホタルん、少し光を強めに」
え? ホタルんって何だって? 私の頭の魔力蛍だよ。ちなみに、命名はエリザ。
「……ありゃりゃ、マメが潰れてるじゃない。マメができたって何で言わなかったのよ」
そう言いつつ、潰れたマメに薬草を塗り込む。
「っ〜〜〜〜〜っ!!!」
うん、傷に沁みるのはよーくわかる。だから人の頭をバシバシ叩くのは止めなさい。
「……しまったわね。エリザが旅に慣れてないってことを失念してたわ」
私とリジーは旅し慣れてるから、長く歩くのもへっちゃらだ。エリザは私の歩くペースについてくるのがやっとで、ずっとムリしていたのだろう。
「……仕方ない。次の宿場町で少し逗留するか」
「ウ、ウチの事は気にせんでええで! 頑張って歩くさかい!」
「……普通の宿に泊まって、三人で大体銀貨六枚かな。で、今塗り込んだ薬草は一袋銀貨八枚くらい。さて、何日か逗留するのと、ムリして歩いて高級薬草使いまくるのと。どっちが財政的に楽かな?」
「「……逗留」」
「はい、決まりね。それに温泉にも入りたかったしね〜……」
「「そっちの理由の方が強いんじゃ……」」
失敬な。否定はしないけど。
エリザをかばいつつ歩を進め、夕方までには宿場町に着いた。そのまま一番近い旅館にチェックインし、エリザを座らせる。リジーはチェックインする前に、薬草を買いに行ってもらった。
「……うわ、もう片方の足も潰れる寸前ね。よくガマンしたわね〜……」
「あひゃ! い、痛いから触らんといて!」
「ん、水が溜まってるわね。エリザ、このマメは潰しちゃダメだからね。潰すと余計に治りが遅くなるから」
「え? 潰すと治り早いんとちゃうの?」
「マメに溜まってる水はリンパ液なの。その方が菌が入りにくいわけ」
「???」
あ、わかんないか。
「とにかく、二、三日はあまり歩かないようにね。わかった?」
「……しゃあないな……今回はサーチんの好意に甘えるわ」
「そうしなさい。元気になったら、宿代と薬草代をまとめて請求するから」
「うごっふぅ!?」
「あはははは、冗談よ。じゃあごゆっくり」
そう言って部屋を閉める。さて……と。
「ねえ女将さん。この近くで馬車を扱ってる店はあるかな?」
「馬車でございますか……残念ながら、この辺りでは……」
あ、やっぱり?
「今この近くの平原で、第三王国と第五王国が戦争をしておりまして、その際に馬車は全て徴発されてしまいました」
……たく、タイミングの悪い。
「その戦場って近い?」
「え? は、はい。街道ですと丸一日かかりますが、裏の山を越えれば半日程の距離です」
……半日……か。
次の日の朝。
「リジー、エリザ。私は今日一日出かけるから」
朝ご飯のときに、二人にこう切り出した。
「出かけるって……どこ行くんや?」
慣れない箸に苦戦するエリザ。スプーンを貸してもらいなさいよ。
「ん〜……近くで盗賊討伐の仕事があったからさ。少し稼ごうかと」
「ひ、一人で大丈夫なん?」
「エリザ、サーチ姉は一人の時の方が沢山稼ぐ」
「そ、そうなん!?」
元アサシンは伊達じゃありません。後ろからブスリといきます。
「じゃあそういうことで。エリザはちゃんと休んでなさい。リジーは好きにしてて」
「「はーい」」
……半日後。
「はあ……はあ……め、めっちゃ険しい裏山だったわ……」
女将さんが「止めておいた方が……」って言ってた理由、よーくわかったわ……。
「さて、補給部隊は……と」
あっちの明るいのが主戦場ね。少し離れた灯りが本陣か。なら、少し離れた小さい灯りが怪しいかな。
「……ホタルん、しばらく暗くしてて」
灯りの反射を頼りに、私は闇の中を駆けた。
「よっと。ほいっと」
ズバッ ドシュ
「……!」「ぐぶっ!」
ついでに、息を潜めていたどっかのアサシンを片づけながら。
「未熟者ばっかりね〜。アサシンがアサシンに殺されるって、一番の恥だよ〜♪」
鼻歌混じりで進むと、やがて馬車の列が見えてきた。間違いない、補給部隊だ。
「……これだけ馬車があれば、一つくらい無くなってもわかんないわよね♪」
魔法の袋から炸裂弾を取り出すと、適当に数発投げた。
……ズゥン! ズズン!
『何だ!? 何が起きた!?』
『何か爆発が……うわああ! 馬車に火がああ!』
よし、この騒ぎに紛れて……!
「敵襲! 敵襲ぅぅぅ! 敵の奇襲だあああ!」
「「「う……うわあああああ!?」」」
「逃げろ! 逃げるんだああ!」
「すぐに援軍要請を! ここの兵士だけでは持ちこたえられない!」
おお、いい具合に大混乱♪ 手近な馬車に乗り込んで……と。
「な、何だ貴様は!?」
「何だって怪しい者でーす♪ あ、そーれ♪」
「ぅぐふぉ!?」
昏倒した馭者を蹴り落とし、はいよぉシルバー!
ばしぃん!
ヒヒイイイン!!
「な!? 馬車が暴走して……ぎゃあああ!」
「こっちに来るなあ! ひぎゃあああ!」
はーい、邪魔な人は容赦しませんよー♪
「それにしてもよく走る馬ねえ。この調子なら、夜になる前に戻れるかな?」
手綱で操りながら、他の馬車の間を抜けていく。その間にも炸裂弾を撒きまくり、さらに混乱を誘発させていく。
「ぎゃあああ!」「うわああ!」「助けてくれえ!」「落ち着け、落ち着くんだあああ!」
落ち着けと言ってる人が、一番落ち着いてないのよね。
「それにしても早いなあ……あっという間に戦場から離れちゃったよ」
……いや、おかしいな。荷馬車だから結構重いはずなのに、軽々と引いてるし、さらに加速してるし……?
「まあいいや。音速地竜ほどじゃないし、このまま突っ切っちゃえ!」
そのまま大混乱の戦場を後にした。後日知ったんだけど、この補給部隊への奇襲がきっかけで均衡していた戦線が崩れ、勝敗を決することとなったらしい。何て言ったらいいか……ごめんなさい。
「たっだいまー! エリザ、リジー、馬車が調達できたよーん♪」
「あ、お帰りサーチ姉。ね、エリザ。やっぱり馬車だったでしょ?」
「……堪忍な、サーチん……」
……しっかりバレてたか。
「見てみてよ。馬車は貨物用だから粗末だけど、馬がスゴく立派な子なのよ! めっちゃ速いのよ!」
「へえ〜……って、嘘やん!?」
「ま、まさかの超稀少種!!」
へ?
「き、稀少種って?」
「気付いてへんし!」
「サーチ姉、頭の角に気付かなかった?」
頭の角って……あ、よく見ればねじれた立派な角が……って!
「一角獣!?」
一角獣が更なる騒ぎの元に。