第八話 ていうか、旅立つ前にゴーストメイドのオバちゃんから、いろいろ装備を貰っちゃう!
「ふわあ〜……いい朝……って感じ皆無ね」
灯台改め始まりの団本部で、初めての朝を迎えた私達。だけど真っ暗なので、朝って感覚はカケラほどもない。一応標準時間では朝なので、起きてはみたものの……。
「リファリス様、リファリス様ぁぁぁ……すぅ」
「呪われろ……呪われてしまえ……すぅ」
……二人とも完全に時間の感覚がずれていた。
「二人ともー、起きなさい。朝よ」
「そんな〜……リファリス様ったら大胆……すぅ」
「私の眠りを妨げる者は呪われてしまえ……すぅ」
……二人ともどんな夢を見てるのか、めっちゃ気になる。
だけどこういうことはきちんとしとかないと、習慣ってすぐに崩れちゃうからね。≪偽物≫で羽扇を銅鑼に変え、おもいっっっきり。
どぅわああぅわぅわぅわぅわあああんんんっ!
「ひぎゃああああああ!」
「ぎぃあああああああ!」
……鳴らした。
「おはよう。朝だから起きなさい」
「あ、朝って……まだ真っ暗やん! もう少しでリファリス様と!」
「……平穏な眠りを妨げたサーチ姉なんか、呪われてしまえ」
ぼわあああああああん!
「ぴぎゃい!」
「あひゃあ!」
「……起きるか、耳から血を流すか、好きな方を選びなさい」
「「……起きます」」
……しばらくこんな朝が続きそうだ。
『何だい何だい! 朝から近所迷惑な音を立ててるんじゃないよ!』
「何をしても起きない、あの二人に言って」
「な!? ウチらが悪い言うんか!?」
「リジーはともかく、メイド長してたあんたが、朝起きれないのはおかしい」
「う゛っ!」
シロちゃんの城にいるときは、あまりの寝起きの悪さに手を焼いたのだ。
「リファリスのとこにいるときはどうしてたのよ?」
「……リファリス様に起こされてた」
おいっ! 主人に起こされるメイドって、その時点で落第だろ!
「大体同じベッドで寝てたから……」
……あ、そういうこと。毎回二人で朝チュンって、お盛んと言うか、体力あると言うか……。
「そーれーよーりー、朝ご飯! 朝ご飯!」
「リジーうるさい。待ってなさい、もうすぐできるから。オバちゃん、皿を並べといて」
『あいよ』
シュパシュパシュパ!
タタタタン!
『終わったよ』
早っ! ていうか全部投げてなかった!?
「じゃ、じゃあできたから盛りつけまーす」
「「わーい」」
……何か……給食のオバちゃんになったような感覚なんだけど……。
『……じゃあ行くんだね?』
「ええ。今回はオバちゃんに聞いた町に行くだけだから、一、二週間で戻ってくるわ。だから……」
『ん?』
「その間に塔をちゃんと掃除しときなさい! 時間はあるんだから、隅々までやっときなさいよ!」
『わかったさね。ちゃんとやっとくよ』
……サボりそうな気がする。まあいいけど。
「さて、じゃあ行きますか。またね、オバちゃん」
「師匠、譲ってくれた装備は大切に使うで!」
「またすぐに戻ってくる……と思われ」
『達者でねー! サーチはお腹剥き出しなんだから、冷やすんじゃないよー!』
余計なお世話だっつーの! ていうかエリザ笑うな!
『……やれやれ、行ったね…………もしもし、ヒルダかい? あんたが言ってた子達、先日こっちに来たよ』
『そっかあ、無事に着いたのね〜』
『……あんたが目をかけてるサーチって子、まだまだ強くなるね。気に入ったよ』
『あらあら、世界で一番厳しい教官と言われたあなたに気に入られたんじゃ、さーちゃんも前途多難ねえ』
『なあに、死なない程度に鍛えるよ』
『ま、元ギルド最高幹部のあなたなら大丈夫だと思うけど……程々にね?』
『わかってるよ。〝蹴鬼〟のシュテフの名にかけて、ちゃんと育ててやるよ』
ゾクゾクッ
「!!?」
「ん? どうしたんやサーチん?」
「な、何でもない。急に寒気がしただけ」
「ふーん。やっぱ腹冷やしちゃあかんのや。ビキニアーマー止めたらええやん」
うるさいっての!
「そういうあんたも、そんな重装備で大丈夫なの?」
「全く問題あらへん。軽いくらいやな」
エリザはゴーストメイドのオバちゃんから、女性用のプレートアーマー一式を譲ってもらったのだ。さすがに女性用だけあって、非常に露出度が高い。胸の谷間はもちろん、太ももに二の腕、脇腹まで剥き出しだ。ビキニアーマーには負けるけど、これもなかなか男性には人気が出そうなデザインだ。
「それより……プレートアーマーの上からエプロンは必要なの?」
「必要や! これはウチのアイデンティティーやで!」
さいですか。
「そう言うサーチんも、ビキニアーマーもろたんやろ?」
「ん、まーねー」
ずっと使ってたビキニアーマーもだいぶ自然修復力が落ちてきてたので、オバちゃんからもらったビキニアーマーを装備してる。またソレイユに修理してもらうまで、魔法の袋で冬眠。ご苦労様でした。
「緑甲亀の甲羅やったな、材料」
……何で私のビキニアーマーの素材は、亀が多いんだろう。
「でもよく伸びるのよ、これ。でも肝心な箇所はしっかりガードされてる感じね」
つまり、ボタンが二つ浮き出る心配はないのだ。
「リジーも新しいのを装備してるわね。呪いは何?」
いつもなら過剰なくらい全身を覆うリジーだけど、今はかなり身軽な格好だ。いつもの妖刀と一緒に、例の物騒な弓も 背負っているので、見た目は完全な弓術士だ。
「この鎖帷子は、モンスターの骨肉を練り込んだ鉄でできてる。装備してるとモンスターの怨嗟の声に包まれて発狂する」
練り込むなよ。誰だよ、作ったヤツ。
「このスカートは斬り殺された子爵夫人が着ていて……」
「リジー、もういいわ」
「ウチも聞きとうない」
「そう? まだ靴と下着とリストバンドとバンダナと」
「ちょっと待ってよ。全部呪われアイテム?」
「うい」
「全部初めて見るんだけどさ、いつの間に揃えたの?」
「全部エリザのお師匠さんから」
「貰ったの!?」
「もちろんそれ相応の代償は払った」
…………つまり買ったのか。
「でもお金あったの?」
おい、なぜ逃げる。
がしぃ
「ぐえ!? サ、サーチ姉くるひぃ」
「リジー、最近パーティのお金がゴソッと減ったんだけど、心当たりないかしら?」
「し、知らぬ」
「何言うてんねん。リジー、一昨日の夜にサーチの魔法の袋、持ち出してたやん」
「み、見られてた!?」
あっさり白状したか。
「リジー……半年、小遣い無しだからね」
「そそそそんなあ! サーチ姉、お慈悲を!」
「ダーメ! これでもかなり寛大な処分なんだからね!」
「な、なあ、サーチん。反省してるみたいやし、今回は大目に」
「じゃあエリザの小遣いで補てんを」
「リジー。責任はちゃんととらなあかん」
「エリザが裏切った!?」
……こんな感じだけど、旅は驚くほど順調に進み。
本来なら四日かかる行程は、半分の二日間で済んでしまった。そうして着いた町で「……もっとゆっくり来るんだった……」という事態に遭遇する。