第十五話 ていうか、ラインミリオフ王国復興隊と絶望の獣拝み隊は、お間抜けさんみたいで助かります。
ここで絶望の獣復活の話になるとは……しかもエイミアが鍵ですって?
「どうやったらエイミアが無限の小箱を開けられるんや? 美徳戦士にはそんな能力があるん?」
「はい? アイテムボックス?」
……あ、そっか。こっちの大陸には無限の小箱そのモノがないんだ。作った本人であるソレイユがこっちの大陸に来たことがないんだから、使える人どころか知ってる人がいないわな。
「えーっと、無限の小箱ってのは…………あぁ、魔法の袋はありますよね?」
「え、ええ。勿論」
「それのバージョンアップ版だと思ってもらえば」
「は、はあ……」
「今絶望の獣は、その無限の小箱の中に封印されてるんですが……」
「……………………はい?」
「えっと……要は超巨大魔法の袋の中に封印してあります」
「な、何ですって!? そんな不安定な状態では、いつ封印を破ってくるか、わかりませんよ!?」
「あー、えっと……100%ムリなんです」
「どうしてですか!? 魔法の袋内の境界壁は、そこまで強力なモノではありません!」
「いえ、概念的にムリです。無限の小箱内は、時間が止まってますから」
「……………………はい?」
「時間が止まってる以上、動くことは絶対にできません。つまり、この封印を解くには、外部から無限の小箱を開くしかありません。だけど絶望の獣の封印の際に、ソレイユ……無限の小箱の創造主が完全に封鎖しちゃいました。再度開いたとしても絶望の獣の容量がデカ過ぎて、出すことは絶対にムリだそうで。つまり、この世界の仕組みを丸ごと作り替えるくらいしないと、絶望の獣の復活はムリなんです。それをエイミアが何とかできるんですか?」
「…………そ、そういう事ですか。スケールが大きくて、少しフリーズしてしまいました」
「それで、エイミアの話は?」
「美徳戦士が封印を解けるのは、あくまで正規の封印術が施された場合に限ります。そこまで強固で想像を超える封印は、美徳戦士だからできる、というモノではありませんね」
「……ぶっちゃけ、エイミアが拐われた原因は、絶望の獣拝み隊の皆さんの勝手な思い込みによる暴走ですか?」
「…………そうなりますね」
……この辺り一体、シラけた気がする。
「そ、そんな間抜けな理由でウチらは絶海を越えたんか……」
……エリザの一言が、私達全員の心の声を代弁していた。
「だけどエイミア姉を連れ戻さなきゃならないのは、変わりの無い事実と思われ」
あ、そうだったわね。
「なあエリーミャさん。さっき言うてた王国再興派やけど、本拠地はどの辺になるか知らへん?」
「王国再興派の本拠地というモノになるかはわかりませんが、最も熱心に取り組んでいるのが正統王国でしょうね」
「……名前からして『ウチが統一王国の正統な後継国や!』って言いたいんやな。そらそんな国なら、間違いなく王国再興派やろな」
「場所は?」
「第三王国の隣、つまり私達がいる第五王国の隣の隣です」
第三? 第五?
「何でそんな国の名前なの?」
「全ての基準が統一王国だからです。この大陸の慣例で、統一王国から何番目にできた国か、国名に明記することになっているのです」
「つまり第三王国も第五王国も、ちゃんと正式名称があるのね?」
「ええ。それぞれ王家の姓の後に第○王国と付きます。この国の場合は『フロントリア第五王国』となります」
なるほど。大陸によっていろんな慣例があるのね……。
「じゃあ正統王国は何番目や?」
「確か三十八番目かと」
第三十八王国!?
「せ、正統王国とか名乗ってる割に、意外と歴史が浅い王国なのね」
「数年前に『王国再興』を掲げて数ヶ国が合併してできた国です。当初は『統一王国の正統な後継国だから、第二を名乗る』と宣言していたのですが……」
「ああ、実際の第二王国が許さなかったとか?」
「それもありますし、周りの国もそれを承認しませんでした。協議の場は持たれましたが結局決裂。今では正統王国と名乗るようになり、大陸の慣例を破ったのです」
慣例は破るためにあるんだけどさ。
「……じゃあエイミアは、正統王国にいる可能性が高いわね」
私は小声でエリザに「道はわかる?」と聞いてみると、小さく頷いた。マジで便利ね、人間世界地図。
「エリーミャさん、私達はその正統王国ってのに行ってみます。王国再興派がエイミアの拉致に関わっているなら、何かしら手掛かりはあると思いますから」
「そうですか。私もその可能性が高いと思います。何か必要なモノがあれば仰って下さい。準備できるモノでしたら手配しましょう」
「そうですか? 食料が心許なかったので助かります! ……えっと、正統王国までは何日くらいですか?」
「この道のりなら、大体一週間くらいやな。近道なら四日くらいやけど、止めといた方が良いと思うで」
「エリザありがと。一週間だから……十日分くらいお願いします。干し肉と干し野菜を特に」
「わかりました。二日程で準備できると思います」
まだ何かいるかな……。
「サーチ姉、灯り」
あ、そうだそうだ!
「何か灯りがあれば、いただけないでしょうか?」
「え? 何もお持ちではないのですか?」
「ランプだと手が塞がって不便で……」
「ならば良いモノがあります。そちらも準備しておきましょう」
「ん〜……以上ですね。また何かあればお願いします。それで、お会計は……」
「あ、いりませんよ。孫娘の友達からは何も頂けません」
「よ、よろしいんですか? ありがとうございます!」
よっしゃ、ラッキー。
「ただし」
げ。交換条件ありか。
「……どうか、孫を……エイミアをよろしくお願い致します」
そう言って深々と頭を下げた。
「もちろんです。必ず救出してみせます」
「……エイミアは良い友達に恵まれましたね。これで私も安心です」
でも準備ができるまで二日間かかるんだっけ。どうしよっかな……。
「あ、それと、準備が完了するまでこの村に滞在して下さい。遊牧民の村ですので、全て仮設なので申し訳ないですが」
仮設というより移動式住居。モンゴルのゲルに近い。
「いえいえ、そこまでしてもらうわけには」
「そう仰らずに。温泉が近くに湧いていますので」
がしぃ
「ぜひお世話になります」
「は、はあ。すみません、肩が痛いのですが」
「それで温泉はどこに?」
「こ、この屋敷の裏に「いやっほうっ!」て、え? ええ?」
「……サーチ姉の温泉好きはもう病気」
「……リジーにだけは言われとうないやろな」