第十二話 ていうか、少しホラー臭がする始まり。
自警団の分隊と合流し、一路高原へと向かうことになった。私達のことを詳しく説明している途中、違う大陸から来たという話になった途端に。
「何と……『向こう側からの使者』であったか。わかった、族長に取り次ごう」
……となり、あっさりと族長との会見を許された。それにしても『向こう側からの使者』って?
私達からの話が終わると、今度は分隊長さんが自分達のことを語ってくれた。
「狂気山脈の麓のレン高原って……何なのよ、その名前の由来」
ク○ゥルー神話じゃないんだから……。
「この大陸には、我等の先祖が移住してくる前には、すでに人がいたらしい。その者達が付けた地名を、我々も引き継いでいるだけだ」
先住民のセンスか。
「先住民の始祖は、ある日突然空中に開いた穴から現れた青年で、黒髪黒目の平べったい印象の顔だったと言われている」
おい、それって……。
「名は『ヨースケ』と名乗ったそうだ」
明らかに異世界転移じゃねえかよ!
「ま、まさか地名もそのヨースケさんが?」
「そのようだ」
……そのヨースケってヤツ、絶対にオカルトマニアだ。
「……まさかと思うけど、あんた達ってダ○ンとかクトゥ○ーとかって神様祀ってないよね?」
「だ○ん? くつるー? 何だそれは?」
流石にそこまでバカじゃないか。
「さあ、あの丘の向こうが我らインスマス族の村だ」
そっちかよ! ていうかやっぱり始祖はバカだ!
(注! 狂気山脈、レン高原、インスマスというのは、クトゥルー神話に出てくる地名です。マニアックすぎるネタでごめんなさい)
村に入ったけど、お魚さんみたいな顔した人とかはいませんでした。ホッ。
「何? 族長に面会だと?」
「うむ。私が話を聞いてみたが、族長と直に話してもらった方がいいと判断した」
……ここで「駄目だ!」って言われたら暴れるか。
「この方々は『向こう側からの使者』だ」
「何だと!? ではあの方々が、婆様の言われる……」
向こう側からの使者っての……あの世から迎えに来たって印象だから止めてほしいな。
「まあ確かに『向こう側からの使者』やなあ、ウチらは」
「間違ってはないと思われ」
「でも話を聞く限り、この村の人達は『向こう側からの使者』……つまり私達の訪問を予見してたってことね」
「そうやな。分隊長達の話やと、婆様がすでにウチらの事を予言してたみたいやな。あ、婆様って巫女かいな? なら預言やな」
巫女の預言かあ……何せファンタジーな世界だから、あり得なくはないのよね。
それと異世界モノのパターンとして、ちっちゃい女の子が「のじゃ」みたいな語尾で話しながら登場して、実はこの方こそが婆様なんですぅぅぅ! ……みたいなことが想像できる。
「ほおう、この方々が『向こう側からの使者』じゃな?」
……何て考えてると、背後から声をかけられた。語尾的に婆様!? 勢いよく振り返ると……!
「あぁ、ありがたや〜ありがたや〜。長生きはしてみるもんじゃ。ありがたや〜ありがたや〜」
……リアル婆様でした。ていうか、何て絶妙なタイミングで話しかけてくるのよ、このおばあちゃん。
「ていうか『ありがたや』? 何で私達が『ありがたや』?」
「それは私から説明致しましょう」
お、今度こそ族長or婆様登場っすか? もう一回勢いよく振り返ると…………………へ?
「ようこそ、我らの村へ。私が族長を務めております、エリーミャと申します」
「「「…………」」」
「あ、あの。何か?」
「……エイミア?」
「は? あ、いえ。エイミアではなく、エリーミャでひゃう!?」
「エイミア、あんたこんなとこにいたの!?」
「意外と呆気ない再会やったなあ……」
「エイミア姉、無事でよかった!」
「な、ちょっ! 何なんですか、あなた方は!」
「何よ、そのかしこまったしゃべり方は! 久々に会ったのよ、ちゃんと普通に話しなさいよ!」
「? ……ちょい待ちいや。何かおかしいで?」
「……何か違和感」
「は、離して! 離してえっ!」
「だーかーらー、久々の再会なんだから……」
ぴたっ
ん?
ぴたぴたっ さわさわっ
「あ、ど、何処を触って……んん!」
あれ? あれれ?
「……ない。エイミアのアレがない」
あるのはゴツゴツの洗濯板……。
「ああ、そうや。この姉ちゃん、胸が無いんや!」
ピキィィィン!
……おい、言動に気をつけろ。こういうパターンはリルで学習……あ、そうか。エリザ、リルと旅したことないわ。
「む、胸が………ない」
「気にすんなや! 世の中にはなあ、ペチャパイの方が好きなけったいな男子もいるんやで!」
抉るな抉るな! エリーミャさんのライフがヤバい!
「それにな、こんな重いモノ二つぶら下げてると、肩が凝ってしゃあないんやで」
己のメロンを震わせて諭すエリザ。説得力0だよ!
……バタッ
あ、エリーミャさんのライフも0になった。
「どうせ私はペチャパイ……どうせ私は肩凝らない……」
族長の館に案内されてからも、ずーーーっといじけたままのエリーミャさん。あれは当分立ち直れないなあ……。
「何でや! 何でウチがど突かれなあかんねん!」
「やかましいわ! エリーミャさんの心に傷をつけて、さらに傷口を塩を塗り込みつつ抉ったのはあんたでしょうが!」
「ウ、ウチはホンマの事を言うたのに……」
それがダメなんだよ! リルが相手だったら半殺しじゃ済まなかったわよ!
「ていうか、あんたは巨乳はイヤなの?」
「こんなもんの何が良いんや?」
……やべえ、殺意が……。
「あの〜……エリーミャさん? エリザは成敗されたから、いい加減に立ち直って話を進めてほしい」
「わ、私は……私は……ひく」
あ〜あ〜、涙が……。
「ぴ、ぴええええええっ!!」
リジーに抱きついて泣き始めた……っていうか「ぴええ」って泣くのかよ! 微妙にエイミアの泣き方をかすってるな!
「ぴえええぇぇぇ…………もう大丈夫です。お待たせしました」
立ち直り早いな! 十秒くらいしか泣いてないぞ!
「改めまして、族長を務めております、エ・リ・イ・ミャ、と申します。エイミアではありませんので、以後お気を付け下さい」
「す、すいません。あまりにも私達の仲間とよく似ていましたので……あ、サーチです」
「エリザや。さっきは堪忍な」
「リジーです。以後お見知り置きを」
「先程からお話に出ています、エイミアさんという方。そこまで私と似ているのですか?」
私達は同時に頷く。顔立ちや身長、果ては黒子の位置まで同じだ。
「……双子以上やな……胸以外は」
「ふぐっ!? ぴ、ぴええええええっ!」
「あ・ん・た・は〜!」
「いひゃ! いひゃ! 堪忍してええええぇぇぇ!!」
……ち。エイミアほど頬っぺたは伸びないか。