第十三話 ていうか、絶壁エリーミャさんとの会談。
「さて、話を戻しますが……」
ホントに立ち直り早いわね!
「再度確認する事になって申し訳ないのですが、あなた方は『向こう側からの使者』でよろしいでしょうか?」
「使者じゃないけど、『向こう側』って言葉が私達のいた大陸を示しているんなら、そうなるのかな」
「でしたら……あなた方が『向こう側からの使者』である証はありますか?」
「あ、証やて!? 何でそこまで疑われなあかんねん! ウチらは客とちゃうんか!」
「疑って申し訳なく思います。ですが、これも必要な事なのです。どうか、どうか!」
……はあ。
「エリザ、ここまで言われちゃあ……」
「……そやな。あんたには族長としての立場もあるさかい、しゃあないわな」
そう言ってエリザは自分の魔法の袋に手を突っ込み、何か紙を取り出した。
「ほれ。これやったらウチらが別の大陸の人間やっていう証明になるやろ」
それって……。
「ありがとうございます。では拝見させて頂きます」
そう言うとエリーミャさんは、床にその紙を広げた。
「……!? こ、これは!?」
「ウチらが住んでた大陸の繊細な地図の一部。こんな場所があんたらの大陸のどっかにあるん?」
「…………ない、ですね。このような山脈や川、果てはこんな深い峡谷。この大陸にはありません」
「これで証明できたで、地図は返してもらうで。地図の流出は、負け戦の始まりやからな」
その通り! 地図があるかないかで、戦局は大きく変わるからね。
(でもよく地図なんて持ってたわね)
(あれは白紙や。≪上空風景≫を使って絵を投影しただけや)
……なるほど。やっぱ便利ね、世界地図って。
「さあ、証拠は見せたわ。今度はこっちからの質問に答えてもらいたいんだけど?」
「構いません。何でもお尋ね下さい」
「じゃあエリーミャのバストサイズをごふぇっ!?」
「エリザ、あんたって子はあああ!!」
「ぴ、ぴええええええっ!!」
「よしよし」
リファリスの側にいた時のエリザは、単なる幻だったのだろうか……。
「おほんっ! すみません、また話が中断しました」
「いえ、こちらこそすいませんでした」
足元でのたうち回るエリザを蹴飛ばす。
「それで、お聞きになりたい事とは?」
「あ、はい。一つ、なぜ私達がこの村を訪れることを知っていたのか」
「……ああ、『向こう側からの使者』の預言の事ですね? それは私達の村の巫女である婆様が、三ヶ月程前に御神託を受けられまして、その際に」
神託かあ……って、〝知識の創成〟はもういないのに、だれからの神託だったわけ?
「婆様によりますと『向こう側から参られた使者により、この大陸に光が届けられる』との事でした」
使者? エイミアを含んで?
「そして、『その者達を率いるのは、黒髪と黒い瞳を持つ、ほぼ裸の女性なり』と続いたそうです」
「………………マジで?」
「マジです」
……神託してきたヤツ、いつかブッ飛ばす。
「私達にとって御神託は絶対。ですので、あなた方を御迎え致しました」
この辺りは想像通りか。
「じゃあ二つ目。あんた達が竜の牙折りと名乗ってる理由」
「え? いけませんでしたか?」
「いや、そういうわけじゃないんだけどね。由来を知りたいだけ」
「これに関しましては……御神託によって決めた、としか申し上げようがありません」
「神託って……わざわざ自警団の名前を付けるのにも、その御神託によって決めるわけ?」
「私達も不思議なのです。このような些細な事で御神託があるなんて、今まで一度もありませんでしたから」
……これに関しては謎が残るわね。やっぱ神託してる本人を探すしかないか。
「あの〜……その神託してる人って誰なんですか?」
「それは……ごめんなさい。わからないんです。婆様が絶対に教えてくれないので」
いいタイミングでリジーが聞いてくれたけど……後でその婆様とやらに会ってみますか。
「それじゃあ最後の質問。エイミアって女の子を探して私達はこの大陸に来たんだけど、何か知らない?」
「先程から私と似ていると仰られてる方ですね。心当たりがあります」
「「「マジで!?」」」
「あ、あの、ちょっと。近いです近いです」
あら、失礼。
「え〜っと……確か二、三日前でしたか。ここから直線で100㎞離れた町で、私にそっくりな女性の目撃情報がありました」
「目撃情報?」
「ええ。私の知人がおりまして、私と間違えて声をかけたんだとか。しかし逃げるように走り去った為に、不思議に思った知人が私に念話してきたのです」
逃げた? 社交的なエイミアが?
「その時は『他人のそら似だろう』と、笑い話で終わらせたのですが……もしかしたらその方が、お探しの方ではないかと」
いろいろと腑に落ちない点があるし、一度その町を訪ねてみたほうがよさそうね。
「質問の方は以上でよろしかったですか?」
「あ、最後に一つだけ。族長さん、あなたは……鬼人族じゃないですか?」
それを聞いたとたんに、エリーミャの動きはピタリと止まった。
「な、何を言われるのですか? 私は鬼人族ではありませんよ?」
「まず、あなたの後ろに控えてるキツネ獣人の≪化かし騙し≫はとっく見破ってるわよ」
「ふぇ!?」
あ、壁が動いた。やっぱりそこにいたのね。
「姿を隠すだけじゃ丸わかりよ、キツネさん。今度は≪気配遮断≫も覚えなさい」
「ふ、不覚……」
「で、今の動揺で、エリーミャさんの角も丸見えよ?」
「「なっ!?」」
エリーミャさんは頭の上を確認する。やっぱり。
「まさかこんな手に引っ掛かるとは思わなかったけど……見えてないわよ、角」
エリーミャさんとキツネ獣人はハッとなり、悔しそうな表情を浮かべた。
「ま、まさか私もこんな手に掛かるとは……いつから気付いていらっしゃったのですか?」
「ん? 最初から」
「な!?」
「私達が使ってたのと同じパーティ名。あまりにもエイミアとそっくりな族長さん。そして、エイミアとエリーミャさんという似た名前。偶然もこれだけ重なれば必然になるわよ」
「……成程。思った通りに切れるようですね。流石は御神託によってリーダーに指定された方だ」
「あなたは……エイミアの何なの?」
「エイミアが生まれた経緯はご存知で?」
「……大体は」
「エイミアの母親、エミリーは……私の娘です」
「……はあああああっ!? あ、あんた何歳なの!?」
「それはお答えしかねます。私も女ですので」
み、見た目は私達と同じくらいだけど……エイミアのおばあちゃん!?