第九話 ていうか、暗黒大陸で第一町人発見……が盗賊だったみたいで、早速討伐開始!
「あ! あれやないか!? うっすらと光が見えるで!」
うっすらとって……何にも見えないんだけど?
「サーチ姉、エリザが言う方角に複数の呪われ波動を観測した。間違いないと思われ」
何だよ、その呪われ波動って。
「呪われアイテムが複数あるってことは、人がたくさんいる証拠。なら町の可能性が高いわね」
「もしかしたら、盗賊のアジトかもしれへんで?」
「それはそれで結構。全員ブッ飛ばして、あるモノは根こそぎいただくまで」
「うっわ、悪党やな」
「いいのよ。『悪人に人権はない』っていう言葉を、有名な魔術士が残してるくらいだし」
「聞いた事ないんやけど……?」
「前世の書物に記されてたのよ。それよりどうするの? 目的の町かどうか、確証はないわ。盗賊のアジトって可能性も0じゃないのよ?」
「呪われアイテムが私を呼んでいる。今宵も介錯の妖刀が血を欲す」
……要は呪われアイテムが欲しいわけね。あんだけゴーストメイドから買ったのに、まだ欲しいのかしら。
「……ま、ホンマに盗賊かはわからんけど。サーチん、行こか」
ま、元々異論ないし。
「……久々に盗賊相手に暴れるのもいいか」
「エリザ、あんたって目は良いみたいね?」
「ん。これもカメレオン獣人の種族スキルの一つや」
……カメレオンの顔を思い浮かべて「なるほど……」と納得した。
「ならこの先は見える?」
「門があるな。二人の門番と……見張り台の上に三人くらいおる。見るからに弓兵やな」
弓は厄介ね。まずはそれを叩くか。
「……私が弓兵を何とかするわ。倒したら合図するから、門番をお願い」
「一人で大丈夫かいな? 手伝おか?」
「フル装備で壁を登れるんならお願いするわ」
「頑張れ、サーチん。心の底から応援してるで」
やかましい。
「さーて、楽しい悪巧みといきましょうか。聞いてくれる?」
見張りに気づかれないように近くの大木に取りつき、一気に駆け登る。
「……城壁の近くに木があるなんて、防衛上は失点よね。ま、おかげで私は楽に忍び込めるんだけど」
羽扇からワイヤーを作り出し、振り回して投げる。鉤爪になった先が城壁に引っ掛かる。
「……よし、成功。あとはワイヤーを木に巻きつけて……」
……できるかな。羽扇で≪偽物≫を発動させ、滑車をイメージする。
「……お、できた。こういうヤツもできるのね」
早速ワイヤーにつけて、ベルトに固定。そして躊躇なく身を躍らせる!
シャアアアアア!
おーおー。うまいこといってる。そのまま城壁のてっぺんに飛びついて侵入成功。あとは≪偽物≫を解除すれば……はい、証拠隠滅も完了。マジ便利だわ。
そのまま≪忍び足≫と≪気配遮断≫を使って、ゆっくりと弓兵達の背後に回り込んだ。
「…………」
一人で見張ってる方は……寝てるわね。職務怠慢だぞ、こら。
「ふぅーっ」
念のために弓兵の周りに、強力な毒を撒いておく。よし、これで起きたとしても問題ないだろう。
「じゃあ向こう側も始末しますか」
再び闇に紛れた。
「おい、向こうの見張り、完全に眠ってやがるぜ」
「あんにゃろ……後でとっちめてやる!」
……よし、向こうの弓兵のことは気づかれてないみたいね。二人とも隙だらけだし、実力行使でいきますか。
「……ふんっ!」
ごっ!
「かはっ!?」
「な!? 貴様、何者」
ブズリ!
「ぐふっ!?」
口を塞いで、針をさらに深く。
ズブブ!
「ぐぅぅぅ! ……ぅ」
白目を剥いて倒れる弓兵。気絶した方の弓兵にも針を突き刺し、止めを刺す。
バタッ
あ、向こう側の弓兵も倒れた。毒が効いたみたい。
「はい終了〜。下をお願いしま〜す」
発光弾を投げて合図を送った。手筈通り動いてよ?
ポンッ! ポポン!
