第十話 ていうか、とりあえず引き上げたんだけど、オバちゃんとの会話中に意外な手がかりを発見する。
『ああ、それは盗賊団同士の争いさね』
結局何をしにいったのか、わからない状況で本拠地へと戻ってきた。で、ゴーストメイドさんに盗賊団のことを尋ねてみたのだ。
『この辺りは統一王国が崩壊した余波が残ってる地域なのさ』
と、統一王国!?
「質問や。統一王国って何なん?」
『……ちょっと待ちな。あんた達、統一王国の事もろくに調べずにいたのかい!? 城に籠ってた間、一体何をしてたんだい!』
「ウ、ウチは寝てた」
「呪われアイテムにうっとり」
「私はちゃんと調べてたから、統一王国が何かも大体知ってるわよ。ていうか、統一王国の崩壊って二百年以上前の話よね?」
『ほらごらんなさい。ちゃんと調べてる子は調べてるもんだよ。私の弟子を名乗るなら、それぐらいはしてもらわなきゃね』
「うぐぐ……」
『さて、ならお復習ついでにサーチに説明してもらおうかね』
まあいいけど……あんたがめんどくさいだけじゃね?
統一王国ってのは、まさに名前の通り、この暗黒大陸をずーっと長い間支配してきた王国だ。正式名称はカルガナン・ラインミリオフ統一王政共和国っていう長ったらしい名前で、大体は統一王国と縮められて呼ばれることが多い。要は「二つの王家が統一して政治を行う、名義上は共和国」ってことだ。
「それが約二百年前に滅んだんだけど……」
「ははあ……またまた革命やな?」
「違います」
「身の毛もよだつ呪いに襲われて」
「違うわよ。リジーは少しは呪いから離れなさい!」
「じゃあ何なん?」
「知らないわ」
「「は?」」
「私も気になって調べたんだけど、シロちゃんの蔵書の中には記されてなかったのよ。だから大陸に着いたら調べてみようと思ってたの」
「な、何やそれ!? ウチらばっか責められるはおかしいやん!」
「そうだそうだー。サーチ姉だって完璧に調べてたわけじゃないー」
『いや、合格だよ。そこまで調べてたんなら大したモノだよ』
「「……はい?」」
『わからないという結論に達したとはいえ、調べたか、調べてないか。その差は大きいよ』
「「ぐぬぬ……」」
「まさか、滅亡の要因は不明だっていうの?」
『その通りさね。統一王国が滅びた事は常識さ。だけどその原因については、どの書物にも記されていないんだよ』
「ちょい待ちいな。獣人やエルフみたいな長命種かていっぱいおるんや、誰か実体験してるのも」
『いたらとっくに伝わってるさ。滅亡に絡んだ人物は、ただの一人も生き残らなかったんだよ』
「な、何やそれ……ごっつぅ気味悪いな」
『気味悪いさね。私だってある日突然統一王国の瓦解を知らされて、茫然自失になったもんさ』
「ねえ、統一王国は安定はしてたの? いつ革命が起きてもおかしくない状態だったとか?」
『私がいたのはど田舎だよ? 都会の事は知らないねえ』
……うーん……なら。
「……最後の生き残りの王女の話は?」
『あ、あんたそんな話まで調べてたのかい!?』
そりゃあもう……時間は腐るほどあったから。
『……そういう話があったのは事実さね。当時の王家の末の王女が逃げ延びた、なんて噂が流れたねえ……』
「オバちゃんの見解でいいんだけど、ホントだと思う?」
『正直言って、眉唾モノだろうね。その手の話は、国が滅ぶ時にはよく出てくるもんさ』
そうね。ロシア帝国のアナスタシアなんて例もあるし。
『大体逃げ延びたところで、あれだけ目立つ外見じゃあね……』
「あれだけ目立つ外見って……ごっつぅ綺麗な子やったんか?」
『それもあるけどね、少数民族の鬼人族じゃ目立つろうさ』
……………はい?
「ちょ、ちょっと待って。今鬼人族って言わなかった?」
『言ったよ。統一王国の二つの王家の一つ、ラインミリオフ家は鬼人族なのさ』
き、鬼人族って……まさか。
「……拐われた私達の仲間も鬼人族なんだけど」
『な、何だってええっ!?』
エイミアの詳しい特徴を伝えたところ、『王家の方々の身体的特徴と合致するね!』……ということらしい。つまり。
「エ、エイミアは統一王国の王家の子孫って事か!? 勇者で王女様とは、これまたけったいな……」
「私達のいた大陸には、少数ながらも鬼人族がいたわよ」
『なら、王女と一緒に逃げ延びた家臣の末裔……って可能性が大だね。当時の鬼人族の重臣数名が行方不明になってる』
「サーチ姉、もしかして。エイミア姉が拐われた原因って、統一王国が絡んでるんじゃない?」
おいおい、エイミアを使って王国復興とか企んでるんじゃないわよね?
「師匠、王国を復興しよう! みたいな動きってあるん?」
『さっきも言ったけどね、こんなど田舎じゃ知りようがないよ。ただ、そういう動きがあっても不思議じゃないさね。王国崩壊後の荒れ様は、酷いもんだからねぇ……』
……だから盗賊が蔓延ってるのか。
「じゃあこの辺りの盗賊って野放しなの?」
『一番混沌としている地域だからねぇ。一応小さい国の領地なんだけど、取り締まる余裕は無いよ』
他の国とのつばぜり合いで精一杯ってとこか。
『ただね。最近自警団みたいなのが組織されて、あちこちで盗賊を討伐して回ってるらしいよ』
自警団?
「……あ、あれか。確か盗賊の頭が『騎馬隊』と『旗を立ててない』っていうのに反応してたわね」
『まさにそれだよ。自分達の領土を荒らされた遊牧民が、得意の騎馬でゲリラ戦法に打って出てるらしいね』
なるほど。それで騎馬隊に異様に警戒してたのか。
「でも騎馬隊でゲリラ戦法っちゅうのは、理に適ってるやん。なかなか頭の回るヤツが率いてるんやな」
『私も噂の類いでしか聞いてないからねぇ。詳しい事はわからないねぇ……あ、ただ』
「ただ?」
『その自警団の名前なら聞いたよ』
「名前かあ……どうでもええ情報やけど、一応教えてえな、師匠」
『確か竜の牙折りとか言ってたよ』
どがしゃあ!
ずどど! べしゃあ!
「な、何や。どうしたんや、サーチんにリジー」
「ド、ド、ド……」
「竜の牙折り!?」
『……何か心当たりがあるようだね』
「こ、心当たりも何も……」
「私達のパーティの最初の名前と完全に一致」
「な、何やて!? このパーティ、そんな恥ずかしい名前で活動してたんか!?」
やかましいわ!
『ん〜……偶然の一致にしては出来すぎさね』
「そのパーティ名を知ってるヤツ、結構おるん?」
「そりゃあ……向こうの大陸ではいるだろうけど、こっちでとなると……………私達くらいじゃないかな」
『……という事は、サーチの仲間の鬼人族も知ってるんだね』
……あ! エイミア!
「まさかエイミアが絡んでるってこと!?」
「あるいはエイミア姉を拐った連中が絡んでる……とも思われ」
……なら、その自警団に接触するしかないか。
「オバちゃん! その自警団の居場所って知ってる!?」
『本拠地ならわかるよ。北の山脈の麓の高原さ』
……よし、そいつらに会ってみるか。