第十四話 ていうか、泣いて立ち直り、泣いて立ち直り……。
「ま、まさかのエリーミャおばあちゃんだったとは……」
「おばあちゃんは止めて下さい。泣きますよ? 今すぐ泣きますよ? あなたの胸にすがり付きますよ?」
「わかったから! わかりましたから! マジでウザいんで止めてください!」
「ウ、ウザい? 私が? ………ぴええええええっ!!」
あーもー! 精神的な防壁が脆すぎてすぐに崩れるから、ヘタな事が言えないじゃない!
「えええぇぇぇ………失礼しました」
防壁の再建はめっちゃ早いな!
「そこまでお気付きならば、もはや隠し事はしますまい。私の知っている事は全て話しましょう」
ふうん……「私」の知っていることねぇ……。「私達」じゃない以上、はぐらかされる可能性もあるか。まだ完全に信用したわけじゃない、ってことか。
「全部やな?」
「はい、全部です」
「じゃあバストサイズをぐげぇ!」
「あんたは学習能力がないの!?」
「ふぇ!? ……ぴええええええ!!」
「あんたもいちいち泣くな! 話が進まないんだよ!」
「そうですね、ちゃっちゃと進めましょう」
「立ち直りが早すぎるわああああっ!! ていうか、つっこみで蓄積された疲労感がハンパないわああああっ!!」
ぜーっ、ぜーっ、ぜーっ。
「サーチ姉、落ち着いて。はい水」
「あ、ありがと……」
水を一気飲みする私の傍らで。
「うぐぐぐぐ……み、鳩尾の連撃は流石にキツいで……」
「ぴええええええ! ぴえぴえぴええええええ!!」
お腹を押さえて唸るエリザと、頭にでっかいたんこぶを作って号泣するエリーミャさんがいた。
「しばらく時間を空けた方がいいと思われ」
「すみませんでした、もう大丈夫です」
…………もうつっこむの止めた。
「まずはエイミアの事をお話ししましょう。エイミアの出生についてはご存知の事と思いますが、エイミアがこの大陸に拉致される原因となったのは……私の血筋にあります」
エイミアの血筋……そういうことか。
「私達が鬼人族だという事でお分かりだと思いますが、私達一族は」
「ラインミリオフ王家の血筋……ということですか、やっぱり」
「! ……そこまで気付いていらっしゃったのですか。流石、としか申し上げられませんね」
いやいや、この展開だとそれしか想像できませんから。
「じゃあ……あなたが」
「はい。私の本当の名はエリーミャ・ドゥルト・ラインミリオフ。最後の王、ドゥルト四世の末娘です」
………………え? ええ? えええ?
「ま、まさかの王女様ご本人!? てっきり子孫なのかと……」
「表向きはそうしてあります。本人だと知られれば、流石に命の危険がありますので」
エリーミャさんの説明によると、エリーミャさんの血筋がラインミリオフ王家のモノだということは、この国では公然の秘密らしい。本人ならいざ知らず、その子孫にまで手を掛けるつもりはない、というのがこの国のスタンスなんだとか。
「その代わりに、私達は一切王家の名を名乗らない、というのが条件ですが」
……まあ生かしてもらえてるだけでもありがたいか。国の存亡の際に王家の血筋は皆殺し、なんてのはよくある話だし。
「私はこのインスマス族の皆さんに匿われて生き延び、やがて次期族長と恋仲になり、結婚しました。そして数十年後に夫が亡くなった時期に合わせて私も死んだ事にし、この国の王と先程の盟約を交わしたのです」
「あれ? けどエリーミャさんって名乗ってるんじゃ?」
「族長が代々受け継ぐ名前、としてあります。私は表向きは十八代目のエリーミャなのです」
「十八代目っ!? ちゅう事は、年齢は」
「女性に年齢の話は禁物だ、と言ったはずですが?」
「か、堪忍してえな! もう涙目になってるやんか! あ、あ、泣いてもうたあ〜うぐっほぅ!」
……あんたはもう黙ってなさい。
でも……鬼人族って、めっちゃ寿命長いのね……。十八代分歳を取ってもアレだもんね……。
「また話が逸れましたが、私は二人の子供に恵まれ、上は現在王都で働いてますが、下の娘が……」
「……エイミアのお母さん?」
「はい……あの娘は昔から冒険心が強く……」
……ぼ、冒険心……?
「成人する直前に、隣町に行ったっきり行方不明に……」
何で隣町へいくだけで、行方不明になる?
「その二、三ヶ月後、手紙が届きました。『今違う大陸にいます』と」
おおいっ!? 隣町から何で違う大陸に飛んだ!?
「その後、文は交わし続けましたが、子供が産まれた、という知らせを最後に……」
「その子供が……エイミアだと?」
「名前は私に決めてほしい……と文があり、返事をしたのが最後の文となりました……うぅ……」
……あ、目頭に……。
「ふぐっ……ぴええええええっ!!」
……雰囲気が一気に台無しになっちゃった。せめて「ぴえええ!」じゃなければねえ……。
「……度々すいません。どうも歳のせいか、涙腺が緩んじゃって……」
いいからさっさと話を進めろ。
「数年前なのですが、王都にいる長女から念話があったのです。怪しげな男達に『統一王国を再興しませんか?』という誘いを受けたと」
いよいよ核心ね。
「ただし、長女が既婚だとわかると『純潔でなければ意味が無い』とあっさり引き下がったとか」
純潔? 王国再興を目指してる割には、古いこだわりね。手段を選んでる余裕はないと思うけど。
「そこでエミリーに白羽の矢が立ったのですが」
「ああ、そうよね。エミリーさんにはすでに子供がいる以上、純潔なわけがない。だからその子供のエイミアにお鉢が回ってきたのね」
「はい。どこでエイミアの存在を聞きつけたのかはわかりませんが……」
……おそらく、向こうの大陸との連絡手段を持ってるんでしょうね……。
「それじゃエリーミャさんは、王国再興派のしわざだと?」
「王国再興派ですか、そう呼ばせてもらいましょう。それだけではなく、その再興派に違う組織も絡んでいます」
「違う組織?」
「何や、ややこしい話になってきたんやな。利害の一致する組織と手を組んだんか?」
「そうですね、利害が一致しているといえばしています。ですが王国再興派は、一番組んではならない組織と手を組んだのです」
一番組んではならない相手?
「あなた方も無関係ではありません。この世界と対となる存在」
この世界とって……まさか!?
「絶望の獣!?」
「そうです。この暗黒大陸には、破壊神として絶望の獣を奉る組織があるのです」
な、何て悪趣味ではた迷惑な組織なの……。
「そして奴等は、あなた方が絶望の獣を再封印した事も知っています」
……そうか。エイミアのことも知ってるんだから、絶望の獣の騒ぎも知らないはずがない。
「美徳戦士として選ばれたエイミアが、もしかしたら絶望の獣の封印を解く鍵となるかもしれないのです」
………はい?
まさかの絶望の獣再登場!?