「な、何だ!? 何の音だ!!」
「あ、サーチ姉の合図」
「よっしゃあ、いくでえ!」
タタタタタ!
「き、貴様ら何用か!」
「シールドバッシュ!」
ごがんっ!
「べげっ!」
「た、楯突くつもりか!」
「盾だけに? ≪呪われ斬≫」
ザシュ! バタッ
「エリザ、止めを」
「必要あらへん。見てみ」
「…………死んでる。シールドバッシュ一撃で?」
「タワーシールドは重量があるさかい、一撃でも相当な威力やで」
「……そうでっか」
ガシィ
「……リジー……」
「冗談冗談」
ガタッゴトゴト
「あ、門が開くで。一旦隠れるで」
「らじゃ」
「ら、らじゃ?」
お、騒ぎになってる。あの二人、うまいことやってくれたみたいね。
「賊だ! 賊が侵入したぞ!」
「くそ、見張りは何をしてやがった!?」
そろそろ死んだ弓兵達も見つかる頃か。次はリジーの≪化かし騙し≫ね。
「リジー、うまくやってよ?」
……ドドドドド……
「な、何だ、あの音は?」
「も、申し上げます!」
「どうした!?」
「た、た、大軍がこの町に迫っています!」
「な、何ぃ!? ならば先程の騒ぎは……!」
「おそらく敵の工作員かと思われます。我らが町に立て籠れば、内部で騒ぎを起こす手筈なのでしょう」
「お、おのれえええっ! すぐに防衛の準備を! それから大至急使者を出し、援軍の申請を!」
「「はっ!」」
バタバタバタ……
「ま、まさかこの時期に……!」
「リジー、お疲れさん。中の人達はすっかり騙されてるわよ」
「実際に攻め込ませる? ある程度は騙せるけど」
「包囲するだけでいいわ。脅してもらえれば、それでOKよ」
「脅すって……サーチんは一体何がしたいんや?」
「ん、ちょっとね。ボロが出るのを待ってるだけよ」
「どこの軍だ!?」
「わかりません! これといった旗印は立てていません!」
「数はおよそ五千! ほとんど騎馬隊です!」
「騎馬隊で無印……く、また奴らか!」
「どう致しましょう? 数が数だけに……」
「狼狽えるな。相手が騎馬隊である以上、持久戦には不向きだ。このまま立て籠り、援軍の到着を待つまでよ」
「……この町もそろそろ潮時では?」
「そうだな。絞り取れるモノは絞り取って、とっとと退散するとしよう」
その頃、お偉方が集まる部屋の天井裏。
「ようやくボロが出てきた……正規の軍っぽいけど、お互いを階級で呼び合ってない。やっぱり盗賊か」
それもとびきり統率がとれた、軍隊以上に軍隊っぽい盗賊。
「でもこういうのは、頭が潰されると脆いのよね」
天井裏を通る魔術空調に穴を空けると、さっきと同じ毒を流し込んだ。
「はーい、盗賊のみなさーん。さっさと武器を捨ててくださーい」
「な、何だ、あの女は!?」
「あなた方のお頭さん及び幹部のみなさんは、全員仲良く毒殺されました。これが証拠でーす」
城壁の上に並べておいた首を指差す。
「か、頭!!」
「そんな、若頭まで!?」
「外は包囲されてますので逃げ場はありませーん。さっさと投降を……ん?」
あれ? あちこちから一般市民のみなさんが?
「盗賊団の頭は死んだぞ!」
「もう俺達は盗賊には屈しない!」
「今こそ自由を取り戻すんだ!」
「全員立ち上がれ! 続けえええ!」
「「「おー!!」」」
あら? あらあらあら?
「何や何や? 突然革命が勃発したで?」
「……これがサーチ姉の狙い?」
違うわよ!
「……ていうか、これだけ激しい反発が起きたってことは……」
「相当抑圧されてたんやな」
そして、半日もしないうちに盗賊団は壊滅し。
「「「ばんざーい! ばんざーい! 自由にばんざーい!」」」
「……ほら、さっさと逃げるわよ。うかうかしてたら、祭り上げられるだけだわ」
「……何で盗賊団を討伐したウチらが、コソコソ逃げなあかんねん……」
「の、呪われアイテム、一つもゲットできなかった……」
……一体何しにきたのやら、私達は……。